【雨は雪のように。】

社畜 晴夜

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第4曲

-語る者達の真実-

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「てめぇ…なんで由季とここにいる…」

「…別にあんたに関係ねぇだろ…」

男の言い方につい俺は意地を張ってしまう。

…俺もまだまだ子供だな…と、実感した。

男がジリジリと間合いを詰めてきたので俺は堂々と目を見た。

「お前…名前はなんだよ…授業出てんの見るからには3年の先輩さんなんだよな?…そいつがなんで1年の俺に突っかかってくる…」

「ムカつく…」

俺の言葉に対してボソッと聞こえた言葉は苛立ちがこもっていた。

「ち、ちょっと!?げんくん!?急に入ってきたと思ったらこれ!?」

「由季は黙ってろ…」

俺と男の間合いに由季が入ってくると軽い口論になり始めた。

…なんだってんだよ…まったく…

思ってると口論が収まったようで、2人が俺の方に向き直った。

「え、えと、彼は私の友達の《中田 玄次なかた げんじ》くんよ。無愛想だけど根はいいやつだから仲良くしてあげて?」

「…チッ…」

玄次の舌打ちが聞こえると由季は玄次の後頭部を叩いて、俺に対して頭を下げさせる。

「別に…誰とも仲良くしようとか…思ってねぇから…」

「あ?なんだ?おい、1年坊主…その言い草…殺されてぇのか?」

「俺は事実を言った迄だけど…」

「ストップ!2人共やめなさい!」

睨み合っていた2人を、またしても由季が止めた。

…こいつと居たら体力が削られるな…

そう判断して音楽室を出ようと扉に手を掛けた。

「…逃げんのか?」

「帰る…あんた…面倒だから…」

「雨止くん、今日はありがとうね。また一緒に音楽について話しましょう?」

「…。」

睨みつけてくる玄次は当然無視して、由季が話しかけてきた言葉に返事をしないままその場を去った。




イヤホンを耳に挿して、speakerの音楽を聞こうとしていたら右肩を揺さぶられた。

「またあいつらかよ…」とか思いながら後ろを振り向くと、そこには別の2人組…蓮磨と未愛がいた。

「…どうした…?」

「一緒に…」

「一緒に帰ろうと思っての~」

蓮磨は未愛の言葉に被さるように能天気な感じで話しかけてきた。

そこで俺は改めて思った。

…この変わらない雰囲気…

「…やっぱ…これがいい…」

「何がいいの?」

「えっ、あ、いや…何も無い…」

目を逸らしながら口に出してしまった事に対して恥じらいを覚え、頬が赤くなっていく。

「変なゆきやんの~」と、また能天気に言ってきたが…顔を見せるのが嫌だったから、いつものように殴らず、代わりに制服の下に着ていたパーカーのフードを自分の顔が覆いかぶさるように被った。

2人は俺を見て笑っているに違いない。

フードを深く被りすぎて2人の顔が良く見えないが、今は見ないほうがいいと、直感で感じた。

その時、俺は初めて感じた。

冷めていた俺の心も、2人と居る温もりで温まって溶けていくような気がした。

けど。

それはあくまで『気がした』だけだった。




2人の温もりを感じ始め、それが心地いいと思った頃からずっと、じーちゃんの夢を見るようになった。

『雪人…歌ってくれんか…?』

『なんで歌ってくれんのか…?』

『なあ…雪人…』

『お前が歌ってくれなかったから…儂は死んだも同然なんだぞ…』

『早く歌ってくれ…』

『死ぬ間際まで待っていたのに…』


『…雪人…』


『…雪人…』


『…雪人…』




「うわぁぁぁあああああ!!!」

うなされた。

俺は夢の所為せい…いや、お陰で再確認できた。

俺の所為でじーちゃんが死んだんだ。

俺が殺したようなものだ。

歌なんて…辞めてしまった方がいいんじゃないか。

そんな時に蓮磨と未愛の顔が脳裏を横切った。

「…どうすれば…どうすれば正しいんだよ…」

嗚咽を混じらせ、俺の目からは涙が溢れた。

頭を悩ませる。

俺が歌に興味を持っていなかったら無かっただろう悩み。

『辛い』

その言葉が頭の中を駆け巡る。

「…誰か…」

押し殺した声で呼ぶも、誰に助けを乞えばいいかすらも分からない。

俺が何をすればいいのかも。

わからないまま、俺の意識は再び闇の中へと誘われた。




カーテンの隙間から朝日が射して身体を日差しが叩き起こそうとしてくる。

…今日は土曜日なのに…

そう考えていたが、昨夜ゆうべの事に関して頭を痛めていたから、二度寝をする気など起きもしなかった。

朝食を作って食べ終えると、洗濯や掃除等の家事を済ませた。

「…やる事ないな…」

当然、家には誰も来ない。

いつもの2人、蓮磨は両親を連れて新しい楽器や機材を買いに行ったらしい。

未愛は他のクラスの友達とショッピングに行ったらしい。

暇を持て余すつもりなんて、俺の頭にはなかったから、俺はPCに繋いだ鍵盤に手を置き、PCの楽譜に向き合った。

ヘッドフォン越しに奏でられる音色は本物と大差ないものだ。

強く弾けば強い音が出るし、その逆も然り。

防音室のこの部屋には何の音も入ってこない。

唯一あるのは俺が奏でる音のみ。

『無音』

その中から自分自身の音を奏でるなんて俺には出来なかった。

俺は自然の音を借りて、やっと曲が完成するのだから。

「…思い浮かばね…」

そう言って取り出したのはウォークマン。

俺が選ぶ項目は…やっぱりspeakerの曲。

イヤホンを両耳に挿して曲を流すと何かを感じ、曲を止めた。

「…まさか…」

その時、俺は由季がspeakerの一員なのではないかと疑った。

その理由は、先日聴いた音の弾き方はじきかた、先日聴いた曲の奏で方。

殆どがspeakerのおとに当てはまっていたから。

俺の頭は混乱していた。

これを知ったからには由季たちへの接し方が僅かだが変わるかもしれない。

なにせ、俺の尊敬して、目指していた歌い手とボカロPだから。

「くそっ…意味がわからねぇ…」

そこでもまた、俺は頭を悩ませた。

じーちゃんに関しても、由季に関しても、蓮磨や未愛たちに関しても…

俺はまた涙を流した。
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