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第三章

閑話 バイオレットの真実の愛

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「何故私がクラレンス王国なんかに行かないといけないのよ!」

公爵家の屋敷に戻って来たバイオレットは、物に当たり散らしていた。

「バイオレット…」

「お父様も何故引き下がったの?納得できないわ!」

バイオレットは顔を真っ赤にさせて、手当たり次第に物を投げていった。

「バイオレット、自分が何をしたのか理解しているのかい?」

「何よ!公爵令嬢である私が皇太子妃に相応しいに決まっているじゃない!」

誰にも手がつけられなかった。


「バイオレット、クラレンス王国の王太子妃候補に名を上げてみたらどうだい?」

旅支度は終わったのだが、バイオレットだけが嫌がって準備の出来ていないある日、公爵が提案した。

「王太子妃…?」

「婚約者を探しているそうだよ」

(田舎の小国でも、妃になるのなら良いかも知れないわね…)

「行くわ!早く行きましょう!」

こうしてバイオレットは、クラレンス王国へと向かったのだった。


(クラレンス王国では真実の愛が信仰されていると皇帝陛下が仰っていたわね…)

バイオレットは馬車の中で皇帝の話を思い出していた。

(今まで培ってきた知識とこの美貌があるんですもの。私が選ばれるに決まっているわ!)

バイオレットは欲しい物は手に入れて、何でも一番にならないと気が済まない性格だった。


何週間も馬車に揺られ、やっと辿り着いたクラレンス王国の王城。

(シルベスタよりは小さいけれど、私の城になるなら悪くないわね…)

バイオレットはそんなことを思いながら、使いの者に案内されて歩いていた。

そして、王太子フレデリックに会った瞬間に恋に落ちたのだった。

(これが真実の愛なんだわ!)


バイオレットは今まで同様に、四人いる候補の令嬢達をあの手この手で蹴落としていった。一人減り、二人減り。最後に残ったのは、バイオレットと他国から来た令嬢だけになっていた。

(絶対に負けないわ!)

そして、最後に選ばれたのはバイオレットだった。

「これから宜しく頼むよ」

そう言って差し出したフレデリックの手を握り、バイオレットは美しい笑顔で言った。

「精一杯努めさせて頂きますわ。真実の愛に勝るものなど無いのですもの」

「そ、そうか…頑張ってくれたまえ…」

フレデリックはサッと手を引いて、何処かに行ってしまった。

(照れてしまったのかしら…?)


バイオレットは聞かされていなかったのだが、ある事件以降、フレデリックは『真実の愛恐怖症』になっていたのだ。

「あのような物など存在しない…」

その言葉を耳にする事も、口にする事すら嫌だった。


婚約解消となってしまったクリスティーナはすぐに新たな婚約が決まり、既に婿養子を迎えていた。今では嫡男も誕生し、幸せに暮らしている。

他の令嬢達も、大勢の前で平民との真実の愛を発表したフレデリックと婚約したい者などいなかった。

他国から必死になって集めた五人の婚約者候補達。最後に残ったのがバイオレットだったのだ。


(私が一番だわ!)

喜んでいたバイオレットだったが、欲しがった商品は全てがフォレタグ商会で扱われていた物だった。マーガレットに暴言を吐いたバイオレットは、手に入れることができなかった。

喚くバイオレットに疲れて、フレデリックは王命を出した。

「先日シルベスタ帝国に支店を出したのですが、本拠地にしようかと迷っているですよ」

フォレスターの脅しとも取れる物言いに、慌てて王命を撤回したのだった。


「フレデリック様。真実の愛で結ばれた私の為に、何故王命を出してくださらないのですか?私はフォレタグ商会の商品が欲しいのです」

「フォレタグ商会には王命は出せない!それに、二度とその言葉を口にしないでくれ!」

フレデリックに言われるまで、バイオレットは真実の愛と言い続けていた。

しかし、そんな些細なことなど気にしないバイオレット。王妃でいられることに幸せを感じていたのだった。


そして、二人の間に生まれた第一王子は、顔立ちの整った両親の良いところを受け継いだ。フレデリックはラゴムと名付けた。

フレデリックは大きくなったラゴムに、真実の愛を求めるのではなく、婚約者を大切にするようにと繰り返し教えた。

クラレンス王国の真実の愛の信仰が無くなる日が、そう遠くない未来に来るのかもしれない…


・・・・・

ラゴム = 求め過ぎず、丁度良く程々に
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