【完結】わたしが愛されるはずがなかったのに~冷酷無比な男爵は高額買取した奴隷姫を逃さない~

藤原ライラ

文字の大きさ
上 下
5 / 87

5.契約成立

しおりを挟む
「だから、返してって言っているじゃない」

 貴族の彼からすればこんなもの、珍しくもなんともない玩具のようなものだろう。もっと大きな宝石が飾られたものも、その首が足りなくなるほど持っているに違いない。けれど、これは世界に一つしかない母の形見なのだ。

 シャルルはまだ、ネックレスをしげしげと眺めている。

「なるほど。なら、これを担保にお前の“心意気”を買ってやる」
 銀の煌めきは悠然とした横顔に落ちて、ふわりと彼を彩る。

「そうだな……三ヶ月」

 シャルルは左手の指を三本立ててみせた。

「期間は三ヶ月だ。それまでに見事五百万クレールを払うことができたなら、あの契約書を売ってやろう。そうすれば、お前は晴れて自由の身だ」

「いいわ、そうしましょう」
 これで三ヶ月は猶予がある。その間にお金のことはどうすればいいか考えればいい。少なくとも今すぐ変態に売られるよりは余程いい。

「けれど、こちらからも条件を出させてもらう」
「なに」

「買い付けたものをそのまま、右から左に流すだけではつまらない」
 ネックレスを見つめていた紫の目がふっと緩んで、一つ溜息のようなものを吐いた。

「お前をどこかの貴族の令嬢だということにしよう。それに相応しくなるように、三ヶ月の間みっちり教育・・を受けてもらう。いい考えだと思わないか、ロイク」

 随分と弾んだ声で、彼は傍らに立つ執事を見遣る。

「野良猫を貴婦人に仕立て上げて、高く売る。暇つぶしにはもってこいの余興だ」

 なんて言い草だろう。アネットの行く末なんてシャルルにとっては、余興程度のものでしかない。とんでもない詐欺の片棒を担がされようとしている。

「上手くいかなくとも、野良猫は野良猫として売り払う。私が損をすることはない」

 与えられたのは慈悲ではない。ただの気紛れだ。例えば、人が地を這う蟻を眺めるような、そんな。
 アネットの目の前にいるのは、正しく悪魔なのだ。
 今もきっと、頭の中で損得勘定だけをしている。人の心なんてあるわけがない。

「どのみち、私の手元には五百万クレール以上が手に入る。三ヶ月でこれなら、投資としては悪くない」

 その気になればいつだって踏みつぶせる。
 見下すような、そんな目をしていた。

「さあ、どうする?」

 これは問いかけの皮を被った命令である。どのみちけしかけてしまった以上、こちらはこれを飲むしかない。
 わたしはもう、悪魔に首根っこを掴まれている。

「分かった」

 首を縦に振って、頷いた。きっとこの男はアネットが音を上げると思っているのだろう。到底貴族令嬢なんかにはなれないと決めつけている。そのことも、どうしてだがたまらなく腹が立った。

「やってやろうじゃないの」

「契約成立だな」
 にたり、と男は片方だけ口角を上げて笑う。

「さて、私が支払った以上の価値を、お前は示してくれるんだろうな?」

 その歪みでさえ目を奪ってやまないのだから美形というのは本当に得だと、アネットは思った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

獅子の最愛〜獣人団長の執着〜

水無月瑠璃
恋愛
獅子の獣人ライアンは領地の森で魔物に襲われそうになっている女を助ける。助けた女は気を失ってしまい、邸へと連れて帰ることに。 目を覚ました彼女…リリは人化した獣人の男を前にすると様子がおかしくなるも顔が獅子のライアンは平気なようで抱きついて来る。 女嫌いなライアンだが何故かリリには抱きつかれても平気。 素性を明かさないリリを保護することにしたライアン。 謎の多いリリと初めての感情に戸惑うライアン、2人の行く末は… ヒーローはずっとライオンの姿で人化はしません。

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

処理中です...