上 下
85 / 113

危機

しおりを挟む

「やぁ、オレリア」

「……っ、アンドレ殿下!」

 以前は呼びかけられれば嬉しく思えた声だが今ではゾワリと鳥肌が立つ。

「……殿下、こういった行いは感心いたしません」

「そんなに警戒しないでくれよ。婚約者だろう?」

 この人の頭の中はどうなっているのだろうか。間違えないでほしい。元、婚約者だ。

「殿下の婚約者はシャルロッテ・シフォンヌ男爵令嬢でしょう」

「違うっ!!!」

 いきなりの大声に驚き肩が跳ねる。

「彼女とのことは間違いだった! それに、よく考えたら私の婚約者がちょっと魔法の使える男爵令嬢だなんて相応しくないじゃないか……。妃教育だってオレリアと比べると進みが悪いし、やはり男爵家出では王族になるには品も優美さも足りないと思うんだ。それとは違ってオレリアは公爵令嬢! しかも私に相応しい力を手に入れた! 妃教育は幼い頃からやっていたし、完璧だっ!」

 間違い? 相応しくない? 
 あれだけのことを私にしてまで婚約者にしたのに??

「お話になりません。私の婚約者はウィルフレッド様、殿下の婚約者はシフォンヌ男爵令嬢です」

 「戻りましょう」。そう言って侍女の方を振り向くと、そこに侍女はいなかった。

 !?

「うっ……!」

 後ろから羽交締めにされ、口に当てられた布からはツンとした薬品の臭いがする。

 やたらベラベラと喋ると思ったら、これを狙っていたのね……!

 目が霞む中、ニヤニヤと笑いながらこちらを見る殿下の顔が見えて、意識が途切れた。







「ん……、ここは……?」

 目が覚めると見たことのない部屋にいた。
 いや、これは部屋とは言えないかもしれない。

「部屋……というか、檻??」

 壁3面と鉄格子1面。鉄格子がある時点で檻だろうけど、檻と言うにはあまりにも華やかすぎる。
 壁紙には金糸と銀糸の刺繍があり、鉄格子は金ピカで蔦や花が施されている。
 床も毛足の長い真紅のカーペットが敷いてありフカフカだ。

 ここはもう王城じゃないのかも。
 意識を失っている間にどこかに連れ出されたのかもしれない。

 幼い頃から王城には妃教育で何度も来ていたけれど、こんな部屋があるなんて見たことも聞いたこともないもの。

 ウィルフレッド様が付けてくれた侍女は無事だろうか。
 ルボワール王国とラルージュ帝国の状況や国力差を考えたら普通なら手を出すことはないだろうけど……。ラルージュ帝国皇太子の婚約者である私にこんなことをした時点でまともな考えじゃないわよね。

 そんなことを考えているとカツカツと音が響き、意識を失う前に目の前にあった顔が現れた。

「目を覚ましたか」

「……アンドレ殿下っ! ここから出してくださいませ」

「私の婚約者になるんだ」

 まだそんなバカなことを言っているの!?

「私はウィルフレッド様の婚約者です。こんなことをしては大変なことになりますよ。王国と帝国の関係をお考えくださいませ」

「……オレリアが私の言うことを聞かないのが悪いんだよ。既にあれから時間が経っているからね。もう帝国側も気がついているはずだ。これで帝国も婚約を解消してくれるといいんだけれど。はぁ、この檻はグリフォンの為に用意したというのに。まさかグリフォンの前にオレリアを入れることになるとはな」

 グリフォン? まさかノアのこと!?

「ノアは私の家族ですわよ」

 それを聞いたアンドレ殿下は何を言っているのかわからないというように首を傾げる。

「家族……? グリフォンは獣だろう」

「いいえ! 国外追放になってから寝食を共にした、正真正銘私の家族です」

「……そうか」

 わかってくれた……?

「オレリアは国外追放のショックと大森林での生活で心を病んでしまったんだ」

 ちっがーーーう!!!

「ああ……、私が間違いを犯したばかりに! でももう安心だ、オレリア。もうどこにも行かなくていいんだ! 私の婚約者に戻ればすべて元通りだ!」

「ち、違います!! 私を勝手に病人にしないでくださいませっ! ……とりあえず、私をここから出してください!」

「ここでゆっくりと休むといいよ」

 こんな檻の中で休めるか!

「……ここから出すつもりはないということですね」

 国のことを考えたら穏便に済ませたかったんだけど、もう帝国にもバレているようだし仕方がない。

「だったら自力で出させていただきます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

一家の恥と言われた令嬢ですが、嫁ぎ先で本領を発揮させていただきます

風見ゆうみ
恋愛
ベイディ公爵家の次女である私、リルーリアは貴族の血を引いているのであれば使えて当たり前だと言われる魔法が使えず、両親だけでなく、姉や兄からも嫌われておりました。 婚約者であるバフュー・エッフエム公爵令息も私を馬鹿にしている一人でした。 お姉様の婚約披露パーティーで、お姉様は現在の婚約者との婚約破棄を発表しただけでなく、バフュー様と婚約すると言い出し、なんと二人の間に出来た子供がいると言うのです。 責任を取るからとバフュー様から婚約破棄された私は「初夜を迎えることができない」という条件で有名な、訳アリの第三王子殿下、ルーラス・アメル様の元に嫁ぐことになります。 実は数万人に一人、存在するかしないかと言われている魔法を使える私ですが、ルーラス様の訳ありには、その魔法がとても効果的で!? そして、その魔法が使える私を手放したことがわかった家族やバフュー様は、私とコンタクトを取りたがるようになり、ルーラス様に想いを寄せている義姉は……。 ※レジーナブックス様より書籍発売予定です! ※本編完結しました。番外編や補足話を連載していきます。のんびり更新です。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

【完結保証】あれだけ愚図と罵ったんですから、私がいなくても大丈夫ですよね? 『元』婚約者様?

りーふぃあ
恋愛
 有望な子爵家と婚約を結んだ男爵令嬢、レイナ・ミドルダム。  しかし待っていたのは義理の実家に召し使いのように扱われる日々だった。  あるパーティーの日、婚約者のランザス・ロージアは、レイナのドレスを取り上げて妹に渡してしまう。 「悔しかったら婚約破棄でもしてみろ。まあ、お前みたいな愚図にそんな度胸はないだろうけどな」  その瞬間、ぶつん、とレイナの頭の中が何かが切れた。  ……いいでしょう。  そんなに私のことが気に入らないなら、こんな婚約はもういりません!  領地に戻ったレイナは領民たちに温かく迎えられる。  さらには学院時代に仲がよかった第一王子のフィリエルにも積極的にアプローチされたりと、幸せな生活を取り戻していく。    一方ロージア領では、領地運営をレイナに押し付けていたせいでだんだん領地の経営がほころび始めて……?  これは義両親の一族に虐められていた男爵令嬢が、周りの人たちに愛されて幸せになっていくお話。  ★ ★ ★ ※ご都合主義注意です! ※史実とは関係ございません、架空世界のお話です! ※【宣伝】新連載始めました!  婚約破棄されましたが、私は勘違いをしていたようです。  こちらもよろしくお願いします!

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜

まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は 主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。

家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした

桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。 彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。 そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。 そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。 すると、予想外な事態に発展していった。 *作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。

処理中です...