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危機
しおりを挟む「やぁ、オレリア」
「……っ、アンドレ殿下!」
以前は呼びかけられれば嬉しく思えた声だが今ではゾワリと鳥肌が立つ。
「……殿下、こういった行いは感心いたしません」
「そんなに警戒しないでくれよ。婚約者だろう?」
この人の頭の中はどうなっているのだろうか。間違えないでほしい。元、婚約者だ。
「殿下の婚約者はシャルロッテ・シフォンヌ男爵令嬢でしょう」
「違うっ!!!」
いきなりの大声に驚き肩が跳ねる。
「彼女とのことは間違いだった! それに、よく考えたら私の婚約者がちょっと魔法の使える男爵令嬢だなんて相応しくないじゃないか……。妃教育だってオレリアと比べると進みが悪いし、やはり男爵家出では王族になるには品も優美さも足りないと思うんだ。それとは違ってオレリアは公爵令嬢! しかも私に相応しい力を手に入れた! 妃教育は幼い頃からやっていたし、完璧だっ!」
間違い? 相応しくない?
あれだけのことを私にしてまで婚約者にしたのに??
「お話になりません。私の婚約者はウィルフレッド様、殿下の婚約者はシフォンヌ男爵令嬢です」
「戻りましょう」。そう言って侍女の方を振り向くと、そこに侍女はいなかった。
!?
「うっ……!」
後ろから羽交締めにされ、口に当てられた布からはツンとした薬品の臭いがする。
やたらベラベラと喋ると思ったら、これを狙っていたのね……!
目が霞む中、ニヤニヤと笑いながらこちらを見る殿下の顔が見えて、意識が途切れた。
「ん……、ここは……?」
目が覚めると見たことのない部屋にいた。
いや、これは部屋とは言えないかもしれない。
「部屋……というか、檻??」
壁3面と鉄格子1面。鉄格子がある時点で檻だろうけど、檻と言うにはあまりにも華やかすぎる。
壁紙には金糸と銀糸の刺繍があり、鉄格子は金ピカで蔦や花が施されている。
床も毛足の長い真紅のカーペットが敷いてありフカフカだ。
ここはもう王城じゃないのかも。
意識を失っている間にどこかに連れ出されたのかもしれない。
幼い頃から王城には妃教育で何度も来ていたけれど、こんな部屋があるなんて見たことも聞いたこともないもの。
ウィルフレッド様が付けてくれた侍女は無事だろうか。
ルボワール王国とラルージュ帝国の状況や国力差を考えたら普通なら手を出すことはないだろうけど……。ラルージュ帝国皇太子の婚約者である私にこんなことをした時点でまともな考えじゃないわよね。
そんなことを考えているとカツカツと音が響き、意識を失う前に目の前にあった顔が現れた。
「目を覚ましたか」
「……アンドレ殿下っ! ここから出してくださいませ」
「私の婚約者になるんだ」
まだそんなバカなことを言っているの!?
「私はウィルフレッド様の婚約者です。こんなことをしては大変なことになりますよ。王国と帝国の関係をお考えくださいませ」
「……オレリアが私の言うことを聞かないのが悪いんだよ。既にあれから時間が経っているからね。もう帝国側も気がついているはずだ。これで帝国も婚約を解消してくれるといいんだけれど。はぁ、この檻はグリフォンの為に用意したというのに。まさかグリフォンの前にオレリアを入れることになるとはな」
グリフォン? まさかノアのこと!?
「ノアは私の家族ですわよ」
それを聞いたアンドレ殿下は何を言っているのかわからないというように首を傾げる。
「家族……? グリフォンは獣だろう」
「いいえ! 国外追放になってから寝食を共にした、正真正銘私の家族です」
「……そうか」
わかってくれた……?
「オレリアは国外追放のショックと大森林での生活で心を病んでしまったんだ」
ちっがーーーう!!!
「ああ……、私が間違いを犯したばかりに! でももう安心だ、オレリア。もうどこにも行かなくていいんだ! 私の婚約者に戻ればすべて元通りだ!」
「ち、違います!! 私を勝手に病人にしないでくださいませっ! ……とりあえず、私をここから出してください!」
「ここでゆっくりと休むといいよ」
こんな檻の中で休めるか!
「……ここから出すつもりはないということですね」
国のことを考えたら穏便に済ませたかったんだけど、もう帝国にもバレているようだし仕方がない。
「だったら自力で出させていただきます」
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