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第三章
動き出したギルバート
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「マーガレット嬢、すまなかった…騙すつもりは無かったんだ。ただ…言う機会を逃してしまったというか…その…私はマーガレット嬢と、どうしても共に居たかったのだ!」
ギルバートが決死の覚悟で想いを伝えたのだが、部屋の中からは物音一つしなかった。
「嫌われてしまったのか…」
扉の前で崩れ落ちたギルバートの後ろから声がかかった。
「ギル…?」
「マーガレット嬢!」
マーガレットは部屋にいなかったのだった。
「良かったわ!置いてきてしまったから、馬車を出そうと思っていた所だったの…」
「マーガレット嬢、その…気にしてはいないのかい…?」
普段通りのマーガレットに、ギルバートは不思議に思った。
「ご令嬢のことかしら?……ギルをギルバート殿下と間違えるだなんて、変わったお方ね。でも…」
「でも…?」
「ギルの好きな女性のことをあまり言いたくは無いのだけれど…ギルのことを殿下として見るだなんて、身分に拘りが強いお方だと思うの。ギルには他に良い女性がいると思うわ」
「え…?どういう意味だろうか…?」
「だって、帝国の皇太子殿下が伯爵家の執事をするはずがないもの。それなのにギルを殿下と見立ててしまうだなんて…思い込みとは怖いものね?」
「そ、そうだな…」
(これは喜ぶべきなのだろうか…?)
ギルバートは悩んでいたが、バイオレットとは何も関係が無いことだけは伝えた。
「マーガレット嬢、先程のご令嬢は私の想い人ではないよ」
「まぁ!そうだったのね。良かったわ」
マーガレットは喜び、ギルバートを置いて行った事を再び謝ってから部屋に入っていった。
(正体の事でないのなら、何故走って行ってしまったんだ…?)
ギルバートはマーガレットを見送りながらそんな事を考えていたのだった。
(あの女性がギルの想い人でなくて良かったわ。あら…?何故私は喜んでいるのかしら…?ギルの真実の愛の事なのに…)
マーガレットはモヤモヤとした気持ちを抱えていたのだった。
翌日…
マーガレットはギルバートを屋敷に残し、街へと出掛けた。バイオレットとギルバートを合わせたくなかったのだ。
(何故あの女性はギルと殿下を間違えてしまったのかしら…?)
マーガレットが考えながら歩いていると、いきなり腕を掴まれた。伸びた爪が腕に引っかかり、マーガレットの腕は線が入った様に赤く腫れていた。
「ちょっとあなた!ギルバート様と一緒にいた田舎者ね?ギルバート様は何処?何故あの様な格好でこの様な所にいるの?」
バイオレットだった。
「あの…何か勘違いをしているのではないかしら…?ギルはギルバート殿下ではありませんわ。ケナード家の執事ですもの」
マーガレットはバイオレットに告げたが、彼女は信じなかった。
「嘘よ!私が見間違う筈ないじゃない!わかったわ…そう言って独り占めしようとしているのね?それに、勝手にギルと呼ぶなんて不敬だわ!」
バイオレットは、目敏くもマーガレットの腕に付いている黒い宝石を見つけてしまった。
「なによ!こんな物!」
バイオレットがマーガレットの腕輪を無理矢理取ろうとし、マーガレットは必死に抵抗していた。
その時、マーガレットを優しく抱きかかえるギルバートが現れた。
「今すぐにその手を放せ。この事は公爵家に抗議をしておく。言い訳を考えながら、速やかにシルベスタへ戻ることだな」
「ギルバート様!誤解でございます!」
バイオレットの声色が猫なで声に変わった。
「名を呼ぶなと言ったはずだ。三度目はないと思え」
「でも…」
言い返そうと思ったバイオレットだったが、ギルバートの表情を見て固まってしまった。
「この腕に傷を付けたのはお前か?」
「い、いえ!違います!!」
ギルバートの顔を見て震え上がったバイオレットは、すぐさま馬車に乗り込んで逃げていったのだった。
「大丈夫かい?」
先程とは打って変わった優しい声で、ギルバートがマーガレットに尋ねた。
「えぇ、ありがとう。今日は屋敷にいるように言ったと思ったのだけれど…」
「あぁ、運が良かったよ。それでも傷を付けてしまったね…」
ギルバートはマーガレットの腕を見ながら悔しそうに言った。
「私は大丈夫よ?すぐに治るわ」
「それでもすまなかった…」
マーガレットはいたたまれなくなってしまい、ギルバートに尋ねた。
「ギルはどうしてここに居たのかしら?」
「実は、マーガレット嬢を迎えに来たのだ。屋敷に戻ってから、伝えたい話があるのだ」
ギルバートのいつになく真剣な表情に、マーガレットは無言で頷き、屋敷へと戻って行ったのだった。
そして…
「今日のところは引き下がるわ。でも、帰ったらお父様に言いつけてやる!私はギルバート様の婚約者の最有力候補なのよ!」
最初は青い顔をして静かだったバイオレットだったが、シルベスタに向かう長い道のりで、元の高飛車な性格に戻っていたのだった。
ギルバートが決死の覚悟で想いを伝えたのだが、部屋の中からは物音一つしなかった。
「嫌われてしまったのか…」
扉の前で崩れ落ちたギルバートの後ろから声がかかった。
「ギル…?」
「マーガレット嬢!」
マーガレットは部屋にいなかったのだった。
「良かったわ!置いてきてしまったから、馬車を出そうと思っていた所だったの…」
「マーガレット嬢、その…気にしてはいないのかい…?」
普段通りのマーガレットに、ギルバートは不思議に思った。
「ご令嬢のことかしら?……ギルをギルバート殿下と間違えるだなんて、変わったお方ね。でも…」
「でも…?」
「ギルの好きな女性のことをあまり言いたくは無いのだけれど…ギルのことを殿下として見るだなんて、身分に拘りが強いお方だと思うの。ギルには他に良い女性がいると思うわ」
「え…?どういう意味だろうか…?」
「だって、帝国の皇太子殿下が伯爵家の執事をするはずがないもの。それなのにギルを殿下と見立ててしまうだなんて…思い込みとは怖いものね?」
「そ、そうだな…」
(これは喜ぶべきなのだろうか…?)
