【完結】わたしが愛されるはずがなかったのに~冷酷無比な男爵は高額買取した奴隷姫を逃さない~

藤原ライラ

文字の大きさ
上 下
20 / 87

20.執事のお小言

しおりを挟む
「言ってみろ」
 仕方ない。安眠の為には執事のお小言の一つくらい聞くとしよう。そもそも老い先短いというほどの年ではまだないと思うが。

「まさか旦那様が夜伽のお相手をご所望でしたとは、このロイク気づきませんで。大変に失礼をいたしました」

「それは……」
 この屋敷で起きることは全てロイクの耳に入ると言っていい。先日の検品の件がバレている。

「あれは、そういうのじゃない」
「では、どういうの、でございましょう」

 ちょっと脅かしてやろうと思っただけだったのだ。あんな恰好をして、自分が男の目にどう映るかも考えが及ばない。本当に何も分かっていない小娘だ。それなのに、ただただ突っかかってくるからこちらも引っ込みがつかなくなった。

 もっとも、その相手に自分があんなふうになるとも思っていなかったけれど。

「私が日々どれほど苦心してご結婚の申し出をお断りしているか、旦那様にも知って頂きたく存じます」
「知っている」

 これでも資産にはちょっとばかし恵まれている成金貴族なので、嫁の貰い手には事欠かない。それを片っ端からロイクには断ってもらっている。自分が誰かと添い遂げるだなんて、到底考えられなかった。

「坊ちゃん」
 そう呼ぶ声の端々に、非難のようなものが宿っている。子供の頃はずっとそう呼ばれていたけれど、今ロイクがシャルルのことをこう呼ぶのはたしなめる時だけだ。

「たとえお心の中でどんなに大切に思っていたとしても、口にしなければそれは伝わりません」

 真っ直ぐにこちらを見つめてくるその目と、どう向き合えばいいのか分からなかった。逃れる様にそっぽを向いて、シャルルは呟く。

「一体、なんの話だ」

「ともに過ごせる時間は思っているよりも短いもの。離れてしまってから気づいても遅いのです」
 自分の倍は生きている執事の言葉には重みがある。

「どのような出自の方かはまだ分かりません。ですが、アネット様はご気性の素直な明るい御方です。おそばに置きたいと思われるのなら、」

 けれど、ここから先を自分は聞いてはならない。

「ロイク」

 遮るように、強い調子でシャルルは言った。

「僕が奴隷を好きになれるはずがないだろう」

 そう、好きになれるわけがない。
 それは、ロイクもよく分かっている。その証左のように彼は深く頭を下げた。

「……出過ぎたことを申しました」
「いや、いいんだ」

 ロイクの言うことはいつも正しい。
 このまま進んではよくない。これは、商品に抱くには過ぎた執着だ。

 分かっている。分かってはいるのだ。
 そこからどうすべきかは、別として。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

処理中です...