【完結】わたしが愛されるはずがなかったのに~冷酷無比な男爵は高額買取した奴隷姫を逃さない~

藤原ライラ

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 本当に何もさせてもらえなかった。

 熱が下がってからは自分の部屋に戻ることを許されたが、結局一週間も寝台の上でごろごろと寝転ぶばかりで過ごした。
 そろそろ皿の一つでも洗いに行こうかと思うと、

「お嬢様、まだ旦那様のお許しは出ておりません」

 悪魔の使いたるロイクに止められる。この人は本当に穏やかな執事なのだが、どうしてだがこう、有無を言わせない強さがある。微笑みながら寝台の上に戻されるのである。

 シャルル本人は、朝と夜にアネットの様子を見にやってくる。かといって、大した会話をするわけでもない。「具合は」とか「食事は取ったか」とか短く聞かれる。

 あとは、大体カウチに座っているだけだ。そして、しばらくするとロイクが呼びに来て、自室に戻っていく。

「あの」
 違和感というほどではない。

「なんだ」
 鋭い紫の目が、アネットを見つめる。

 今日も彼は眩しいほどに輝いているし、立ち振る舞いに一分の隙もない。どこからどう見ても完璧なお貴族様である。

 けれど、どうしてだろう。なんだか少し、

「お疲れ、ですか?」

 訊ねれば、不愉快極まりないというようにぐっと眉間に皺が寄った。

「……お前が考えるようなことじゃない」
 シャルルの返事は素っ気ない。すっくと立ちあがった彼はそのまま、アネットの部屋を出て行こうとする。

 よくない。全然よくない。何より、これでは何の回答にもなっていないではないか。

「どうして、ですか?」
 その手を掴もうとして、触れられるのが嫌だと聞いたことを思い出す。躊躇った手は結局そのシャツを引っ張るような形になる。

「他にもっと考えることがあるだろう。その頭の中には藁でも詰まっているのか」
「散々人にゆっくりしろとか、自分のことを考えろとか言ったくせに!」

「お前のような間抜けとは違って、私は自己管理ができているからな。何の問題もない」

 それは、確かにそうなのだろう。返す言葉を失って、恨みがましく金色の頭を見上げることしかできなくなる。

「何か、わたしにできることはありますか」

 ぎゅっとそのシャツを握り締める。誰かが丁寧にアイロンをかけたそれに皺が寄って、影が落ちる。

 働きもせず、授業も受けず。いつか売り飛ばされる予定だとはいえ、今の自分は奴隷として何の役目も果たせていない。それでもこの屋敷にのうのうと居ていいのか、アネットには分からなった。

「旦那様のお役に、立ちたいです」
 そう言うと、シャルルの顔がますます険しくなった。

「お前は、言葉の意味を分かって言っているのか」
「えっ」

 当然、その通りの意味だけれど。
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