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34.糾弾

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 気を抜くと、馬車の揺れに眠ってしまいそうになる。

 本当は今もあの場に居たかったのだが、今日の呼び出しはこちらから断れるようなものではない。ロイクがいれば何も問題はないだろうと想像はつくけれど。

 果たして、アネットは大人しくしていてくれるだろうか。出かける時は、彼女にしては随分と殊勝な顔をしていたが。

 あれは、目を離すとすぐぷいっとどこかに行ってしまう気がする。本当に、猫のようだ。

「首に鈴でも付けておけばいいのか」

 まあ、悪魔たる自分は鈴の代わりにネックレスを奪ったわけだが。
 昨日の話によればあれはそれこそ、何か母に関する思い出の品なのかもしれない。

 返してやるべきなのか、少し迷う。けれど、シャルルは気紛れな猫を自分の元に留め置く方法をほかに知らない。

 ――どこにもいかないで。

 アネットは熱に浮かされて、縋りついてきた。
 必死で自分の腕を掴んだ、熱い手。その小さな手の感触が今も、残っている気がする。

 身を縮めて震えていたアネットのそばにいることしか、できなかった。

 知っているはずだったのに。
 大切な人が自分を置いて行ってしまう寂しさを。何もできない無力さを。骨身に沁みて、誰よりも分かっていると思っていたのに。

 シャルルは一度、目を閉じた。
 浮かんでくるのは、薄暗い部屋。湿気を含んだ黴の匂い。

 痩せこけた子供が、こちらを見ている。その目だけが、ぎらぎらと小さな体躯に似合わない恨みを宿している。

 ――わたしはずっと、あなたと一緒よ。

 笑った顔。最後にそう、囁いた声。
 大丈夫。まだ思い出せる。忘れてはいない。

 絹の服を着ても、贅を尽くした食事を口にしても、豪奢な馬車に乗っていても。本当の自分はいつもここに居る。

 どこまでいっても、これ・・からは逃れられない。過去は変わらずにそこにある。あの紫の目がいつも、シャルルを糾弾するように追いかけてくるのだ。

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