4 / 5
第4曲
-語る者達の真実-
しおりを挟む
「てめぇ…なんで由季とここにいる…」
「…別にあんたに関係ねぇだろ…」
男の言い方につい俺は意地を張ってしまう。
…俺もまだまだ子供だな…と、実感した。
男がジリジリと間合いを詰めてきたので俺は堂々と目を見た。
「お前…名前はなんだよ…授業出てんの見るからには3年の先輩さんなんだよな?…そいつがなんで1年の俺に突っかかってくる…」
「ムカつく…」
俺の言葉に対してボソッと聞こえた言葉は苛立ちがこもっていた。
「ち、ちょっと!?げんくん!?急に入ってきたと思ったらこれ!?」
「由季は黙ってろ…」
俺と男の間合いに由季が入ってくると軽い口論になり始めた。
…なんだってんだよ…まったく…
思ってると口論が収まったようで、2人が俺の方に向き直った。
「え、えと、彼は私の友達の《中田 玄次》くんよ。無愛想だけど根はいいやつだから仲良くしてあげて?」
「…チッ…」
玄次の舌打ちが聞こえると由季は玄次の後頭部を叩いて、俺に対して頭を下げさせる。
「別に…誰とも仲良くしようとか…思ってねぇから…」
「あ?なんだ?おい、1年坊主…その言い草…殺されてぇのか?」
「俺は事実を言った迄だけど…」
「ストップ!2人共やめなさい!」
睨み合っていた2人を、またしても由季が止めた。
…こいつと居たら体力が削られるな…
そう判断して音楽室を出ようと扉に手を掛けた。
「…逃げんのか?」
「帰る…あんた…面倒だから…」
「雨止くん、今日はありがとうね。また一緒に音楽について話しましょう?」
「…。」
睨みつけてくる玄次は当然無視して、由季が話しかけてきた言葉に返事をしないままその場を去った。
イヤホンを耳に挿して、speakerの音楽を聞こうとしていたら右肩を揺さぶられた。
「またあいつらかよ…」とか思いながら後ろを振り向くと、そこには別の2人組…蓮磨と未愛がいた。
「…どうした…?」
「一緒に…」
「一緒に帰ろうと思っての~」
蓮磨は未愛の言葉に被さるように能天気な感じで話しかけてきた。
そこで俺は改めて思った。
…この変わらない雰囲気…
「…やっぱ…これがいい…」
「何がいいの?」
「えっ、あ、いや…何も無い…」
目を逸らしながら口に出してしまった事に対して恥じらいを覚え、頬が赤くなっていく。
「変なゆきやんの~」と、また能天気に言ってきたが…顔を見せるのが嫌だったから、いつものように殴らず、代わりに制服の下に着ていたパーカーのフードを自分の顔が覆いかぶさるように被った。
2人は俺を見て笑っているに違いない。
フードを深く被りすぎて2人の顔が良く見えないが、今は見ないほうがいいと、直感で感じた。
その時、俺は初めて感じた。
冷めていた俺の心も、2人と居る温もりで温まって溶けていくような気がした。
けど。
それはあくまで『気がした』だけだった。
2人の温もりを感じ始め、それが心地いいと思った頃からずっと、じーちゃんの夢を見るようになった。
『雪人…歌ってくれんか…?』
『なんで歌ってくれんのか…?』
『なあ…雪人…』
『お前が歌ってくれなかったから…儂は死んだも同然なんだぞ…』
『早く歌ってくれ…』
『死ぬ間際まで待っていたのに…』
『…雪人…』
『…雪人…』
『…雪人…』
「うわぁぁぁあああああ!!!」
魘された。
俺は夢の所為…いや、お陰で再確認できた。
俺の所為でじーちゃんが死んだんだ。
俺が殺したようなものだ。
歌なんて…辞めてしまった方がいいんじゃないか。
そんな時に蓮磨と未愛の顔が脳裏を横切った。
「…どうすれば…どうすれば正しいんだよ…」
嗚咽を混じらせ、俺の目からは涙が溢れた。
頭を悩ませる。
俺が歌に興味を持っていなかったら無かっただろう悩み。
『辛い』
その言葉が頭の中を駆け巡る。
「…誰か…」
押し殺した声で呼ぶも、誰に助けを乞えばいいかすらも分からない。
俺が何をすればいいのかも。
わからないまま、俺の意識は再び闇の中へと誘われた。
カーテンの隙間から朝日が射して身体を日差しが叩き起こそうとしてくる。
…今日は土曜日なのに…
そう考えていたが、昨夜の事に関して頭を痛めていたから、二度寝をする気など起きもしなかった。
朝食を作って食べ終えると、洗濯や掃除等の家事を済ませた。
「…やる事ないな…」
当然、家には誰も来ない。
いつもの2人、蓮磨は両親を連れて新しい楽器や機材を買いに行ったらしい。
未愛は他のクラスの友達とショッピングに行ったらしい。
暇を持て余すつもりなんて、俺の頭にはなかったから、俺はPCに繋いだ鍵盤に手を置き、PCの楽譜に向き合った。
ヘッドフォン越しに奏でられる音色は本物と大差ないものだ。
強く弾けば強い音が出るし、その逆も然り。
防音室のこの部屋には何の音も入ってこない。
唯一あるのは俺が奏でる音のみ。
『無音』
