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番外編:シルヴィオ視点
3.世界の中心 ※
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「いいか、ちゃんと見ていてくれ」
額を合わせて見つめ合う。彼女自身が凡庸だと苦笑する色の瞳。穏やかなその目に浮かぶ、確かな情欲の欠片。それが欲しいから。
「わ、わかり、ました」
熟れた果実のように首筋まで真っ赤に染め上げて、それでもリリアーナはしっかりと頷いた。
僅かに開いた唇に己のそれを重ねる。いつもは逃げるように引っ込む小さな舌を懸命に絡ませてくる。そのいじらしさがたまらない。角度を変えて何度も啄んで、自然と口づけは深くなる。
「……ひゃっ……んっ……ああっ」
下から突き上げると小ぶりな乳房が揺れる。触れ合うほどに体温が上がって、首筋から恍惚を誘う香りが立ち上る。
「リリィ」
どんな花よりも芳しい、リリアーナの香り。我慢できずにシルヴィオは首筋の薄い皮膚を吸い上げた。
自分の執着の強さに辟易する一方で、その白い肌に刻まれた赤い証に充足する気持ちもある。
「君を抱いているのは、私だ」
一際強く奥を抉ったら、悲鳴のような声が上がった。もっともっと深く、リリアーナの裡に刻まれればいい。
他の誰にも、こんなことを許しはしない。
シルヴィオとて石ではないし、ましてや氷でもない。
人並みの欲求が全くなかったわけではない。それでも、衣服を取り去って、肌を合わせて、そこから否応なしに通じてしまう何かの方がよほど怖かった。誰かを知るのが、誰かに知られるのが、恐ろしかった。
それが今はどうだろう。
君は、私がどれだけ君を想っているか、知らないだろう。
睦言を囁いて通じるのなら、そうする。体を重ねて分かるのなら、そうする。そのどちらも惜しむ気はないけれど、まったく足りないのだ。
愛は目には見えなくて、それでも確かにこの身の内にあるものだ。全てを伝えることが叶うのなら、肉を切り裂いてうるさいぐらいに脈打つこの心臓を示してみせるとさえ思うのに。
「は、いっ……シルヴィオさま、だけです」
途切れ途切れに喘ぎながら、それでも彼女はしっかりとそう言った。
リリアーナが背に手を回してぎゅっと抱き着いてくる。胸板の上で白い乳房が潰れている。
強く抱き締め合って体を揺らして、その度に重い水音が響く。合間に聞こえる己の荒い呼吸とリリアーナの甘やかな嬌声。
「あなたのことが……すき」
きゅっと、連動するように剛直が締め付けられて、精を絞り尽くさんがごとき蠕動にシルヴィオは思わず呻いた。
靄がかかったような頭の中が、焼き切れた。この今、確かにこの人を、私は愛している。
「リリィ……リリィ……っ」
何度も何度も名前を呼びながら、律動を繰り返した。小刻みに震える腰と内股が、彼女も果てが近いのだと教えてくれる。痺れにも似た愉悦が全身を駆け巡って、熱い奥で奔流となって弾け飛んだ。
絶頂にびくびくと震える小さな体を掻き抱く。甘えたように胸に頬を寄せてくる彼女が、この世の何よりも愛おしかった。
◇
窓から差し込む光に、リリアーナは目を開けた。
いつもそうだ。目覚めて見る世界はぼんやりとしている。眠たい目を擦って、見えない中にも、ここはもう生まれ育った己の屋敷ではないのだなと実感する。
さて、大事な眼鏡はどこに置いただろう、と思ったところで急に昨夜の行為が頭に蘇った。
最初から最後までずっと眼鏡を掛けていた。全部、よく見えた。見えてしまった。
彼がどんな顔をしてリリアーナに触れたか、あの青い目がどんな風に熱を帯びていたのか。苦しいほどに快楽を堪えるのも、全て。
思い出しただけで顔が熱くなる。一人勝手にあたふたとしながら、リリアーナは眼鏡を探した。
「リリアーナ」
ふいに涼やかな声がする。後ろから抱き締められたかと思うと、眼鏡を探し歩く手を彼はきゅっと握ってきた。
寝台の横のテーブルにシルヴィオは手を伸ばす。探し求めていたものを、手のひらの上に乗せてくれた。
それを掛けて振り返る。この目にやっと像が浮かぶ。寝ぐせのついた銀の髪に、少し崩したような夜着。寝起きだからか、幾分かとろんとした青い瞳。
「おはよう」
目が合うと、彼はふわりと微笑んだ。
「おはよう、ございます」
直視に堪えなくてリリアーナは目を逸らした。朝一番に見るには、彼は眩しすぎるのだ。
「どうかしたのか? こちらを向いてくれ」
けれどそんなことはお構いなしにシルヴィオは言う。
なんでもないと言ったら、彼はまた困るだろうか。それでもこんなことは恥ずかしくてとても言えそうにもない。返事の代わりに、リリアーナはシルヴィオに抱き着いた。
