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本編
待つのは止めよう
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それから一年経っても、スコットは私に会いに来なかった。
来たのは一通の手紙だけ。
― ここでの遠征が延長して帰れなくなった。もう少し待っていて欲しい ―
彼のぶっきらぼうな字で、それだけが書いてあった。
それから半年経っても彼は会いに来なかったし、手紙も無かった。
(もう待つのはやめよう…)
私はスコットに手紙を書いた。
― スコット、ごめんね。もう待てないよ。今でも騎士になったスコットは応援してる。でも、一緒にはいられない。ベスさんと仲良くね。さようなら。 サラ ―
孤児院を出てからは一年に一回しか会えなかったけど、小さい頃から知っていたスコット。
泣き虫だった彼はいつも私の後ろを付いて歩いていた。
いつの間にか逞しくなって、私の前を歩くようになって行って…
今はもう、もっとずっと先の、見えない前へと行ってしまった。
(さようなら、スコット…)
私は彼と一緒に過ごした時間を思い出して泣いた。
それから暫く経ったある日…
昼食のピークを終えて、女将さんに言われて食堂の隅のテーブルで賄いのオムライスを食べていた。
(私の作ったオムライス、スコットは好きだったな…)
そんな事を考えてぼうっとしてると、スッとコーヒーが目の前に差し出された。
思わず顔を見上げると、ケビンさんだった。
「最近元気がないですね。僕で良ければ話を聞きますよ?」
ケビンさんが優しく、ゆっくりな声で、私にそう言ってくれた。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。これからの事を考えていただけなので…」
(これからどうしたら良いんだろう…?)
私は自分の将来が急に不安になった。
スコットはいない。この村の人達も、歳の近い人はみんな結婚して家庭を持っている。私だけが一人…
不安になって俯いた私にケビンさんが聞いてくれた。
「もしよかったら、今度一緒に川の向こう岸に行きませんか?スイートピーが見頃なんですよ。知ってました?」
「もうそんな季節なんですね…」
「そうですよね。時間が経つのはあっという間です。花を見に行くのに男一人では行き辛くって…かと言って、同僚を誘って男だけで行くのも気味が悪いですし…私を助けると思って、一緒に行ってくれませんか?」
巫山戯たように言ってくれたケビンさんの優しさにふれて、私は誘いに乗ることにした。
「仕方ないですね。一緒に行ってあげますよ」
二人で川沿いを歩きながら、咲き乱れたスイートピーを見ていた。
「私はこういうゆっくりとした時間が好きなんです。のんびり過ごして、綺麗なものを見て、美味しいものを食べて…小さな幸せが毎日続く事が、幸せに感じるんです。大の男なのに変でしょう?」
笑いながらケビンさんが言った。
「素敵だと思います。私も美味しいものを食べて、綺麗な景色を見る事が好きです。女将さんの作ったご飯、窓から見える夕焼け。それが幸せで、ずっとあの食堂で働いているんです」
私はケビンさんの考えと同じだと思って、そう答えた。
「女将さんの作る料理はどれも美味しいですからね。私も通ってしまいます。そうだ、今度夕食を一緒に食べに行きませんか?私があの食堂の次によく行くお店があるんですけど、そこのパスタが美味しいんですよ」
ケビンさんの誘いに、私は自然と頷いていた。
「是非!他のお店って行った事なかったので、楽しみです」
「そうですか、それは良かった。次のお休みにでも行きましょう」
こうしてケビンさんと休みの日に一緒に出かけるようになった。
彼とは10歳も離れているから、私は彼にとって妹のような存在なんだろう。
いつも優しくて、穏やかな時間。
ゆっくりと過ぎていく時間がなんだか心地良かった。スコットを思い出す回数も減っていったんだ。
来たのは一通の手紙だけ。
― ここでの遠征が延長して帰れなくなった。もう少し待っていて欲しい ―
彼のぶっきらぼうな字で、それだけが書いてあった。
それから半年経っても彼は会いに来なかったし、手紙も無かった。
(もう待つのはやめよう…)
私はスコットに手紙を書いた。
― スコット、ごめんね。もう待てないよ。今でも騎士になったスコットは応援してる。でも、一緒にはいられない。ベスさんと仲良くね。さようなら。 サラ ―
孤児院を出てからは一年に一回しか会えなかったけど、小さい頃から知っていたスコット。
泣き虫だった彼はいつも私の後ろを付いて歩いていた。
いつの間にか逞しくなって、私の前を歩くようになって行って…
今はもう、もっとずっと先の、見えない前へと行ってしまった。
(さようなら、スコット…)
私は彼と一緒に過ごした時間を思い出して泣いた。
それから暫く経ったある日…
昼食のピークを終えて、女将さんに言われて食堂の隅のテーブルで賄いのオムライスを食べていた。
(私の作ったオムライス、スコットは好きだったな…)
そんな事を考えてぼうっとしてると、スッとコーヒーが目の前に差し出された。
思わず顔を見上げると、ケビンさんだった。
「最近元気がないですね。僕で良ければ話を聞きますよ?」
ケビンさんが優しく、ゆっくりな声で、私にそう言ってくれた。
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。これからの事を考えていただけなので…」
(これからどうしたら良いんだろう…?)
私は自分の将来が急に不安になった。
スコットはいない。この村の人達も、歳の近い人はみんな結婚して家庭を持っている。私だけが一人…
不安になって俯いた私にケビンさんが聞いてくれた。
「もしよかったら、今度一緒に川の向こう岸に行きませんか?スイートピーが見頃なんですよ。知ってました?」
「もうそんな季節なんですね…」
「そうですよね。時間が経つのはあっという間です。花を見に行くのに男一人では行き辛くって…かと言って、同僚を誘って男だけで行くのも気味が悪いですし…私を助けると思って、一緒に行ってくれませんか?」
巫山戯たように言ってくれたケビンさんの優しさにふれて、私は誘いに乗ることにした。
「仕方ないですね。一緒に行ってあげますよ」
二人で川沿いを歩きながら、咲き乱れたスイートピーを見ていた。
「私はこういうゆっくりとした時間が好きなんです。のんびり過ごして、綺麗なものを見て、美味しいものを食べて…小さな幸せが毎日続く事が、幸せに感じるんです。大の男なのに変でしょう?」
笑いながらケビンさんが言った。
「素敵だと思います。私も美味しいものを食べて、綺麗な景色を見る事が好きです。女将さんの作ったご飯、窓から見える夕焼け。それが幸せで、ずっとあの食堂で働いているんです」
私はケビンさんの考えと同じだと思って、そう答えた。
「女将さんの作る料理はどれも美味しいですからね。私も通ってしまいます。そうだ、今度夕食を一緒に食べに行きませんか?私があの食堂の次によく行くお店があるんですけど、そこのパスタが美味しいんですよ」
ケビンさんの誘いに、私は自然と頷いていた。
「是非!他のお店って行った事なかったので、楽しみです」
「そうですか、それは良かった。次のお休みにでも行きましょう」
こうしてケビンさんと休みの日に一緒に出かけるようになった。
彼とは10歳も離れているから、私は彼にとって妹のような存在なんだろう。
いつも優しくて、穏やかな時間。
ゆっくりと過ぎていく時間がなんだか心地良かった。スコットを思い出す回数も減っていったんだ。
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全話予約公開にしたので、21日で完結します。
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