引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ

文字の大きさ
上 下
14 / 24
本編

14.ずっとこうしたかった

しおりを挟む
「後ろを向いて、リリアーナ」

 性急に扉を閉めると彼はそう言った。当然のことながら初めて入るシルヴィオの私室だ。

「はい」

 どんな顔をしていればいいのだろう。いや、彼は背中の向こうにいるからどのみち見えないのだけれど。なんだか気恥ずかしくて、本棚に並べられた難しそうな本のタイトルを端から心の中で音読した。

 背中のドレスの留め金を難なく彼は外していく。元から彼は器用な人だ。それでも、そこに至るまでの過程を想像してしまう。

 思わずむくれた頬を長い指がつつく。

「念のため言っておくが」
 見慣れた自分の髪が、くるくると彼の指先に弄ばれている。

「方法として知っているだけだ。試してみるのは、これがはじめてだ」

「へっ」

「そんなに不思議か?」
 すとんと彼の上着と一緒にドレスが床に落ちる。問いかけの合間もその手は止まらない。

「誰のことも好きになったことがないと言っただろう」
 そのことは、よく覚えているけれど。

「こういうことは、好いた者同士でなければ何の意味もないから」

 見えないのに、彼がどんな顔をしているのかわかる気がした。

「近づいてくる者がどういう意図で動いているのかを確かめる必要があったし、迂闊に手を出したら相手がつけ上がって最悪の場合脅迫される可能性もある。そんな女の傍におちおち居られないからな」

 もう片方の腕に引き寄せられる。項に口づけが落ちてきて、リリアーナは小さく喘いだ。
「っあ」

 続けてすらりとした指は背骨をなぞって身の内に震えがくる。腰に回った腕をぎゅっと掴むことしかできなかった。

「わたしが、つけ上がったらどうするんですか?」

 振り返ってシルヴィオと見つめ合う。差し込む月明かりに照らされた美しい男は、彼にしては珍しくにやりと笑った。

「君は少々つけ上がるぐらいで、ちょうどいい」

 返事をする間もなく口を塞がれた。先ほどは触れてくるだけだったのに、隙をついて舌が入り込んでくる。ぬるりと上顎を舐めたかと思えば歯列をなぞられる。縋るようにシルヴィオにしがみつくことしかできない。

 貪るように互いを求め合った。まるで溺れているみたいだ。
 こんな熱さ、いつもの彼からは考えられない。

 くたりと力が抜けたリリアーナの体を、シルヴィオはやすやすと抱き上げた。咄嗟にその首に手を回して抱き着く。

「あの、重たく、ないですか」

 リリアーナは小柄な方だが、果たしてこんなこと王太子にさせていいのだろうか。ただ、こうしていると無性に落ち着くのも事実である。

「こんなに軽いと心配になる」

 そして、丁重にリリアーナを寝台に横たえて、最後に残っていたコルセットも彼はやすやすと取り去った。一糸纏わぬ姿になった自分を、青い目が見つめる。

 視線が絡み合えば、それだけで体が熱を帯びていくようだった。
 青い瞳の底に潜む、その激情に囚われたい。

 ささやかな胸を隠すように交差させた手に、シルヴィオが触れた。握られた手はシーツの上に落ちる。そのまま強く抱き締められた。

「ずっとこうしたかった」

 静かな声が囁く。流れた銀髪で彼の顔は隠れたようになる。

 肌に触れるざらりとしたシャツがじれったい。その素肌に触れたいのに。
しおりを挟む
Wavebox 感想などお待ちしております!

感想 1

あなたにおすすめの小説

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

責任を取らなくていいので溺愛しないでください

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
漆黒騎士団の女騎士であるシャンテルは任務の途中で一人の男にまんまと美味しくいただかれてしまった。どうやらその男は以前から彼女を狙っていたらしい。 だが任務のため、そんなことにはお構いなしのシャンテル。むしろ邪魔。その男から逃げながら任務をこなす日々。だが、その男の正体に気づいたとき――。 ※2023.6.14:アルファポリスノーチェブックスより書籍化されました。 ※ノーチェ作品の何かをレンタルしますと特別番外編(鍵付き)がお読みいただけます。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

不器用騎士様は記憶喪失の婚約者を逃がさない

かべうち右近
恋愛
「あなたみたいな人と、婚約したくなかった……!」 婚約者ヴィルヘルミーナにそう言われたルドガー。しかし、ツンツンなヴィルヘルミーナはそれからすぐに事故で記憶を失い、それまでとは打って変わって素直な可愛らしい令嬢に生まれ変わっていたーー。 もともとルドガーとヴィルヘルミーナは、顔を合わせればたびたび口喧嘩をする幼馴染同士だった。 ずっと好きな女などいないと思い込んでいたルドガーは、女性に人気で付き合いも広い。そんな彼は、悪友に指摘されて、ヴィルヘルミーナが好きなのだとやっと気付いた。 想いに気づいたとたんに、何の幸運か、親の意向によりとんとん拍子にヴィルヘルミーナとルドガーの婚約がまとまったものの、女たらしのルドガーに対してヴィルヘルミーナはツンツンだったのだ。 記憶を失ったヴィルヘルミーナには悪いが、今度こそ彼女を口説き落して円満結婚を目指し、ルドガーは彼女にアプローチを始める。しかし、元女誑しの不器用騎士は息を吸うようにステップをすっ飛ばしたアプローチばかりしてしまい…? 不器用騎士×元ツンデレ・今素直令嬢のラブコメです。 12/11追記 書籍版の配信に伴い、WEB連載版は取り下げております。 たくさんお読みいただきありがとうございました!

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

伯爵は年下の妻に振り回される 記憶喪失の奥様は今日も元気に旦那様の心を抉る

新高
恋愛
※第15回恋愛小説大賞で奨励賞をいただきました!ありがとうございます! ※※2023/10/16書籍化しますーー!!!!!応援してくださったみなさま、ありがとうございます!! 契約結婚三年目の若き伯爵夫人であるフェリシアはある日記憶喪失となってしまう。失った記憶はちょうどこの三年分。記憶は失ったものの、性格は逆に明るく快活ーーぶっちゃけ大雑把になり、軽率に契約結婚相手の伯爵の心を抉りつつ、流石に申し訳ないとお詫びの品を探し出せばそれがとんだ騒ぎとなり、結果的に契約が取れて仲睦まじい夫婦となるまでの、そんな二人のドタバタ劇。 ※本編完結しました。コネタを随時更新していきます。 ※R要素の話には「※」マークを付けています。 ※勢いとテンション高めのコメディーなのでふわっとした感じで読んでいただけたら嬉しいです。 ※他サイト様でも公開しています

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

処理中です...