今日も世界は輝いている。
その中心に、あなたがいるのだ。
額を合わせて見つめ合う。彼女自身が凡庸だと苦笑する色の瞳。穏やかなその目に浮かぶ、確かな情欲の欠片。それが欲しいから。
「わ、わかり、ました」
熟れた果実のように首筋まで真っ赤に染め上げて、それでもリリアーナはしっかりと頷いた。
僅かに開いた唇に己のそれを重ねる。いつもは逃げるように引っ込む小さな舌を懸命に絡ませてくる。そのいじらしさがたまらない。角度を変えて何度も啄んで、自然と口づけは深くなる。
「……ひゃっ……んっ……ああっ」
下から突き上げると小ぶりな乳房が揺れる。触れ合うほどに体温が上がって、首筋から恍惚を誘う香りが立ち上る。
「リリィ」
どんな花よりも芳しい、リリアーナの香り。我慢できずにシルヴィオは首筋の薄い皮膚を吸い上げた。
自分の執着の強さに辟易する一方で、その白い肌に刻まれた赤い証に充足する気持ちもある。
「君を抱いているのは、私だ」
一際強く奥を抉ったら、悲鳴のような声が上がった。もっともっと深く、リリアーナの裡に刻まれればいい。
他の誰にも、こんなことを許しはしない。
シルヴィオとて石ではないし、ましてや氷でもない。
人並みの欲求が全くなかったわけではない。それでも、衣服を取り去って、肌を合わせて、そこから否応なしに通じてしまう何かの方がよほど怖かった。誰かを知るのが、誰かに知られるのが、恐ろしかった。
それが今はどうだろう。
君は、私がどれだけ君を想っているか、知らないだろう。
睦言を囁いて通じるのなら、そうする。体を重ねて分かるのなら、そうする。そのどちらも惜しむ気はないけれど、まったく足りないのだ。
愛は目には見えなくて、それでも確かにこの身の内にあるものだ。全てを伝えることが叶うのなら、肉を切り裂いてうるさいぐらいに脈打つこの心臓を示してみせるとさえ思うのに。
「は、いっ……シルヴィオさま、だけです」
途切れ途切れに喘ぎながら、それでも彼女はしっかりとそう言った。
リリアーナが背に手を回してぎゅっと抱き着いてくる。胸板の上で白い乳房が潰れている。
強く抱き締め合って体を揺らして、その度に重い水音が響く。合間に聞こえる己の荒い呼吸とリリアーナの甘やかな嬌声。
「あなたのことが……すき」
きゅっと、連動するように剛直が締め付けられて、精を絞り尽くさんがごとき蠕動にシルヴィオは思わず呻いた。
靄がかかったような頭の中が、焼き切れた。この今、確かにこの人を、私は愛している。
「リリィ……リリィ……っ」
何度も何度も名前を呼びながら、律動を繰り返した。小刻みに震える腰と内股が、彼女も果てが近いのだと教えてくれる。痺れにも似た愉悦が全身を駆け巡って、熱い奥で奔流となって弾け飛んだ。
絶頂にびくびくと震える小さな体を掻き抱く。甘えたように胸に頬を寄せてくる彼女が、この世の何よりも愛おしかった。
◇
窓から差し込む光に、リリアーナは目を開けた。
いつもそうだ。目覚めて見る世界はぼんやりとしている。眠たい目を擦って、見えない中にも、ここはもう生まれ育った己の屋敷ではないのだなと実感する。
さて、大事な眼鏡はどこに置いただろう、と思ったところで急に昨夜の行為が頭に蘇った。
最初から最後までずっと眼鏡を掛けていた。全部、よく見えた。見えてしまった。
彼がどんな顔をしてリリアーナに触れたか、あの青い目がどんな風に熱を帯びていたのか。苦しいほどに快楽を堪えるのも、全て。
思い出しただけで顔が熱くなる。一人勝手にあたふたとしながら、リリアーナは眼鏡を探した。
「リリアーナ」
ふいに涼やかな声がする。後ろから抱き締められたかと思うと、眼鏡を探し歩く手を彼はきゅっと握ってきた。
寝台の横のテーブルにシルヴィオは手を伸ばす。探し求めていたものを、手のひらの上に乗せてくれた。
それを掛けて振り返る。この目にやっと像が浮かぶ。寝ぐせのついた銀の髪に、少し崩したような夜着。寝起きだからか、幾分かとろんとした青い瞳。
「おはよう」
目が合うと、彼はふわりと微笑んだ。
「おはよう、ございます」
直視に堪えなくてリリアーナは目を逸らした。朝一番に見るには、彼は眩しすぎるのだ。
「どうかしたのか? こちらを向いてくれ」
けれどそんなことはお構いなしにシルヴィオは言う。
なんでもないと言ったら、彼はまた困るだろうか。それでもこんなことは恥ずかしくてとても言えそうにもない。返事の代わりに、リリアーナはシルヴィオに抱き着いた。
今日も世界は輝いている。
その中心に、あなたがいるのだ。
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