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サイドストーリー
ケビンの優しさ
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気付けばいつも目で追っていた。
なんか気になる。最初はそれだけだった。
パッと目を引く美人でもないし、よく見れば少し地味な顔立ち。
美味しい料理を作る女将さんの食堂に通い始めてから彼女の存在に気付いた。
見かけると目で追ってしまう。彼女の纏ってる空気かな?居心地が良さそうで、いつも笑顔でお客さんの注文を取ったり、女将さんと楽しそうに話している姿を見ると、こっちまで嬉しくなって笑ってしまう。
「ケビンさんってよくサラちゃんの事見てますよね」
商会の店員に言われて自分が彼女を、サラさんを見ていることに気付いた。
「サラちゃんってなんかいいですよね」
「なんか見守りたくなる感じがしますよね。なんて言っても若いし」
(僕以外にも同じ様に思う人がいるのか。彼女にはスコット君という騎士の彼がいたし、年の離れた妹のようで気になっているんだろう…)
店員たちの話を聞いて、その時はそう思っていた。
いつも見ているから、彼女の気持ちの変化にもすぐわかるようになった。
だんだんと落ち込んできているサラさん。ここ最近スコット君を見ていない。もう一年以上経ってる。
(何かあったんだろうか…?)
食堂の隅で賄いを食べてる姿を見て、心配していた。
もうオムライスを食べ終わって時間が経っているのに、何処か一点を見たまま動かない。
僕は女将さんにコーヒーを入れてもらって、サラさんの席に持っていった。
サラさんに元気になって欲しい、そう思ってスイートピーを一緒に見に行かないかと誘った。
「一緒に行ってあげる」と言ったサラさんは、どこか泣きそうな顔をしていた。僕だったらそんな顔をさせないのに…
この時初めて自分の気持ちに気が付いた。
僕はサラさんを妹のように見ていたのではなく、女性として気になっていたんだ。
それからサラさんと過ごす日が増えて、穏やかで小さな幸せをいくつも感じる時間。もっとサラさんを好きになった。
(スコット君とはどうしたんだろう…?まだ付き合っているんだろうか?もし違うなら、僕を意識してくれるだろうか…?)
マロニエの花を見に行った春。
僕は思い切ってサラさんにスコット君のことを聞いてみた。もう終わっていたらしい。
だから悲しい顔をしていたのか…そう思う反面、自分にもチャンスがあるんじゃないかと期待した。
意を決して告白すると、サラさんは受け入れてくれた。
それから一年近くずっと一緒にいた。
どんどん好きになっていって、もうサラしかいないと思っていた。
初めて一緒に出かけたスイートピーの咲き誇る川辺。そこで僕はサラにプロポーズをした。
サラは泣いて受け入れてくれた。
(絶対に幸せにしよう。いや、一緒に幸せになろう)
僕は心に誓った。
二人で手を繋いで村に帰ると、女将さんが慌てて駆け寄ってきた。
どうしたんだろうとサラと顔を見合わせたら、スコット君が現れた。
今更…
そう思ったのに、サラの反応を見てしまった。
(もしかしたらサラは喜んで居るんじゃないか…)
不安に感じてしまったんだ。
その一瞬で出遅れてしまって、女将さんが僕らを庇って、スコット君に詰め寄った。
言い訳にならない言い訳を聞いて、呆れてしまった。
(なんて子供のようなことを言ってるのだろう。君がサラを手放したんだろう?話し合いもせずに、ずっと逃げていたんだろう?本当に今更だよ…)
そう思って、サラを隠すように前に出て、彼に伝えた。
スコット君の言葉には呆れ、失望しかなかった。
(受け入れてないって、何年経ってると思ってるんだ?そんなに待つわけないだろう。サラは君の物じゃないのに。会って話せば…なんて言って、会わなかったのは君じゃないか)
彼にサラも苛立ちを隠しきれなかったんだろう。握っている右手にギュッと力が入って、サラが隣に立った。
「勝手なこと言わないで!私達はもう終わったの。もう三年だよ?スコットは何も言ってくれなかった。その時点で私達は終わったのよ」
サラの言葉にみんなが頷いた。
(何もわかってないのはスコット君、君だけなんだよ。君の言い分はおかしいんだ)
僕はそう思った。
「関係ないやつは引っ込んでろよ!」
そう怒鳴ったスコット君に我慢出来なくなって、冷たく言い放った。
「関係なくありません。先程サラにプロポーズをして、受け入れてもらいました。関係ないのはスコット君、あなたの方では…?」
そうしたら、わぁっと歓声が上がるとともに、みんなに囲まれて祝福された。
彼は村の人達に輪の外に追いやられていた。
「サラ!俺を捨てないでくれ!愛してるんだ!」
叫ぶスコット君に向かって、サラが言った。
「私も愛していたよ。もうずっと前だけど…私は私だけを見てくれる人が良いの。幸せにしてくれるんじゃなくて、一緒に幸せになれる人が良いの。浮気の心配ばかりするんじゃなくて、穏やかで心地よい、小さな幸せを感じて生きていきたいの。さようなら、スコット。騎士になったあなたを、いつまでも応援してるよ」
立ち尽くすスコット君を残して、サラと一緒に家に帰った。
村の人達も「今日は飲むぞ!」と言いながら、ぱらぱらと散っていった。
道の真ん中で、彼だけがただ一人佇んでいた。
「ケビンさん、ありがとう」
サラの言葉に僕は思った。
(僕の方こそありがとう。僕を選んでくれて、一緒にいる時間が幸せだと言ってくれて、一緒に幸せになりたいと言ってくれて、ありがとう)
「「一緒に幸せになりましょう」」
僕はこの手を絶対に放さない。
なんか気になる。最初はそれだけだった。
パッと目を引く美人でもないし、よく見れば少し地味な顔立ち。
美味しい料理を作る女将さんの食堂に通い始めてから彼女の存在に気付いた。
見かけると目で追ってしまう。彼女の纏ってる空気かな?居心地が良さそうで、いつも笑顔でお客さんの注文を取ったり、女将さんと楽しそうに話している姿を見ると、こっちまで嬉しくなって笑ってしまう。
「ケビンさんってよくサラちゃんの事見てますよね」
商会の店員に言われて自分が彼女を、サラさんを見ていることに気付いた。
「サラちゃんってなんかいいですよね」
「なんか見守りたくなる感じがしますよね。なんて言っても若いし」
(僕以外にも同じ様に思う人がいるのか。彼女にはスコット君という騎士の彼がいたし、年の離れた妹のようで気になっているんだろう…)
店員たちの話を聞いて、その時はそう思っていた。
いつも見ているから、彼女の気持ちの変化にもすぐわかるようになった。
だんだんと落ち込んできているサラさん。ここ最近スコット君を見ていない。もう一年以上経ってる。
(何かあったんだろうか…?)
