転生先は繁殖主義国家だけど、普通に幸せになりたいです!

葉月とに

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第六話

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 ガシャンと重厚な扉が閉まり、ミナミは牢の中へ閉じ込められた。
 罪状は"繁殖可能者への暴力" 。
 暴力とは言っても、腫れたり出血した訳じゃないので重罪には該当せず、処刑さりたりとかはないらしいが。
 
「厳しくない? ちょっと一回叩いちゃっただけじゃん……」
 
 ミナミは窓の外を眺めた。
 小窓には脱出できないよう鉄格子が張られている。
 長方形の小さな外の世界には青い空と白い雲が浮かんでいて、ミナミのいた世界と変わらなかった。
 
「一ヶ月の謹慎だ。基本的には三食出るし、入浴もできるから心配するな。繁殖期の女をこんなとこに不健全に閉じ込めておくわけにもいかんしな」
 
 看守はそう言うと分厚い本をミナミに手渡した。
 
「これでも読んどけ。この学校の規則だ。おまえさんみたいな外国から来た若い女子には酷だろう……」
  
 ミナミは木製のベッドに腰掛けて本を開いた。
 パラパラめくると、やはりミナミが経験した学生生活とは色んなところが違っていた。
 おおよそ健全な青少年とは言えない暮らしぶりが当然のように記述してあり、ミナミは目眩がしそうだった。
 
「……おじさんも、これ経験したんですか?」
 
「いや、僕は繁殖主義前の育ちだからね。こんなことになったのはここ四十年くらいだ。大変だろうよ、今の学生は……」
 
 看守のおじさんは、遠い目をしてため息をついた。
 
 
 《学生の一日~七年生・アメリー・デュランの場合~》
 
 (六時半)起床。身支度をして朝食をとります。食堂でその日の気分に合わせて好きなものを選んでね!
 
 (八時)精液検査のため事務室へ。毎日の性交課題をきちんとこなしているかチェックするよ!
 
 (八時半)ありゃりゃ、忘れて寝てしまったみたいだね。忘れた場合や何らかの事情で交尾できなかった場合は、ここで精液を投入したり、挿入行為を行うよ!
 
 (九時~十五時)授業を受けるよ。七年生からは卒業後に向けて専門教育が始まります。既に数回排出済みの彼女は建築分野を学んでいます。未排出の人は交尾回数を重ねます。
 授業中に交尾要望があったら、その場で応じてね! 回数は多いほど懐妊チャンスもアップ!
 
 (十六時)街へショッピング! 妊娠中の彼女はある程度自由に外出ができます。
 
 (十七時)交際中の男性にお土産を渡しに。おや、ちょうど繁殖力をつけるための補講中です。彼はまだ一人しか孕ませていないようです。卒業までには増えるように頑張って欲しいですね!
 
 (十九時)夕食を食べたら自由時間。先ほどの彼とのお喋りに花が咲きます。宿題のレポートも忘れずにね。
 
 (二十一時)ルームメイトの男性が帰宅しました。彼女のルームメイトは十年生です。内定先にインターンに行っていたようですね。
 一息ついたら交尾活動を行います。健やかな妊娠生活において、毎日の精液補給は欠かせません。
 
 (二十三時)行為が終わったようです。男性はシャワーを浴びても構いませんが、女性は先に済ますので寝床を整えます。入浴時に子種が流れ落ちるのを防ぐため、ここは必ず守ってくださいね!
 
 (二十三時半) その日の交尾回数や相手、体位などを記入しておしまいです。おやすみなさい!
 
 
「一日何回やればいいのよこれ……」
 
 廊下ですれ違った学生の全てが本当にこんなことをやっているのだろうか。
 ルームメイトと毎晩交わっているうえに、さらにクラスメイトや彼氏なんかとも性的な関係持っているのだ。
 数撃ちゃ当たるということだろうが、やっぱりどうしても、ミナミには不可能だと思った。
 
 彼女は残りのページをパタンとたたんだ。
 
 (このままいくと、絶対に近いうち望まない妊娠をさせられてしまうよね。妊娠しても中に出されて、何回も何回も抱かれ続けなきゃいけなくなるんだ。そんな娼婦みたいなこと絶対嫌! なんとかしなきゃ! 牢にいられるのは一ヶ月だけ。それまでにこの国を抜けて、外国へ行く筋道を考えないと)
 
 日中彼女は、看守のおじさんからこの国や学校に関する様々な情報を聞いて過ごした。
 
 たとえば、この繁殖プログラムについてだ。
 男性は女性を孕ましさえすればいいと思われがちだが、実はそうでもない。
 男性の好みのタイプやシチュエーションに関わらず、いつでもどこでも、どんな女性でもヤれるように猛特訓をしているというのだ。
 好みの女を裸にして眼前にちらつかせ、一週間禁欲させたのちに苦手な女を差し出すとか。
 ヤりたい女とヤるためには、そうじゃない女を指定した体位で十人抱かなきゃ駄目だとか。
 腰から下のみ見せて性行為させるとか。
 ヤりまくれる学校生活が成り立っているのは、青少年の涙ぐましい努力のおかげらしい。
 
 また、プログラムは男女比も変えたという。
 出生時はやや男児が多い男女比が、繁殖年齢に入ると徐々に女子が減っていき、今や男子の三分の一程度しかいなくなってしまった。
 
 (恐ろしく原因は、出産による関連死だろうな……)
 
 ミナミは心の中で亡くなってしまった女子生徒たちを悼んだ。 
 
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