引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ

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本編

15.花の酔い ※

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「その……」

 強請るようにくいくいと掴んだら、シルヴィオはしばらくぼんやりと自分のシャツを見つめていた。一つ息を吐いてから、諦めたように彼は衣服を脱いだ。

 現れたのは細身だが一切の無駄のない体。きちんと鍛えられたその身に胸がきゅんとする。

「やさしくしたいと思っていたんだが、無理かもしれない」

 鎖骨を撫でていく指先はひどくやさしいのに、掠れた声はそんなことを言う。いつだって、そうだ。シルヴィオはやさしい人だ。

「おいで」

 広げられた両手に、思わず飛び込んでいた。触れ合ったところからぴたりと吸い付くようになる。裸の胸に頬を寄せれば、少し早い鼓動と高い体温に包まれて何とも言えない恍惚が宿る。あんなにもひやりとした手だと思っていたのに。

「あっ」
 首筋に雨のように口づけが降ってきて、その中に一つ甘い痛みがあった。ちりりと吸い上げられたら、赤い花が散っている。シルヴィオが刻んだ、所有の証。

 彼の手の中で、やわやわと胸が形を変える。立ち上がり始めた頂きを長い指が摘まむ。途端に電流にも似た痺れが走った。

「……っ」

 シルヴィオから顔を背けて口元に手を当てる。はしたない声がもれるのが嫌だった。
 呼吸が浅く、速くなっていく。

「リリアーナ……リリィ」

 シルヴィオに愛称で呼ばれたことは初めてだった。

「でも……っぁ」

 ただ名前を呼ばれるだけでどうしてこんなに心臓を鷲掴みにされるのだろう。未知の感覚にリリアーナはぎゅっと目を瞑った。

「君が嫌がることはしたくない」

 汗ばんだ額にかかった癖のある茶色の髪を、シルヴィオがそっとはらってくれる。

「だからどんな風に感じるのか教えてくれ、リリィ」 

 色恋に慣れた駆け引きではない。ただただ愚直なほどの懇願。シルヴィオは本気だ。

「君の声が聞きたい」
 命じることに慣れた男の声は、リリアーナの羞恥をそっと消し去っていった。

「……ぁ……ひゃあ……っ」

 濡れた舌が転がすように凝った頂きを舐る。甘噛みするように歯を立てられると、もう声を抑えられなかった。

「ゃっ、ああっ、あっ……いッ」

 ひとりでに揺れる腰に大きな手が這う。そのままその長い指は秘めたる場所をなぞっていく。誘うようにこぷりと蜜が溢れてくる。まぶすように快楽の芽に触れられたら、びくんっと大きく腰が跳ねた。

 シルヴィオに触れられたところから熱が生まれ、それはまるで毒のように全身に回っていく。
 これが毒だとしたら、なんて甘い毒だろう。

「……っ……あっ……」

 身を捩っても頭を振っても、もうこの毒からは逃れられない。いや、むしろもっとほしいと思う自分がいた。囲い込まれた腕の中で、肩口から立ち上る彼の香りに眩暈がしそうだ。

「リリィ」

 情欲の滲んだ吐息が耳朶に満ちて、頭が沸騰しそうになった。何度も何度も名前を呼ばれる度に、身も心も蕩かされていく。

 つぷりと、指が挿入はいる。何も受け入れたことのない隘路にはそれだけでも十分な違和感だった。

 けれど宥める様に唇に触れてきた唇に、リリアーナは夢中になった。喘ぎ声も全て飲み込まれるような深い口づけに酩酊していく。

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