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第一章

人たらし…?

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自由気ままな生活をしていたマーガレットは、身の回りの世話をしてくれる使用人たちによく声を掛けていた。

「いつもありがとう」「あなた達のお陰よ」

身分差別が激しく、使用人を人とも思わないような貴族が多いこの国では、マーガレットの様に気さくに使用人に話し掛ける令嬢は特に珍しかった。


平民の愛人を追い出すためにマーガレットに協力しようと思っていた、長年テイラー家に仕えていた上級使用人たちは、次第に考えを変えていったのだった。

((忠誠を誓うのはテイラー伯爵家ではなく、マーガレット様なのでは…?))

上級使用人たちは、次第にマーガレットを「奥様」ではなく「マーガレット様」と、名前で呼ぶようになっていき、屋敷の空気も穏やかなものへと変わっていったのだった。


「マーガレット様、本日はどの様にして過ごされますか?」

オリビアがマーガレットに尋ねた。

「そうね…どうしようかしら…?屋敷の本は全て読み終えてしまったし…刺繍にしましょうか?」

そう答えたマーガレットだったが、一人思い悩んでいた。

(でも、刺繍もやり過ぎてしまってたくさん部屋にあるのよね…私だけでは使い切れそうにもないわね…そうだわ!)

「ねぇ、オリビア…?」

マーガレットはあることを閃き、オリビアに相談したのだった。


その日、マーガレットの元に上級使用人たちが次から次へと訪れていた。

「マーガレット様の刺繍が施されたハンカチを頂けるというのは本当でしょうか…?」

「えぇ、たくさん出来てしまったの。貰って頂けると嬉しいのだけれど…でも、あまり上手ではないのよ…」

照れながら答えるマーガレットに、使用人たちは恐縮しながら強請っていた。

「ぜ、是非とも頂戴したく思います!」

「まぁ、ありがとう。どれでも好きなものを選んで?」

使用人たちはそれぞれ好きなものを選び、喜んで仕事に戻っていった。そんな使用人たちを嬉しそうに見ながら、マーガレットは新たな刺繍を刺していたのだった。


その日の夜、マーガレットはオリビアとセバスを呼び出した。

「これはあなた達のハンカチよ。みんなに遠慮をして、選べなかったでしょう?」

「これは…先程出来上がったものでしょうか…?」

「これを私共の為に…?」

オリビア達は戸惑いながらハンカチを受け取った。

「えぇ、特に二人にはお世話になっているもの」

マーガレットは二人に感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとうございます!」「一生大切に致します!」

喜ぶ二人を見ながらマーガレットは微笑んだ。

「大袈裟よ。でも、喜んで貰えて嬉しいわ」


こうしてテイラー家で働く上級使用人たちは、皆マーガレットのハンカチを大切に持っていたのだが、ある噂が囁かれるようになっていた。

「このハンカチを持つようになってから、良いことばかりが起こる」

「体調も良くなったように感じる」

「これは幸運のハンカチなのでは…?」

次第に、上級使用人たちはニ枚のハンカチを持ち歩くようになっていった。

一枚は普通のハンカチとして、普段使いをする為に。

そして、もう一枚はマーガレットのハンカチ。大事に懐に仕舞い、お守りとして持ち歩くようになったのだった。


マーガレットと上級使用人たちは心を許せる程に仲が深まっていた。


しかし、それを快く思わない者達がいた。

「なによ!奥様に媚び売っちゃってさ!格好悪いったらないわ!」

テイラー家で働く下級使用人たちだった。
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