その中から自分自身の音を奏でるなんて俺には出来なかった。
俺は自然の音を借りて、やっと曲が完成するのだから。
「…思い浮かばね…」
そう言って取り出したのはウォークマン。
俺が選ぶ項目は…やっぱりspeakerの曲。
イヤホンを両耳に挿して曲を流すと何かを感じ、曲を止めた。
「…まさか…」
その時、俺は由季がspeakerの一員なのではないかと疑った。
その理由は、先日聴いた音の弾き方、先日聴いた曲の奏で方。
殆どがspeakerの曲に当てはまっていたから。
俺の頭は混乱していた。
これを知ったからには由季たちへの接し方が僅かだが変わるかもしれない。
なにせ、俺の尊敬して、目指していた歌い手とボカロPだから。
「くそっ…意味がわからねぇ…」
そこでもまた、俺は頭を悩ませた。
じーちゃんに関しても、由季に関しても、蓮磨や未愛たちに関しても…
俺はまた涙を流した。
「…別にあんたに関係ねぇだろ…」
男の言い方につい俺は意地を張ってしまう。
…俺もまだまだ子供だな…と、実感した。
男がジリジリと間合いを詰めてきたので俺は堂々と目を見た。
「お前…名前はなんだよ…授業出てんの見るからには3年の先輩さんなんだよな?…そいつがなんで1年の俺に突っかかってくる…」
「ムカつく…」
俺の言葉に対してボソッと聞こえた言葉は苛立ちがこもっていた。
「ち、ちょっと!?げんくん!?急に入ってきたと思ったらこれ!?」
「由季は黙ってろ…」
俺と男の間合いに由季が入ってくると軽い口論になり始めた。
…なんだってんだよ…まったく…
思ってると口論が収まったようで、2人が俺の方に向き直った。
「え、えと、彼は私の友達の《中田 玄次》くんよ。無愛想だけど根はいいやつだから仲良くしてあげて?」
「…チッ…」
玄次の舌打ちが聞こえると由季は玄次の後頭部を叩いて、俺に対して頭を下げさせる。
「別に…誰とも仲良くしようとか…思ってねぇから…」
「あ?なんだ?おい、1年坊主…その言い草…殺されてぇのか?」
「俺は事実を言った迄だけど…」
「ストップ!2人共やめなさい!」
睨み合っていた2人を、またしても由季が止めた。
…こいつと居たら体力が削られるな…
そう判断して音楽室を出ようと扉に手を掛けた。
「…逃げんのか?」
「帰る…あんた…面倒だから…」
「雨止くん、今日はありがとうね。また一緒に音楽について話しましょう?」
「…。」
睨みつけてくる玄次は当然無視して、由季が話しかけてきた言葉に返事をしないままその場を去った。
イヤホンを耳に挿して、speakerの音楽を聞こうとしていたら右肩を揺さぶられた。
「またあいつらかよ…」とか思いながら後ろを振り向くと、そこには別の2人組…蓮磨と未愛がいた。
「…どうした…?」
「一緒に…」
「一緒に帰ろうと思っての~」
蓮磨は未愛の言葉に被さるように能天気な感じで話しかけてきた。
そこで俺は改めて思った。
…この変わらない雰囲気…
「…やっぱ…これがいい…」
「何がいいの?」
「えっ、あ、いや…何も無い…」
目を逸らしながら口に出してしまった事に対して恥じらいを覚え、頬が赤くなっていく。
「変なゆきやんの~」と、また能天気に言ってきたが…顔を見せるのが嫌だったから、いつものように殴らず、代わりに制服の下に着ていたパーカーのフードを自分の顔が覆いかぶさるように被った。
2人は俺を見て笑っているに違いない。
フードを深く被りすぎて2人の顔が良く見えないが、今は見ないほうがいいと、直感で感じた。
その時、俺は初めて感じた。
冷めていた俺の心も、2人と居る温もりで温まって溶けていくような気がした。
けど。
それはあくまで『気がした』だけだった。
2人の温もりを感じ始め、それが心地いいと思った頃からずっと、じーちゃんの夢を見るようになった。
『雪人…歌ってくれんか…?』
『なんで歌ってくれんのか…?』
『なあ…雪人…』
『お前が歌ってくれなかったから…儂は死んだも同然なんだぞ…』
『早く歌ってくれ…』
『死ぬ間際まで待っていたのに…』
『…雪人…』
『…雪人…』
『…雪人…』
「うわぁぁぁあああああ!!!」
魘された。
俺は夢の所為…いや、お陰で再確認できた。
俺の所為でじーちゃんが死んだんだ。
俺が殺したようなものだ。
歌なんて…辞めてしまった方がいいんじゃないか。
そんな時に蓮磨と未愛の顔が脳裏を横切った。
「…どうすれば…どうすれば正しいんだよ…」
嗚咽を混じらせ、俺の目からは涙が溢れた。
頭を悩ませる。
俺が歌に興味を持っていなかったら無かっただろう悩み。
『辛い』
その言葉が頭の中を駆け巡る。
「…誰か…」
押し殺した声で呼ぶも、誰に助けを乞えばいいかすらも分からない。
俺が何をすればいいのかも。
わからないまま、俺の意識は再び闇の中へと誘われた。
カーテンの隙間から朝日が射して身体を日差しが叩き起こそうとしてくる。
…今日は土曜日なのに…
