日々の妄想とか

ヤマアラシ

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ストーカー

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やはり、気のせいなんかではない。
何者かが確実に、着実に、私の後をつけている。
それは過去の過ちや未来への恐怖などという概念的なものではない。
しかし、どれだけ耳を凝らしても、そいつの足音は聞こえない。
大通りを歩こうと、路地裏を歩こうと、そいつは必ずついてくる。

大きなビルの陰に隠れてみた。
「よかった…うまく撒けたみたいだ。」
ほっとしたのも束の間、私がまた歩き始めると背後からそいつの気配を感じる。

これではキリがない。私は最悪の結末を覚悟し、後ろを振り向いた。
そいつは、隠れもせず、私に姿を見られたのに焦りもせず、堂々とそこに居た。
今にも
「やっと気づいたか。待ちくたびれておったぞ。」
と言わんばかりの表情をし、私を見つめていた。

なーんだ。私は心底安心した。

その後も、そいつは私の後をつけてきたが、私は知らないふりをした。
先ほどまでの私の心に住み着いていた恐怖は、いつの間にか退去していた。
何なら、そいつが後をつけてくることに"ありがたさ”さえ感じた。
暗い夜道を一人で歩くことに安心感を与えてくれたからである。
私がゆったり歩こうと、せかせか歩こうと、そいつは必ず私の歩くペースに合わせて私に追従してくれた。

家の近くのコンビニで三色団子を買った。
昔から、なんだか得した気分になれる、という理由で三色団子が好きだった。
しかし、たった今、これを買ったのはそんな童心を思い出したいなどという理由ではない。
コンビニを出ると、そいつは相変わらずの無表情で私の前に居た。

さあ、準備はできた。
「私を散々付け回してきやがって、覚悟しとけよ。」
と心の中でつぶやき、家に向かって足を働かせた。

やっと家に着いた。
私は帰宅すると同時に窓を開け、買ってきた三色団子を片手に外を見た。
そいつは、まだそこに居た。さっきまでの活気は無く、じっとしていた。
私は夜が明けるまで、団子を食しながらそいつをじっくりと見守ってやった。
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