ラスボス『終焉の支配者』 はこの国に手を差し伸べます!

栗花落 月

文字の大きさ
12 / 17
魔獣の巣窟

第九夜

しおりを挟む
「このキノコ、見たことない。食べられる?」そう尋ねると、ねこちゃんは答える。
「ぎゅーん」
「食べられないのか。ざんねん。」

気づけば、ここ魔獣の巣窟に来てから、もう一年が過ぎていた。どうしてそれが分かるかって?

それは、この場所に来てから曖昧な時間感覚を少しでも補うため、毎日、木の枝を使って岩壁に正の字を刻んでいたから。そして、その正の字が73個を超えた。

この世界では前世と同じ暦の数え方なのか分からない。でも、日々の暮らしの中で少しでも安心感を得たくて、こうして時間を数えていた。最初はただの暇つぶしだったけど…。

「よし、このくらいでいいかな」

今朝も、いつものようにねこちゃんと共に森を探索していた。見知らぬ植物や薬草を見つける度にねこちゃんに食べられるかどうかを尋ねるのが日課になっている。

そして、そのたびに「ギャンギャン」や「ぎゅーん」と答えるねこちゃんの声を聞くと、少し笑っていた。俺の言葉ほんとうにわかってる?って疑いたくなっちゃう。

俺は木の枝と葉っぱで作ったカゴに、食べられるキノコや木の実などをいっぱいに詰め込んだ。初めは、泉のある場所から岩壁を越えることをあまりしなかったが、最近では毎日のように岩壁を越え、魔獣たちが住む場所で探索をしたり、遊んだり、そのままみんなと寝たりしている。たまに縄張り争いに巻き込まれたり、仲裁したりすることもある。

今では、ほとんどの魔獣が友達だ。貴崎栄一《前世》では友達がいなかったから、こうして仲間がいるのは嬉しい。俺は俯きながらほんの少し微笑んだ。

ここでの暮らしにも大分慣れてきたと思う。けれど、最近少し心配事がある。
それは、

「グォォォォォォォーーーッ!」
「アオォォォォーン!」
「ガオォォォォォン!

突然、魔獣の咆哮が大気を震わせ、木々の葉がざわめく中、緊張感が一気に高まった。俺はその恐ろしい音の大きさに足を止め、両手で耳を塞いだ。心臓が早鐘のように打ち、背筋には冷たい汗が伝っていく。

ねこちゃんは耳を立て、音のする方向をじっと見つめている。そして、近くにいたカラスに向かって吠え、会話を交わし始めた。

「また、人間?」
「ギャンギャン」
「そっか」

ねこちゃんは俺のそばに近寄り、虎バージョンに変わり、俺の首襟をを噛んで泉へと連れ戻そうとする。

「まって、カゴが!」

俺は急いでカゴを拾い上げ、ねこちゃんに股がり急ぎ、泉へと向かった。その道中、魔獣たちの咆哮が空を切り裂いていた。
 
岩壁を越えて泉にたどり着いたが、俺はみんなが心配だった。

「みんな、だいじょうぶかな…」

俺は心配でたまらず、ねこちゃんを見ながらぽつりと呟いた。

最近、人間たちが頻繁に魔獣の巣窟に入り込み、魔獣狩りを行っていることが俺の心を悩ませていた。

物語の中では、魔獣の巣窟に入る人間なんていなかったはずだ。それほどまでに危険で恐ろしい場所なのに、どうして人間たちはわざわざこの場所に足を踏み入れるのだろう。

ベアルが生まれてから、魔獣たちの活動が激しくなって街を襲うようになった。 

人間たちが魔獣狩りをしているのは、その復讐のためなのかもしれない。

大切な人を殺されて怒っている気持ちは、もしかしたら俺と同じなのかもしれない。

前に一度、そんな魔獣狩りをしている人間たちを止めに行こうとしたことがあった。

その時、ねこちゃんが行くのを必死で止めた。でも、友達が傷つけられるのが嫌で、ねこちゃんの制止を振り切って走り出そうとした。その瞬間、ねこちゃんの目が鋭く光り、耳をぴんと立てて、威圧感を俺に放ってきた。 低くうなる声が響き渡り、俺は少し怖くなり、その場で固まってしまった。

瞬く間に、ねこちゃんが虎バージョンになって、まるで親猫が子猫をくわえて運ぶみたいに俺の襟首を噛んで、そのまま無理やり泉まで連れ戻されてしまった。

ねこちゃんは本当に俺を心配してくれていたみたいで、泉に着いてからもなかなか俺を離してくれなかった。やっと離してもらえたと思ったら、その後もずっと牙を出してながら俺に向かって吠え続けた。

最後は、「ごめんね」ってしゅんとなって謝ったら、顔を舐めてくれて、仲直りできた。

以来、どこかで魔獣狩りが始まり、逃げることを躊躇っていたり、もたついていると必ず俺を咥えて運ぶようになってしまった。

本当は人間たちと話をして、魔獣狩りを辞めさせたい。
その代わり、俺も魔獣たちに街を襲うことを辞めるよう魔獣に言う。

そんな話をしたいんだけど、ねこちゃんがそれを絶対に許さない。俺を心配してくれているのは本当に嬉しいけど、どうにかしてこの現状を変えたい。

「はぁ…」

友達が殺されてしまうのはもう見たくないのに。

でも、俺が人間たちと直接話すのはかなり危険な行為でもある。俺の容姿を見たら、みんな怖がって、話なんて聞いてくれない。それに、黒髪黒目の子供が魔獣の巣窟で魔獣と仲良く暮らしているなんてことが国王の耳にでも入れば…。

もしかして、それを分かっているから、ねこちゃんはあんなに必死で止めてくれているのかな?

「さすがに、そこまで分かってないか…」

でももし、どこかでばったり人間たちと遭遇してもいいよに対策を練らないと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

処理中です...