上 下
84 / 100
第三章

閑話 ここ掘れわんわん

しおりを挟む
ビクトールに外出禁止令を出されてしまった翌日…

マーガレット達は、ケナード伯爵家の敷地内の裏庭にいた。庭しか行ける所がなかったのだ。

マーガレットがお茶を嗜んでいると、スコッグが突然木の麓を掘り出した。

― ワンワン!

「まぁ、スコッグ。悪戯は駄目よ」

マーガレットはスコッグを止めようと木の麓に行ったが、そこには妖精が集まっていることに気が付いた。

(まぁ、土の中に何かあるのかしら?)

マーガレットは面白そうだと、一緒になって土を掘り出した。

「「マーガレット様!」」

ギルバートとオリビアは慌ててマーガレットを止めた。

「せめて道具を使ってください。こんなに手が汚れてしまって…良かった。怪我は無いようですね」

オリビアはそう言って濡れた布でマーガレットの手を綺麗に拭いた。

「マーガレット様、気になる様でしたら私が掘り起こしますので、手を洗って来てください」

ギルバートに言われてマーガレットは手を洗いに行った。


庭に戻ると、シャベルを持ったギルバートが土を掘っていて、スコッグはずっと鳴いていた。

「もっと深く」とでも言う様に、スコッグは鳴き続けた。

そしてスコッグが鳴き止んだ時、ギルバートはシャベルに何か当たったのを感じた。

ギルバートがシャベルを置いて手で掘り進めると、三角の形をした石が出てきた。

「こ、これは…」

マーガレットが後ろから覗き込んだ。

「まぁ!シルベスタで見た石碑によく似ているわね」

「ですが…」

ギルバートは何か考え込んでいた。

「いえ、これはあそこの石碑に比べて新しいようです。最近出来た物なのではないでしょうか…?」

「そう言われるとそうかも知れないわ…ギジルったら何でも知ってるのね」

マーガレットはギルバートを褒めたが、ギルバートは考えるのに夢中で聞いていなかった。

(何故精霊の石碑がケナード家の庭に埋まっていたのだ…?この古代文字は間違いない。シルベスタを去った後にクラレンスに移住したのだろうか…?しかし…)

どう考えたってこの石碑は真新しい。

しかし、シルベスタから精霊が居なくなったのは何百年も前の話だ。クラレンスに精霊がいた話も聞いたことのないギルバートは疑問に思った。


すると、穴の中から一匹のモグラが出てきた。

「まぁ、可愛らしいモグラね。いつからここに住んでいたのかしら?」

「マーガレット様、危険です!」

撫でようと手を出したマーガレットをギルバートが止めた。

― キュー

つぶらな瞳でマーガレットを見てくるモグラに、害などあるはずもない。そう思ったマーガレットだったが、手を出さずにモグラに話しかけた。

「こんにちは。あなたのお家を掘ってしまってごめんなさいね」

― キュー

(まぁ、モグラってこんなに可愛いのね)

「あなたのことをヨードって呼んでもいいかしら?」

― キュー!

「ヨード、ゆっくり休んでね」

マーガレット達は掘り起こしてしまったヨードの住処を戻したのだった。


土で汚れてしまった二人は屋敷に戻り、着替えた後にティールームで過ごすことにした。

「ヨードはとても可愛かったわね」

「マーガレット様、土を手で掘ったり、得体の知れない生き物に手を出すことはお控えください。心臓が縮まってしまいます」

遂にオリビアがマーガレットに苦言した。

「まぁ、ごめんなさいね。気を付けるわ」

申し訳無さそうに謝ったマーガレットだったが、オリビアは信用していなかった。

(きっとまた面白そうだと言ってしまうのよね…でも、それがマーガレット様の良いところでもあるし、私が気を付けないと!)

そう決心したオリビアだが、既に仕方がないと諦めているので、マーガレットを阻止する事は出来ないだろう。


着替えのために一人になったギルバートは考えていた。

(やはりマーガレット嬢と精霊の導きは繋がっているのだ。そうでなければこの様な事が起こるはずもない。明日になったら再び見に行ってみよう)


こうしてマーガレット達の外出禁止一日目は、土掘りと石碑の発見で終わった。


だが、終われない者が一人いた。


「セバス、私が何を言いたいのかわかりますね?」

セバスはクロードに呼び出されていたのだった。

「えぇと…庭を掘り起こしていた事でしょうか…?ははは…」

「危険な事はすぐに止めなさい。庭師も嘆いていましたよ」

「申し訳ございません…」

その夜はクロードにたっぷりと説教をされたセバスだった。


翌日、クロードは庭師と共に土の整備をしていた。

「この木はマーガレット様がご生誕された時にビクトール様が植えた苗木です。枯れることのないようにお願いします」

ギルバートは石碑の近くに行くことは出来ず、クロード達に叱られたのだった。


ケナード伯爵家には新たに[庭を勝手に掘り起こしてはいけない]という規則ができたため、その後マーガレットがヨードを見ることは叶わなかった。

発見された石碑と突然現れたヨードは謎のまま、土の中にいる。

だが、ヨードは今も土の中で過ごしている事だろう。

マーガレットのために植えられた木は、頑丈に、そして美しく成長している。


この時の事を思い出したクロード達は、ギルバートの報復に、人知れず怯えていたのだった。

(皇太子殿下を説教してしまったんですね…一体何度注意をしてしまったんでしょうか…考えるのが恐ろしい…)


・・・・・

ヨード = 土
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

残念な婚約者~侯爵令嬢の嘆き~

cyaru
恋愛
女の子が皆夢見る王子様‥‥でもね?実際王子の婚約者なんてやってられないよ? 幼い日に決められてしまった第三王子との婚約にうんざりする侯爵令嬢のオーロラ。 嫌われるのも一つの手。だけど、好きの反対は無関心。 そうだ!王子に存在を忘れてもらおう! ですがその第三王子、実は・・・。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。目標は8月25日完結目指して頑張ります。

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位)

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

間違った方法で幸せになろうとする人の犠牲になるのはお断りします。

ひづき
恋愛
濡れ衣を着せられて婚約破棄されるという未来を見た公爵令嬢ユーリエ。 ───王子との婚約そのものを回避すれば婚約破棄など起こらない。 ───冤罪も継母も嫌なので家出しよう。 婚約を回避したのに、何故か家出した先で王子に懐かれました。 今度は異母妹の様子がおかしい? 助けてというなら助けましょう! ※2021年5月15日 完結 ※2021年5月16日  お気に入り100超えΣ(゚ロ゚;)  ありがとうございます! ※残酷な表現を含みます、ご注意ください

処理中です...