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クレンセシア領主とドナート
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大森林と接するラルージュ帝国の防衛の要、クレンセシアの門兵を束ねるドナートは華美ではないが細工の美しい重厚感のある扉の前に立っていた。
コンコンッ
「失礼します。領主様、ご報告がありまいりました」
「入れ」
返事をもらい扉を開けるとそこは部屋の主の内面を表したような素朴だけれど品の良い部屋だった。
歳は40を過ぎたくらいだろうか?
部屋の主は執務机に向かい、縦皺の入った眉間を人差し指と親指で揉みながら山になった書類を片付けている。
身長が高く鎧のようについた筋肉、書類を見る鋭い視線と眉間の縦皺からは書類仕事があまり得意ではないことが窺える。
「失礼いたしました。お取込み中でしたらまた改めて参ります」
「いや、そろそろ休憩しようと思っていたところだ」
そう言って書類からあげた顔は、眉間の縦皺が消えその精悍さがよくわかる。
「お前がこんな急に面会を申し込んでくるとは、珍しいな」
「はい。お忙しいかとは思いましたが、急ぎ知らせた方が良いと判断いたしました」
ドナートのその真剣な声を聞いた領主は姿勢を正して先を促す。
「2日前、従魔を連れた1人の冒険者が入国いたしました」
そう聞いた領主は、なんだ。とでも言うような顔で緊張を解く。
大森林の門兵を束ねるドナートが急ぎでと言うので、それこそスタンピードの兆候があるとか、大森林の奥に住むような強力な魔物が森の浅いところに住み着いてしまったとか、大災害レベルの重大ななにかがあったのではと考えていたのだ。
「冒険者1人だろう? なんだ?Sランクが何かなのか?」
「そのくらいでしたらどれだけいいか!!」
「おおう」
ドナートが珍しく声を荒げたことに驚く。
Sランク冒険者はそのくらいなんて言葉では済まないと思うのだが……。
「その冒険者が連れた従魔が問題なのです!!!」
いつも冷静に兵を纏めているドナートの力の入り鼻息を荒くした様子に、ドラゴンでも連れてきたのか? と珍しく冗談を言ってみたのだが、ドナートから帰ってきたのは笑いではなく「似たようなものです」と言う信じられない言葉だった。
「……は?」
「ですから、似たようなものです。と」
似たようなもの? ドラゴンと??
いやいやいや、おかしいだろう。
「ドナート、少し疲れているんじゃないか? ほら、タラバンテ領にある温泉にでも行ってひと月くらいゆっくり過ごしてきたらどうだ?」
「私は正気です!!! 最初は私も自分の目を疑いましたよ、ええ。でも他の兵に聞いても答えは私と同じでした。向かい合った瞬間肌が粟立ち、首の後ろがビリビリして、息が詰まるような……。あれは紛れもなくグリフォンとフェンリルでした」
グリフォンとフェンリル、だと? 信じられない。
そんな魔物が人間に従うはずがない!
だがこの真面目なドナートがそんな嘘を吐くわけがない。真面目で忠実だからこそ、国境であり大森林と接する重要な門の兵を束ねる兵長に任命したのだから。
「ほんとう、なのか?」
「はい」
領主は自らを落ち着かせるように深く息を吸い、吐きながら背もたれにもたれかかり天を仰ぐ。
「なんてこった。なぜ俺が当主の時にこんなことが起こるんだ」
額に手を当てて上を向いたまま数分が経つ。
事態を飲み込むのに時間がかかるのだろう。
「はぁ。それで、その冒険者はどんな奴だ? なんの目的でこの国に、そしてこの町に来た?」
「入国の手続きは私が対応したのですが、本人が言うには冒険者ギルドでの魔物の買取と、必要なものを買いに来ただけだと」
「わざわざそんな強力な従魔を2匹も連れてか? 森林側の門から入ってきたということは、王国からか。敵国ではないが……。牽制か?それともその従魔を使って何か事を起こすつもりなのか?」
「そもそも王国に属する者かもわかりません」
「たしかに。王国は船での交易が盛んだからな。他の国から王国を通って入ってきた可能性もあるか」
しかしそんな強力な魔物を従えているのに今まで話も聞いたことがないとは。どこかの国で厳重に秘匿されてきた存在だということか?
そしてそれを今使う目的はなんだ??
「あとあくまでこれは噂なのですが、その冒険者が大森林に家があると言っているのを聞いた者もいるそうです」
「大森林に家!? まぁ、グリフォンとフェンリルが従魔なら可能なのか……?だがあんな魔物だらけの森で魔物に囲まれて生活するなど正気とは思えん!」
いやしかし、それが本当だったらどこの国にも属していないということだろうか?
もしそうだったらこちらとしては都合がいいが、そんなことあり得るのか?
どこかの国の者なら魔道具やら複数の魔法使いやらを使って数の力でなんとか従わせることもできるかもしれない。
だがそうでないならたった1人の人間がグリフォンとフェンリルを従わせたということになる。
考えても考えても答えは出ない。
大森林に住むグリフォンとフェンリルを従魔にした魔女。とても私だけでは対応できない。
グリフォンとフェンリルなんて、どちらか一方だけでも簡単に都市を落とすことができるのだから。
「これだけの事態だ、私だけでは対応できん。皇帝陛下へも報告をしなければ。私は準備が出来次第帝都へ向かう! ドナートは準備の間その冒険者について出来るだけ詳しく調べ纏めた資料を用意してくれ。だが、あまり踏み込みすぎるなよ。どこでその冒険者の逆鱗に触れるかわからん」
「承知致しました」
ドナートは神妙な面持ちで頷くと、急ぎ冒険者について調べるために歩き出した。
コンコンッ
「失礼します。領主様、ご報告がありまいりました」
「入れ」
返事をもらい扉を開けるとそこは部屋の主の内面を表したような素朴だけれど品の良い部屋だった。
歳は40を過ぎたくらいだろうか?
部屋の主は執務机に向かい、縦皺の入った眉間を人差し指と親指で揉みながら山になった書類を片付けている。
身長が高く鎧のようについた筋肉、書類を見る鋭い視線と眉間の縦皺からは書類仕事があまり得意ではないことが窺える。
「失礼いたしました。お取込み中でしたらまた改めて参ります」
「いや、そろそろ休憩しようと思っていたところだ」
そう言って書類からあげた顔は、眉間の縦皺が消えその精悍さがよくわかる。
「お前がこんな急に面会を申し込んでくるとは、珍しいな」
「はい。お忙しいかとは思いましたが、急ぎ知らせた方が良いと判断いたしました」
ドナートのその真剣な声を聞いた領主は姿勢を正して先を促す。
「2日前、従魔を連れた1人の冒険者が入国いたしました」
そう聞いた領主は、なんだ。とでも言うような顔で緊張を解く。
大森林の門兵を束ねるドナートが急ぎでと言うので、それこそスタンピードの兆候があるとか、大森林の奥に住むような強力な魔物が森の浅いところに住み着いてしまったとか、大災害レベルの重大ななにかがあったのではと考えていたのだ。
「冒険者1人だろう? なんだ?Sランクが何かなのか?」
「そのくらいでしたらどれだけいいか!!」
「おおう」
ドナートが珍しく声を荒げたことに驚く。
Sランク冒険者はそのくらいなんて言葉では済まないと思うのだが……。
「その冒険者が連れた従魔が問題なのです!!!」
いつも冷静に兵を纏めているドナートの力の入り鼻息を荒くした様子に、ドラゴンでも連れてきたのか? と珍しく冗談を言ってみたのだが、ドナートから帰ってきたのは笑いではなく「似たようなものです」と言う信じられない言葉だった。
「……は?」
「ですから、似たようなものです。と」
似たようなもの? ドラゴンと??
いやいやいや、おかしいだろう。
「ドナート、少し疲れているんじゃないか? ほら、タラバンテ領にある温泉にでも行ってひと月くらいゆっくり過ごしてきたらどうだ?」
「私は正気です!!! 最初は私も自分の目を疑いましたよ、ええ。でも他の兵に聞いても答えは私と同じでした。向かい合った瞬間肌が粟立ち、首の後ろがビリビリして、息が詰まるような……。あれは紛れもなくグリフォンとフェンリルでした」
グリフォンとフェンリル、だと? 信じられない。
そんな魔物が人間に従うはずがない!
だがこの真面目なドナートがそんな嘘を吐くわけがない。真面目で忠実だからこそ、国境であり大森林と接する重要な門の兵を束ねる兵長に任命したのだから。
「ほんとう、なのか?」
「はい」
領主は自らを落ち着かせるように深く息を吸い、吐きながら背もたれにもたれかかり天を仰ぐ。
「なんてこった。なぜ俺が当主の時にこんなことが起こるんだ」
額に手を当てて上を向いたまま数分が経つ。
事態を飲み込むのに時間がかかるのだろう。
「はぁ。それで、その冒険者はどんな奴だ? なんの目的でこの国に、そしてこの町に来た?」
「入国の手続きは私が対応したのですが、本人が言うには冒険者ギルドでの魔物の買取と、必要なものを買いに来ただけだと」
「わざわざそんな強力な従魔を2匹も連れてか? 森林側の門から入ってきたということは、王国からか。敵国ではないが……。牽制か?それともその従魔を使って何か事を起こすつもりなのか?」
「そもそも王国に属する者かもわかりません」
「たしかに。王国は船での交易が盛んだからな。他の国から王国を通って入ってきた可能性もあるか」
しかしそんな強力な魔物を従えているのに今まで話も聞いたことがないとは。どこかの国で厳重に秘匿されてきた存在だということか?
そしてそれを今使う目的はなんだ??
「あとあくまでこれは噂なのですが、その冒険者が大森林に家があると言っているのを聞いた者もいるそうです」
「大森林に家!? まぁ、グリフォンとフェンリルが従魔なら可能なのか……?だがあんな魔物だらけの森で魔物に囲まれて生活するなど正気とは思えん!」
いやしかし、それが本当だったらどこの国にも属していないということだろうか?
もしそうだったらこちらとしては都合がいいが、そんなことあり得るのか?
どこかの国の者なら魔道具やら複数の魔法使いやらを使って数の力でなんとか従わせることもできるかもしれない。
だがそうでないならたった1人の人間がグリフォンとフェンリルを従わせたということになる。
考えても考えても答えは出ない。
大森林に住むグリフォンとフェンリルを従魔にした魔女。とても私だけでは対応できない。
グリフォンとフェンリルなんて、どちらか一方だけでも簡単に都市を落とすことができるのだから。
「これだけの事態だ、私だけでは対応できん。皇帝陛下へも報告をしなければ。私は準備が出来次第帝都へ向かう! ドナートは準備の間その冒険者について出来るだけ詳しく調べ纏めた資料を用意してくれ。だが、あまり踏み込みすぎるなよ。どこでその冒険者の逆鱗に触れるかわからん」
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ドナートは神妙な面持ちで頷くと、急ぎ冒険者について調べるために歩き出した。
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