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とりあえず緊急事態

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「千夏、ご飯できたわよ」

 ガチャッと開いたドアから、母親が顔を出す。
 不意をつかれた俺は、そのまま動くことが出来なかった。

-しまった-

 3匹の妖怪が部屋にいることを見られてしまったということではない。いや、大問題だが。
 どういうわけか、コイツらは俺以外の人間には見えていないらしい。

 顔を合わせたまま両者とも黙っていたが、先に口を開いたのは俺ではなかった。

「あんた、その顔どうしたのよ」

 あー、ヤバイ。

「…帰る途中電柱にぶつけた。つーか、母さん勝手に人の部屋入ってくんなよ」

「ぶつけたって…どんなふうに歩いてたらそうなるのよ!ホントのこと言いなさい」

「五月蝿いな!早く出てけよ!」

 無理矢理扉の向こうに押し出し、鍵をかける。

「ちょっと千夏!ご飯は」

「いらない」

 しばらく部屋の外から何かを言っていたようだが俺が無視を続けていると、諦めて階段を下りていく足音が聞こえた。 
 危ないところだった、まったく。

 まだ腫れの引かない頬をさすり、温くなった飲料水を当てがう。

「ちーくん、その顔…」

 沈黙の中、蓮が口を開く。

「あーまぁ、いつもの事だし」

 語尾を濁し背を向けて机に向かう。この類いの話はあまり続けたくない。
 これ以上話しかけるなオーラーを全開にさせる。

「お前に変わる気がないなら、いつまでも現状は変わらない」

 遊馬が呟く。背中に刺さる視線が痛い。
 分かってるっつの。

 目を閉じ耳を塞ぎ口を結んだ。

「後悔するよ」

 いつの間に起きていたのか、かなたの声がそう聞こえた。


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