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第十六話

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 邪魔をしないよう、ミナミの腕は両手首それぞれに布が巻かれ、ベッドの策に縛り付けられている。
 手首だけだったのが、先ほど足を閉じようとしたことによって足首まで固定された。
 男が本気で結んだそれは、結構固くてずり落ちない。
 
  文字通り「先っぽだけ」挿れたあと、一気に奥まで突き刺す。
 
「ーーーっ!!」
 
「B地点到達、子宮口確認、排出道温度正常、内部凹凸波状、10、長さ15.7○、入り口4」
 
「はい」
 
「ただいまより抽送を開始する」
 
 フェリックスの合図と共に、奥まで埋められた彼のモノが、テンポよく動き出す。
 久しぶりの内側への刺激に、ミナミの身体は強く反応してしまう。
 
「うっ……、あ、あぁ……っ!」
 
「痛みは?」
 
「な……ない……っ、です……!」
 
 最初のときから無かったのだが、実際ある人の方が多いのだろう。
 こんな質問をしてくるくらいだから、どこの世界も初めてのセックスは痛いらしい。
 "性行為のときの痛みを取り除く"が自分に与えられたチートスキルだったとしたら残念過ぎる。
 できれば他のにしてほしいところだ。
 ミナミは下腹部に伝わる衝撃に声を漏らしながら、震動の合間合間にそんなことを思い浮かべた。
 
 抜き差しを続けていくと、結合部分で響く音が変化してくる。
 蛇口から垂れる水滴くらいだった水分量が、水たまりになって、お風呂に浸かっているようになる。
 それをオノマトペで時間経過と男側の進行度、女側の感度と合わせて記入していく。
 
「……そろそろ出す、用意」
 
「はい」
 
 計測係の男は、壁のフックにかけてある機械式のアナログなストップウォッチを手に、一層真剣に二人を見つめる。
 書記の男も一時的にこちらのサポートに周り、彼は少し離れた位置から様子を伺う。
 
「オレは女をみる。そっちはフェリックスな」
 
「了解」
 
 何が嬉しくて自分が気持ちよくさせられてる様を多くの人に見られなきゃいけないんだ。
 しかも何度も何度も。
 ミナミは恥ずかしさからフェリックスに涙目で訴える。
 多少慣れたとはいえ、嫌なものはやっぱり嫌だ。
 ミナミの世界なら普通は、誰にも見せず二人だけの世界で抱き合うものなのだ。
 
「フェリックスさん……」
 
「なんだ……?」
 
「……ミナミのこと独り占めしたい、って思ったりしますか?」
 
「独り占め……?」
 
 この国は基本的には平和だ。
 繁殖主義の副産物とも言えると思うが、浮気という概念がない。
 結婚に替わるような、異性や同性が二人きりで住んだりすることはあるらしいが、他の人とセックスすることも基本的にはOKだ。
 というか、それが当然として育ってきたから、若い子には「俺の女に手を出すな」とか独占欲のようなものを感じることはないと、以前看守のおじさんが言っていた。
 誰とでもヤれるから、恋愛では仲間内で揉めることもないし、ケンカして別れて居づらくなることもない。
 
 でもそれが、ミナミにはちょっと寂しくもある。
 好きな人が愛しそうに笑いかけてくれるのは、自分だけであって欲しい。
 ミナミはルームメイトや補講の女の子たちの抱かれた回数には全く足元にも及ばないのだ。
 
 (あの子たちはもっと色んな彼を知っている。
 抱き方の癖だったり、好きな体位だったり、フェチなパーツだったり、ミナミより何倍も詳しい。
 彼のこと一番知りたいって思ってるのはミナミなのに、なんで好きでも何でもないあの子たちが知ってるんだろう。
 やだよ、そんなの。
  フェリックスさんのこと、一番好きなのはミナミなのに……)
 
 
 ふと、ミナミは目を見張った。
 
「……そっか、ミナミはフェリックスさんのこと……」
 
「どうした?」
 
「いいえ」
 
 ミナミはクスッと笑った。
 あまりに単純で、チョロい自分に。
 一番近くにいて、優しくしてもらったから簡単に恋に落ちるなんて、恋愛初心者あるある過ぎる。
 
 でもこれが別の人だったらそう思えるかと言ったらたぶん違うのだ。
 
 
 
 ミナミは前世「一匹狼」だった。
 自分のことを「ミナミ」と名前で呼ぶ癖が、どうしても抜けなかったのだ。
 小学校は良かったが、だんだんと皆、名前呼びは卒業していき、気付けば圧倒的少数派となった。
 可愛らしい女の子はそれでも似合っていた。
 ぶりっ子だったけど、ぶりっ子と呼ばれてもものともせず、ずっとそのキャラを貫き通していた。
 しかしミナミは違う。
 そんな風に強くなれなかった。
 勉強も外見も、特出した何かがあるわけでもなかったミナミは、酷いイジメとは言えないが、でも確実に対象者の心を痛める、「ひそひそ話」の格好の餌食となった。
 
 
 もしもこの一連の関わりが、以前のクラスメイトのような、人のことをすぐ馬鹿にするような男の人だったら心を許したりしないだろう。
 この国は"みんなと同じ"や"マナー"を過度に求めないから、その点に関してはミナミも自由に発することができている。
 だけど、他の点……例えばこの国基準だと"剥けてない"とか、そういうのを嘲笑うような人であったなら、きっとミナミは好きになってはいない。
 優しいフェリックスだから、好きになったのだ。
 
「それでさっきの続きだが……そういうこともあるかもな。知らないが」
 
「知らないって、なんでですか」
 
 ミナミの問いに、フェリックスは腰の動きを止めた。
 
「おい、勝手に造精やめるな」
 
「あぁ、悪い、だってそうだろう? ミナミ」
 
 再び動き出したときには、腰を打ち付ける速さが増していた。
 肌が重なる乾いた音と、性器同士が絡み合うちゃぷちゃぷした音が、競い合うように部屋に響き渡る。
 
「独り占めしたい、じゃなくて俺が現状独り占めしてるじゃないか」
 
「えっ……」
 
 ミナミは顔が真っ赤に染まる。
 思い返せば、確かにそうだ。
 オーラルセックスも多々あるこの国で、挿入の面では意識したことがなかった。 
 
「他の男とヤったところを見たことがないから、見たことがないものを想像しろと言われても……うーん……想像したくないというか……」
 
「……!」
 
 想像したくない、その言葉だけで十分だった。
 
「あぁでも、後々近いうちそういうことにはなるんだよな。んー……嫌かも知れないけど、そういうものだと割り切ってるし……って、ミナミ!? ミナミ何泣いてるんだ!? 」
 
 好きな人に必要としてもえたことは初めてだった。
 こんなに、こんなに嬉しいなんて。
 
 
 
 
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