食堂の隅で賄いを食べてる姿を見て、心配していた。
もうオムライスを食べ終わって時間が経っているのに、何処か一点を見たまま動かない。
僕は女将さんにコーヒーを入れてもらって、サラさんの席に持っていった。
サラさんに元気になって欲しい、そう思ってスイートピーを一緒に見に行かないかと誘った。
「一緒に行ってあげる」と言ったサラさんは、どこか泣きそうな顔をしていた。僕だったらそんな顔をさせないのに…
この時初めて自分の気持ちに気が付いた。
僕はサラさんを妹のように見ていたのではなく、女性として気になっていたんだ。
それからサラさんと過ごす日が増えて、穏やかで小さな幸せをいくつも感じる時間。もっとサラさんを好きになった。
(スコット君とはどうしたんだろう…?まだ付き合っているんだろうか?もし違うなら、僕を意識してくれるだろうか…?)
マロニエの花を見に行った春。
僕は思い切ってサラさんにスコット君のことを聞いてみた。もう終わっていたらしい。
だから悲しい顔をしていたのか…そう思う反面、自分にもチャンスがあるんじゃないかと期待した。
意を決して告白すると、サラさんは受け入れてくれた。
それから一年近くずっと一緒にいた。
どんどん好きになっていって、もうサラしかいないと思っていた。
初めて一緒に出かけたスイートピーの咲き誇る川辺。そこで僕はサラにプロポーズをした。
サラは泣いて受け入れてくれた。
(絶対に幸せにしよう。いや、一緒に幸せになろう)
僕は心に誓った。
二人で手を繋いで村に帰ると、女将さんが慌てて駆け寄ってきた。
どうしたんだろうとサラと顔を見合わせたら、スコット君が現れた。
今更…
そう思ったのに、サラの反応を見てしまった。
(もしかしたらサラは喜んで居るんじゃないか…)
不安に感じてしまったんだ。
その一瞬で出遅れてしまって、女将さんが僕らを庇って、スコット君に詰め寄った。
言い訳にならない言い訳を聞いて、呆れてしまった。
(なんて子供のようなことを言ってるのだろう。君がサラを手放したんだろう?話し合いもせずに、ずっと逃げていたんだろう?本当に今更だよ…)
そう思って、サラを隠すように前に出て、彼に伝えた。
スコット君の言葉には呆れ、失望しかなかった。
(受け入れてないって、何年経ってると思ってるんだ?そんなに待つわけないだろう。サラは君の物じゃないのに。会って話せば…なんて言って、会わなかったのは君じゃないか)
彼にサラも苛立ちを隠しきれなかったんだろう。握っている右手にギュッと力が入って、サラが隣に立った。
「勝手なこと言わないで!私達はもう終わったの。もう三年だよ?スコットは何も言ってくれなかった。その時点で私達は終わったのよ」
サラの言葉にみんなが頷いた。
(何もわかってないのはスコット君、君だけなんだよ。君の言い分はおかしいんだ)
僕はそう思った。
「関係ないやつは引っ込んでろよ!」
そう怒鳴ったスコット君に我慢出来なくなって、冷たく言い放った。
「関係なくありません。先程サラにプロポーズをして、受け入れてもらいました。関係ないのはスコット君、あなたの方では…?」
そうしたら、わぁっと歓声が上がるとともに、みんなに囲まれて祝福された。
彼は村の人達に輪の外に追いやられていた。
「サラ!俺を捨てないでくれ!愛してるんだ!」
叫ぶスコット君に向かって、サラが言った。
「私も愛していたよ。もうずっと前だけど…私は私だけを見てくれる人が良いの。幸せにしてくれるんじゃなくて、一緒に幸せになれる人が良いの。浮気の心配ばかりするんじゃなくて、穏やかで心地よい、小さな幸せを感じて生きていきたいの。さようなら、スコット。騎士になったあなたを、いつまでも応援してるよ」
立ち尽くすスコット君を残して、サラと一緒に家に帰った。
村の人達も「今日は飲むぞ!」と言いながら、ぱらぱらと散っていった。
道の真ん中で、彼だけがただ一人佇んでいた。
「ケビンさん、ありがとう」
サラの言葉に僕は思った。
(僕の方こそありがとう。僕を選んでくれて、一緒にいる時間が幸せだと言ってくれて、一緒に幸せになりたいと言ってくれて、ありがとう)
「「一緒に幸せになりましょう」」
僕はこの手を絶対に放さない。
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全話予約公開にしたので、21日で完結します。
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