そう考えていたが、昨夜の事に関して頭を痛めていたから、二度寝をする気など起きもしなかった。
朝食を作って食べ終えると、洗濯や掃除等の家事を済ませた。
「…やる事ないな…」
当然、家には誰も来ない。
いつもの2人、蓮磨は両親を連れて新しい楽器や機材を買いに行ったらしい。
未愛は他のクラスの友達とショッピングに行ったらしい。
暇を持て余すつもりなんて、俺の頭にはなかったから、俺はPCに繋いだ鍵盤に手を置き、PCの楽譜に向き合った。
ヘッドフォン越しに奏でられる音色は本物と大差ないものだ。
強く弾けば強い音が出るし、その逆も然り。
防音室のこの部屋には何の音も入ってこない。
唯一あるのは俺が奏でる音のみ。
『無音』
その中から自分自身の音を奏でるなんて俺には出来なかった。
俺は自然の音を借りて、やっと曲が完成するのだから。
「…思い浮かばね…」
そう言って取り出したのはウォークマン。
俺が選ぶ項目は…やっぱりspeakerの曲。
イヤホンを両耳に挿して曲を流すと何かを感じ、曲を止めた。
「…まさか…」
その時、俺は由季がspeakerの一員なのではないかと疑った。
その理由は、先日聴いた音の弾き方、先日聴いた曲の奏で方。
殆どがspeakerの曲に当てはまっていたから。
俺の頭は混乱していた。
これを知ったからには由季たちへの接し方が僅かだが変わるかもしれない。
なにせ、俺の尊敬して、目指していた歌い手とボカロPだから。
「くそっ…意味がわからねぇ…」
そこでもまた、俺は頭を悩ませた。
じーちゃんに関しても、由季に関しても、蓮磨や未愛たちに関しても…
俺はまた涙を流した。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
君のために僕は歌う
なめめ
青春
六歳の頃から芸能界で生きてきた麻倉律仁。
子役のころは持てはやされていた彼も成長ともに仕事が激減する。アイドル育成に力を入れた事務所に言われるままにダンスや歌のレッスンをするものの将来に不安を抱いていた律仁は全てに反抗的だった。
そんな夏のある日、公園の路上でギターを手に歌ってる雪城鈴菜と出会う。律仁の二つ上でシンガーソングライター志望。大好きな歌で裕福ではない家族を支えるために上京してきたという。そんな彼女と過ごすうちに歌うことへの楽しさ、魅力を知ると同時に律仁は彼女に惹かれていった………
恋愛、友情など芸能界にもまれながらも成長していく一人のアイドルの物語です。
全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―
入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。
遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。
本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。
優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
#消えたい僕は君に150字の愛をあげる
川奈あさ
青春
旧題:透明な僕たちが色づいていく
誰かの一番になれない僕は、今日も感情を下書き保存する
空気を読むのが得意で、周りの人の為に動いているはずなのに。どうして誰の一番にもなれないんだろう。
家族にも友達にも特別に必要とされていないと感じる雫。
そんな雫の一番大切な居場所は、”150文字”の感情を投稿するSNS「Letter」
苦手に感じていたクラスメイトの駆に「俺と一緒に物語を作って欲しい」と頼まれる。
ある秘密を抱える駆は「letter」で開催されるコンテストに作品を応募したいのだと言う。
二人は”150文字”の種になる季節や色を探しに出かけ始める。
誰かになりたくて、なれなかった。
透明な二人が150文字の物語を紡いでいく。
ヤマネ姫の幸福論
ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。
一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。
彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。
しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。
主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます!
どうぞ、よろしくお願いいたします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる