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第二章
精霊の神殿
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「ここが精霊を祀る神殿だよ」
マーガレット達はギルバートの案内で小さな神殿の中にいた。
神殿は古い石造りの建物で、壁には壁画が描かれていた。
そこには羽がある人間とそうでない人間が描かれていて、羽のある人間が精霊なのだろう。精霊が人間に手を翳す壁画や、人間達が精霊を拝んでいる壁画もあった。
(まぁ、とても神秘的な壁画だわ。これが精霊様なのね…)
マーガレットは壁画に近づいて眺めていた。
「誰がいつ、どうやってこの壁画を描いたのかは未だに解明されていないのだ。言い伝えでは、当時のシルベスタには羽の生えた種族が居たという」
ギルバートがマーガレットに壁画の説明をした。
「そうなのですね。では、ここに描かれている物は実際に起きた出来事なのでしょうか…?」
「そうだね、この壁画を見てごらん」
ギルバートが一つの壁画を指差した。
「これは、冠かしら…?」
マーガレットは小さな声で呟いた。
「そう、これは当時の王族だったと言われていてね。羽を持つ人が王族を導いているように見えるだろう?だからシルベスタでは、この種族を精霊として信仰するようになったそうだ」
「これはとんだ失礼を…」
マーガレットは自身の独り言を聞かれていた事に焦ったが、ギルバートに懇願されてしまった。
「シルベスタ帝国ではそこまで身分に隔たりがないし、どうか楽にして欲しい。私達は友人だろう?畏まられてしまうと私も気が抜けないよ」
「……ギルバート殿下のお望みでしたら…」
(よしっ!)
ギルバートはマーガレットの友人の座を勝ち取った?のだった。
(ギルバート殿下と友人だなんて良かったのかしら…?でも、私も肩の力が抜けるもの。お互いに気の楽な方が良いわよね)
ケナード領からあまり出たことのないマーガレットは、堅苦しい言葉遣いが好きではなかった。基本的に暢気であるが生真面目な性格でもあった為、言葉遣いには気を付けていたのだった。
マーガレットがギルバートに説明されながら壁画を眺めていると、年老いた男が神殿に入って来た。
「これはこれは…お若い方達が神殿に来るとは珍しいですな」
「ごきげんよう」
マーガレットがペコリと簡単なお辞儀をした。
「いやはや、若い者達はあまり興味を持ちませんからな。精霊の言い伝えも廃れて行ってしまった…」
老人は顔を歪ませてそう言った。
「あなたは言い伝えに詳しいのだろうか?」
ギルバートが老人に尋ねた。
「伊達に年食ってる訳ではないですからな。きっと、お若いあなたよりは詳しいでしょう。この老耄の話で良ければお聞かせしましょうぞ?」
「是非お聞きしたいわ!」
マーガレットが前のめりになって、目を輝かせていた。
「ふぉふぉふぉ。では、これは古くから言い伝えられている話でね…」
― 遠い昔、まだシルベスタが帝国になる前の話だよ。
そこには二つの国があってね。羽を持つ種族、精霊が治める国と、羽を持たない種族、人間が治める国があったんだよ。
どちらも争い事のない平和な国だった。
ある時人間の国で飢饉が起きてね、人々はとても苦しんでいたんだよ。心の優しい精霊達は、苦しむ人々を見ていられなかったんだね。だから手を差し伸べたんだよ。
精霊達は不思議な力で人間達の国を豊かにしていって、人々は涙を流して感謝をしたそうだよ。
でも、人間っていうものは欲張りな種族だったんだよ。
精霊達のお陰で国が豊かになったのにね…
「もっと豊かにして欲しい」
「もっと楽な生活を送れるようにして欲しい」
次第にそう言うようになっていったんだよ。
精霊達が拒むと今度は怒り出してしまってね。それは酷いものだったそうだよ。
精霊達は人々の変わりように心が傷付いてしまったんだよ。優しくて繊細な心を持っていたからね。
彼らは国を捨てる決心をして、遠い場所へと移り去って行ってしまったんだよ。
人々は精霊達の居なくなった国を自分達の物にして、豊かな国が手に入ったと喜んでいたよ。
でも、段々と実りが悪くなって、また飢饉が起きてしまったんだよ。
当時の人間の王は、その時になって初めて後悔したんだよ。自分達を助けてくれた精霊達を追いやってしまったんだとね。
それから精霊達に戻って来て欲しいという願いと、感謝の気持ちを忘れてはいけない、必要以上に欲張ってはいけないと、過去の過ちを忘れないように、この神殿が建てられたんだよ。
「これが古くから言い伝えられている話だよ。若い者は知らないだろう。時の流れとはそういう物なんだよ。悲しい事だね…」
話し終えた老人の顔はとても辛そうだった。
「とても悲しいお話ね。私達は精霊様への感謝の気持ちを忘れてはならないのだわ…」
老人の話を聞いて、マーガレットは悲しくなった。
「優しいお嬢さんなら大丈夫でしょうな。そして、王族には他にも言い伝えられている話がある…そうでしょう?」
老人がギルバートに聞いた。
「あぁ。あなたの話は初めて聞いたが、王族の者にしか伝えられない話はよく聞かされている」
「そうでしょう。心に留めておきなさい。決して忘れてはいけないよ」
そう言って、老人は神殿を出ていったのだった。
(昔は羽の生えた種族がいたのね…あら?羽があるのなら、妖精さんは精霊様と関係があるのかしら?そう言えば、帝国に入ってからはまだ妖精さんを見ていないわ…)
「お爺さん、お聞きしたいことが…」
マーガレットは老人に妖精の事を聞こうと外に出たが、老人は何処にもいなかった。
マーガレット達はギルバートの案内で小さな神殿の中にいた。
神殿は古い石造りの建物で、壁には壁画が描かれていた。
そこには羽がある人間とそうでない人間が描かれていて、羽のある人間が精霊なのだろう。精霊が人間に手を翳す壁画や、人間達が精霊を拝んでいる壁画もあった。
(まぁ、とても神秘的な壁画だわ。これが精霊様なのね…)
マーガレットは壁画に近づいて眺めていた。
「誰がいつ、どうやってこの壁画を描いたのかは未だに解明されていないのだ。言い伝えでは、当時のシルベスタには羽の生えた種族が居たという」
ギルバートがマーガレットに壁画の説明をした。
「そうなのですね。では、ここに描かれている物は実際に起きた出来事なのでしょうか…?」
「そうだね、この壁画を見てごらん」
ギルバートが一つの壁画を指差した。
「これは、冠かしら…?」
マーガレットは小さな声で呟いた。
「そう、これは当時の王族だったと言われていてね。羽を持つ人が王族を導いているように見えるだろう?だからシルベスタでは、この種族を精霊として信仰するようになったそうだ」
「これはとんだ失礼を…」
マーガレットは自身の独り言を聞かれていた事に焦ったが、ギルバートに懇願されてしまった。
「シルベスタ帝国ではそこまで身分に隔たりがないし、どうか楽にして欲しい。私達は友人だろう?畏まられてしまうと私も気が抜けないよ」
「……ギルバート殿下のお望みでしたら…」
(よしっ!)
ギルバートはマーガレットの友人の座を勝ち取った?のだった。
(ギルバート殿下と友人だなんて良かったのかしら…?でも、私も肩の力が抜けるもの。お互いに気の楽な方が良いわよね)
ケナード領からあまり出たことのないマーガレットは、堅苦しい言葉遣いが好きではなかった。基本的に暢気であるが生真面目な性格でもあった為、言葉遣いには気を付けていたのだった。
マーガレットがギルバートに説明されながら壁画を眺めていると、年老いた男が神殿に入って来た。
「これはこれは…お若い方達が神殿に来るとは珍しいですな」
「ごきげんよう」
マーガレットがペコリと簡単なお辞儀をした。
「いやはや、若い者達はあまり興味を持ちませんからな。精霊の言い伝えも廃れて行ってしまった…」
老人は顔を歪ませてそう言った。
「あなたは言い伝えに詳しいのだろうか?」
ギルバートが老人に尋ねた。
「伊達に年食ってる訳ではないですからな。きっと、お若いあなたよりは詳しいでしょう。この老耄の話で良ければお聞かせしましょうぞ?」
「是非お聞きしたいわ!」
マーガレットが前のめりになって、目を輝かせていた。
「ふぉふぉふぉ。では、これは古くから言い伝えられている話でね…」
― 遠い昔、まだシルベスタが帝国になる前の話だよ。
そこには二つの国があってね。羽を持つ種族、精霊が治める国と、羽を持たない種族、人間が治める国があったんだよ。
どちらも争い事のない平和な国だった。
ある時人間の国で飢饉が起きてね、人々はとても苦しんでいたんだよ。心の優しい精霊達は、苦しむ人々を見ていられなかったんだね。だから手を差し伸べたんだよ。
精霊達は不思議な力で人間達の国を豊かにしていって、人々は涙を流して感謝をしたそうだよ。
でも、人間っていうものは欲張りな種族だったんだよ。
精霊達のお陰で国が豊かになったのにね…
「もっと豊かにして欲しい」
「もっと楽な生活を送れるようにして欲しい」
次第にそう言うようになっていったんだよ。
精霊達が拒むと今度は怒り出してしまってね。それは酷いものだったそうだよ。
精霊達は人々の変わりように心が傷付いてしまったんだよ。優しくて繊細な心を持っていたからね。
彼らは国を捨てる決心をして、遠い場所へと移り去って行ってしまったんだよ。
人々は精霊達の居なくなった国を自分達の物にして、豊かな国が手に入ったと喜んでいたよ。
でも、段々と実りが悪くなって、また飢饉が起きてしまったんだよ。
当時の人間の王は、その時になって初めて後悔したんだよ。自分達を助けてくれた精霊達を追いやってしまったんだとね。
それから精霊達に戻って来て欲しいという願いと、感謝の気持ちを忘れてはいけない、必要以上に欲張ってはいけないと、過去の過ちを忘れないように、この神殿が建てられたんだよ。
「これが古くから言い伝えられている話だよ。若い者は知らないだろう。時の流れとはそういう物なんだよ。悲しい事だね…」
話し終えた老人の顔はとても辛そうだった。
「とても悲しいお話ね。私達は精霊様への感謝の気持ちを忘れてはならないのだわ…」
老人の話を聞いて、マーガレットは悲しくなった。
「優しいお嬢さんなら大丈夫でしょうな。そして、王族には他にも言い伝えられている話がある…そうでしょう?」
老人がギルバートに聞いた。
「あぁ。あなたの話は初めて聞いたが、王族の者にしか伝えられない話はよく聞かされている」
「そうでしょう。心に留めておきなさい。決して忘れてはいけないよ」
そう言って、老人は神殿を出ていったのだった。
(昔は羽の生えた種族がいたのね…あら?羽があるのなら、妖精さんは精霊様と関係があるのかしら?そう言えば、帝国に入ってからはまだ妖精さんを見ていないわ…)
「お爺さん、お聞きしたいことが…」
マーガレットは老人に妖精の事を聞こうと外に出たが、老人は何処にもいなかった。
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