ギルバートは悩んでいたが、バイオレットとは何も関係が無いことだけは伝えた。
「マーガレット嬢、先程のご令嬢は私の想い人ではないよ」
「まぁ!そうだったのね。良かったわ」
マーガレットは喜び、ギルバートを置いて行った事を再び謝ってから部屋に入っていった。
(正体の事でないのなら、何故走って行ってしまったんだ…?)
ギルバートはマーガレットを見送りながらそんな事を考えていたのだった。
(あの女性がギルの想い人でなくて良かったわ。あら…?何故私は喜んでいるのかしら…?ギルの真実の愛の事なのに…)
マーガレットはモヤモヤとした気持ちを抱えていたのだった。
翌日…
マーガレットはギルバートを屋敷に残し、街へと出掛けた。バイオレットとギルバートを合わせたくなかったのだ。
(何故あの女性はギルと殿下を間違えてしまったのかしら…?)
マーガレットが考えながら歩いていると、いきなり腕を掴まれた。伸びた爪が腕に引っかかり、マーガレットの腕は線が入った様に赤く腫れていた。
「ちょっとあなた!ギルバート様と一緒にいた田舎者ね?ギルバート様は何処?何故あの様な格好でこの様な所にいるの?」
バイオレットだった。
「あの…何か勘違いをしているのではないかしら…?ギルはギルバート殿下ではありませんわ。ケナード家の執事ですもの」
マーガレットはバイオレットに告げたが、彼女は信じなかった。
「嘘よ!私が見間違う筈ないじゃない!わかったわ…そう言って独り占めしようとしているのね?それに、勝手にギルと呼ぶなんて不敬だわ!」
バイオレットは、目敏くもマーガレットの腕に付いている黒い宝石を見つけてしまった。
「なによ!こんな物!」
バイオレットがマーガレットの腕輪を無理矢理取ろうとし、マーガレットは必死に抵抗していた。
その時、マーガレットを優しく抱きかかえるギルバートが現れた。
「今すぐにその手を放せ。この事は公爵家に抗議をしておく。言い訳を考えながら、速やかにシルベスタへ戻ることだな」
「ギルバート様!誤解でございます!」
バイオレットの声色が猫なで声に変わった。
「名を呼ぶなと言ったはずだ。三度目はないと思え」
「でも…」
言い返そうと思ったバイオレットだったが、ギルバートの表情を見て固まってしまった。
「この腕に傷を付けたのはお前か?」
「い、いえ!違います!!」
ギルバートの顔を見て震え上がったバイオレットは、すぐさま馬車に乗り込んで逃げていったのだった。
「大丈夫かい?」
先程とは打って変わった優しい声で、ギルバートがマーガレットに尋ねた。
「えぇ、ありがとう。今日は屋敷にいるように言ったと思ったのだけれど…」
「あぁ、運が良かったよ。それでも傷を付けてしまったね…」
ギルバートはマーガレットの腕を見ながら悔しそうに言った。
「私は大丈夫よ?すぐに治るわ」
「それでもすまなかった…」
マーガレットはいたたまれなくなってしまい、ギルバートに尋ねた。
「ギルはどうしてここに居たのかしら?」
「実は、マーガレット嬢を迎えに来たのだ。屋敷に戻ってから、伝えたい話があるのだ」
ギルバートのいつになく真剣な表情に、マーガレットは無言で頷き、屋敷へと戻って行ったのだった。
そして…
「今日のところは引き下がるわ。でも、帰ったらお父様に言いつけてやる!私はギルバート様の婚約者の最有力候補なのよ!」
最初は青い顔をして静かだったバイオレットだったが、シルベスタに向かう長い道のりで、元の高飛車な性格に戻っていたのだった。
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