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2.ドーレブールの悪魔ー①

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 話し声がする。

「それで旦那様。これから、どうするつもりですか?」
 穏やかな声だけれど、端々に咎めるような棘が宿る。そう、まるで母親が息子の無駄遣いを叱るような。

 しばしの沈黙の後、不機嫌そうな低い声が返事をした。
「私の金を私がどう使おうと、私の自由だろう。ロイク」

「勿論、そうでございます」
「床の掃除でもさせておけばいい」

「恐れながら、旦那様」
 こほん、と一つ大仰な咳払いが聞こえる。

「五百万クレールあれば、床を張り替えた方が安くつきます」
 五百万クレール。聞き覚えのある金額だ。

「それはそうだな」
 低い方の声はまた、不本意そうに返す。

「じゃあ適当に皿でも洗わせて」
「当屋敷にある皿全てを、何回新調できるとお思いですか」

 今度こそ本当に、低い方の声は押し黙った。穏やかな方の声には仕える者特有の響きがあるのに、この力関係はなんだろう。

「常々お伝えしておりますが、当屋敷は使用人の人数が多すぎるのです。すぐにほいほいと人を連れてくるのはおやめになって頂きたいと先日も申し上げました」

「……ちゃんと算段は付けてある、つもりだ」
「なら、よろしゅうございますが」

 目を開けなければいけないと思うのに、上手くいかない。なんてふわふわの寝台だろう。こんなもの、今まで使ったことがない。縫い付けられたみたいに動けなくなってしまう。

「あの“閣下”とかいう輩がいただろう」
「若い女性を大層お好みになる方でございますね」
「そいつに売り渡す。ほどほどに回収はできるだろう」

 売り渡す。その躊躇のない言葉に、胸の奥がきゅっとなる。

「ですが、“閣下”はなかなか変わった趣味の方として有名でございます」
「ああ、縛ったり叩いたり、ついでに怪しい薬を使ったりもするらしいな。しかも処女がご所望だと」

「そのような方にお売りするのは可哀想ではございませんか?」
「命があるだけ有難いと思え」

 そこで、アネットはがばりと跳ね起きた。

「まあどう考えても、相手は変態だがな」
 掛けられていた毛布が、ばさりと床に落ちる。

「え、嘘! そんなの嫌!! 絶っ対に無理!!!」

 思いの外大きな声が出た。

「騒々しい奴だな」

 涼やかな相貌が、眉を顰めた。ちらりと切れ長の目がこちらに向けられる。その表情は至極冷ややかなものだが、そんな顔をしてもこの男はこんなにも美しいのだなと頭の片隅で思った。

「ここは……?」
「私の屋敷だが」

 質のいい調度品に、あたたかな日の差し込む部屋。生まれ育った家でさえ、これほど過ごしやすくはなかっただろう。

「随分といいご身分だな。お前は全く起きなかった」
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