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第二章

皇太子殿下の婚約者

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「マーガレット嬢は、帝国の第一王子である私に未だに婚約者が居ないことを不思議に思うかい?」

老人がいなくなってから、ギルバートがマーガレットに聞いた。

「クラレンス王国の王太子殿下は幼少の頃に婚約者が決まったと聞いているわ…帝国では違うのかしら?」

「普通はそうだろうね。詳しくは話せないが、シルベスタでは王族の伴侶は精霊が導くと言い伝えられていてね…貴族家の者達は年頃になると婚約者が決まるよ」

ギルバートは苦笑しながら話した。

「ただ…もうずっと長い事、精霊の導きはないのだ。現国王である父上にも導きは無く、最後まで待っていてね。母上に会えた事が奇跡のようなものだよ。私も…そんな状況が続いたからだろうね。シルベスタは身分の隔たりが少ない。現在の王族の伴侶に求められる細かい条件は色々とあるが、必須条件は貴族である事と清い身でいる事だけなのだ」

話し終えたギルバートは、マーガレットに質問した。

「マーガレット嬢には婚約者はいないのかい?聞いたことが無かったね」

「そうですね…」

マーガレットは少し言い辛そうにしてから話し始めた。

「私は出戻りなのです…夫だったお方に真実の愛のお相手様がいらっしゃったの。嫁ぎ先では自由にさせて貰っていたので楽しい生活でしたわ。それに、物語のようでワクワクしてしまったの…」

「その…以前の主人との関係は…?」

マーガレットの衝撃の事実を聞いてしまったギルバートの声は、心做しか震えていた。

「愛するお方がいらっしゃるのですもの。私とは白い結婚でしたわ」

マーガレットは何でもないように微笑んでいた。

「そうか、白い結婚か!それにしても、ここでも真実の愛が出てくるとは…私には理解できないよ。婚約者が決まる事すら羨ましいと思ってしまう。シルベスタではどんな理由であれ不貞は許されていないからね。将来を誓った一人の女性を大切に出来ないなんて…あぁ、気を悪くさせてしまったらすまない」

ギルバートは途中で我に返って謝ったが、マーガレットは特に気にしてはいなかった。

「大丈夫ですわ。文化や考え方が違うのは当たり前のことですもの。でも、私はどうしても真実の愛に憧れてしまうの。そのお方に大切にされたいと願ってしまう…本の読み過ぎかも知れないわね」

「大切にされたい、か…」

ギルバートは気を取り直した様に明るい雰囲気を出し、マーガレットの神殿案内を再開したのだった。


「マーガレット嬢、次回も楽しみにしているよ。日程は追って手紙で知らせよう」

「ありがとうございます。次回も楽しみにしておりますわ」

ギルバートは城に帰って行き、マーガレットは宿に戻った。


部屋に戻ったマーガレットは、一人考えていた。

(国が違うと何もかもが違うのね。クラレンスで真実の愛のおとぎ話があるように、シルベスタにも精霊様の逸話があるのね…不思議だわ。あのお爺さんにまたお会いできるかしら…?精霊様のお話をお聞きしたいわ。それに、妖精さんのことも何か知っているのかもしれないもの…)

こうしてマーガレットの一日が終わった。
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