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第三章

閑話 古代文字の解読

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時は大分遡り、マーガレットがシルベスタ帝国から帰って来て数日後の事…

ケナード領の学者達は、一枚の用紙を見て首をひねっていた。

「全くわからん」

「これは本当に文字なのか…?」

「どの文献を漁ってみても、似たようなものは無かった…」

ビクトールがシルベスタから持って帰って来た石碑の古代文字の書かれた用紙を囲って、学者達はああでもないこうでもないと言い合っていた。


「とりあえず文字を大きく書いてみよう」

誰かがそう言って、皆で一つ一つ大きく文字を書き写した。

「子供の落書きのようにしか見えん…」

謎は深まるばかりだった。


何日も考え込んでいた学者達。諦めることは己の矜持が許さなかった。


そんなある日…

今日も皆で集まり話し合っていると、マーガレットがやってきた。

「ごきげんよう。皆で集まって何をしているのかしら?」

マーガレットは学者達が机に何枚もの用紙を並べているのに気が付いた。

「まぁ、これは何かの絵かしら?不思議な絵だわ」

マーガレットが一枚手に取ると、妖精が飛んできた。

(あら?妖精さん達だわ。泣いているのかしら…?)

そう思ってもう一度紙を見ると、そこに描かれている絵が涙の様に見えた。

「これは涙なのかしら…?」

マーガレットが呟いた事で、学者達は身を乗り出してそこに描かれている文字を見た。

「言われて見ると確かに…」

「マーガレット様、この絵はどう見えますか?」

違う文字を見せられたマーガレット。妖精達を見ると、手を取り合って輪になっていた。

「手を取り合う…?輪になって集まるのかしら…?」

「「おぉ!」」

学者達は次々にマーガレットに文字を見せた。

「これはこうで…」

「それならこうじゃないか?」

夢中になって話し始めた学者達を見たマーガレットは、邪魔をしないように静かにその場を去ったのだった。


「出来たぞ!」

マーガレットに会ってから三日三晩寝ずに古代文字の解読をしていた学者達は、喜び合っていた。

そして、ビクトールに報告に行った。


湖の周りを囲む。

精霊に感謝し、青い花を捧げる。

人々を癒やす青い涙。

森を癒やす青い涙。

大地に染み渡る。

わからない箇所も多々あったが、なんとかここまで解読出来たのだった。


「どういう意味なんだろうね…?」

ビクトールは学者達に尋ねた。

「わかりません…ですが、この文字には一定の法則があるようです。研究を続ければ、自ずと結果が出るでしょう」


それから学者達は、古代文字の研究を始めた。

「なるほど…そういうことか!」

解読するのに三年の月日が流れていた。


― 年に一度の宴を開催せよ。精霊に感謝の気持ちを忘れず、青い花を用意せよ

湖の周りを民達で囲い、感謝の気持ちを捧げよ

さすれば黒い精霊の使いの青い涙が湖に落ち、瞬く間に癒やしの水となるだろう

青い涙は人を癒やし、森を癒やし、やがて大地に染み渡る

その年は豊作に恵まれ、人々も心安らかに過ごせるだろう

感謝の気持ちを忘れてはいけない ―


学者達はすぐにシルベスタ帝国に向かい、他の石碑も調べた。


― 年に一度の宴を開催せよ。精霊に感謝の気持ちを忘れず、青い花を用意せよ

炎の周りを民達で囲い、感謝の気持ちを捧げよ

さすれば白い精霊の使いが現れ、瞬く間に木々が生い茂るだろう

白い獣は緑に力を与え、花は咲き誇る

その年は豊作に恵まれ、人々も心安らかに過ごせるだろう

感謝の気持ちを忘れてはいけない ―


― 人々を思いやる気持ちを忘れてはいけない

さすれば虹色に輝く精霊の使いが、人々の前に現れるだろう

虹色の使いは人の傷を癒やし、病気を癒やし、人々に希望の光を与えるだろう

その年は、人々は健やかに過ごせるだろう

感謝の気持ちを忘れてはいけない ―


解読を終えた学者達は、すぐに皇帝に献上した。

「これが今まで誰も解読出来なかった古代文字か。精霊の使いとな…」

皇帝は窓の外で三匹の動物達と戯れるマーガレット達を見ていた。

「精霊に選ばれた伴侶が帝国を導く…やはり精霊の導きは真であったな」

側に立つ宰相に向き合った皇帝は、あることを告げた。


その年から、マーガレットがシルベスタ帝国に嫁いだ日が、精霊を祀る祝いの日となった。

湖の近くに住む者達は湖を囲い、そうでない者達は焚き火を囲み、青い花を用意して精霊に感謝をした。

忙しなく働く民達も、この日は働く事を許されなかった。

何にも追われない一日。大切な人と過ごせる日。

人々は欠けていた何かに気が付いた。


最初は信じていなかった貴族達も、マーガレットの優しさに絆され、次々に起こる奇跡に、誰も疑う者などいなくなっていた。

そして、今まで閑散とした国立公園に、徐々に人々が憩いの場として集まって行くことになるのだった。


ケナード家の庭に埋まっているもう一つの石碑は、今ももぐらのヨードと共にある。

何年も経った後に、ある少女が掘り起こすまで、誰も気が付かなかった。


― 精霊に選ばれし子供

心優しい者には不思議な力が授けられる

人を妬まず、人を幸せにする者

精霊の子供達が集うだろう ―
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