41 / 113
ラルージュ帝国3
しおりを挟む「いや~、ガッハッハッ!!! 疑って悪かったなぁ!!!」
そう言いながら大きな木製のジョッキを持ち頭をかく蛮族おじさん。
あの後白目を剥き泡を噴いてひっくり返ったおじさんは、つついても水をかけても全然起きなかった。
外に置いたままでは邪魔になり迷惑をかけてしまうということで、しかたなく受付のお姉さんがギルド内にいる冒険者達に頼みみんなで持ち上げてギルドの中に運んだのだった。
私? 私は手伝わなかったよ。魔法を使えばすぐだけど、わざわざ私に突っかかってきたおじさんを運んであげる優しさは持ち合わせていない。
おじさんを運ぶために出てきた冒険者達がノアとネージュを見てパニックを起こすという騒ぎもあったが、受付のお姉さんが声を張り上げ私の従魔だと言うことを説明してくれたのでなんとか騒ぎは収まった。
お姉さんもいきなりグリフォンとフェンリルを見て驚いたはずなのにテキパキとみんなに指示を出していた。
このお姉さんはナディアさんと言って成績優秀で受付嬢をまとめるような立ち位置の人らしい。
普段から荒くれ者の冒険者達と接する受付嬢の中のトップ。道理で肝が据わっているはずだ。
騒ぎになって少しナディアさんには迷惑をかけたけれど他の冒険者にも私がグリフォンとフェンリルを従魔にしているという証拠を見せられたのでよしとしましょう。
ギルド内に戻りナディアさんにノアとネージュの従魔登録をしてもらっていると、気がついたらしい蛮族おじさんがこちらに向かってきた。
「すまない! 疑って悪かった!」
おじさんがこちらに向かってガバッと頭を下げる。
「もういいですよ。信じてもらえたようですし」
従魔登録をしながらナディアさんに聞いたのだがこのおじさんはずっとこの町で冒険者をしている古株らしく、新人冒険者の面倒を見たり素行の悪い冒険者から受付嬢を助けたりしてるいい人らしい。
今回もきっとナディアさんを助けようと思っての行動だろう。
「こちらで従魔登録ができました。新たな従魔としてフェンリルを登録して、小型の鳥魔物で登録してあったグリフォンも登録変更しておきました」
「ありがとうございます」
素材も買取してもらおうと思って買取カウンターに向かうが、なぜか後をついてくる蛮族おじさん。
「詫びにそこで酒を奢らせてもらえないだろうか!」
「もう気にしていないので結構です。あ、魔物の買取お願いします。ここのカウンターには置ききれそうにないので倉庫に案内してもらってもいいですか?」
「いや、それじゃあ俺の気がすまねぇ! 奢らせてくれ!」
いいって言ってるのになぜか後をついてくる蛮族おじさん。
そしてグリフォンとフェンリルを連れた私の狩った魔物を見たいのかぞろぞろと後をついてくる冒険者たち。
案内されて倉庫に入ると中で解体作業をしているスタッフさん達が何事かと驚いている。
もう国を出たから実力を隠す必要はなくなったんだけどここまでの騒ぎは予想外だったわ。
「ソビェスさん! 買取希望の方です!」
「はいよー! ん? 嬢ちゃん、買取希望の魔物はどこだ?」
「ここにあります」
そう言ってアイテムボックスから魔物を1匹出して見せる。
「おおお!! アイテムボックスか!? 久しぶりに見たぜ!!」
この町クレンセシアは大森林に面しているから帝国の中でも強い冒険者の集まる町なはずなんだけれど、それでもやっぱりアイテムボックスは珍しいみたいね。
後ろから見ていた冒険者達からも「アイテムボックスだって!?」「本当か!?」と声が上がっている。
「この辺りに置いてくれ!」
「はーい!」
それなりのスペースがあったけれど、ノアとネージュが毎日のように大森林で狩りをしていたのであっという間に埋まってしまう。
うーん、まだまだたくさんアイテムボックスに入ってるんだけど。
いいや、上に積んでいこう!
「ま、待ってくれ! まだあるのか!?」
魔物の山が頭を越す高さになったところでソビェスさんが声を上げた。
周りがどうも静かだと思ったらどうやらアイテムボックスからどんどん出てくる魔物に驚いて固まっていただけだったらしい。
周りを見ると冒険者達も口をぽかんと開けたり目を見開いたり面白い顔をして驚いている。
「まだ倍はあります」
「そ、それは無理だ! 解体する前に悪くなっちまう。とりあえず今出てる分だけで勘弁してくれ!」
アイテムボックスに入れておけば悪くならないし、今出してる分が終わったらまた持ってくればいいか。
「それで大丈夫です。食べられる肉以外は買取でお願いします!」
「おう! 肉以外買取だな! それにしても見事にどれも強い魔物ばかりだな。こりゃ過去最高額の買取金額になるかもしれねぇな!! 冒険者ランクもグンと上がるんじゃねえか?
もしやこれを狩ったのは大森林か? こんなに強い魔物ばかりいるのはこの辺じゃ大森林だけだもんなぁ。アイテムボックスがあるって言ったってよくこんなに狩れるまで大森林で過ごせたな。あそこはビックリするくらい強い魔物ばかりだろうに」
確かに普通に考えたら大森林の魔物をこんなに狩るにはものすごい期間大森林にいないと無理だよね。
大森林で野営するって考えると危険も多いし。
「私には可愛くてもふもふで頼りになる従魔が2匹もいるんですよ」
「従魔? 強い従魔がいるって言っても、大森林だぞ?よく生きて帰ってこれたなぁ」
そっか、この人倉庫にいたからノアとネージュのこと知らないもんね。
強い従魔がいるって言われてもグリフォンとフェンリルほどだとは思っていないだろう。
「ソビェス! この嬢ちゃんの言ってることは本当だぜ! この嬢ちゃんはグリフォンとフェンリルを従魔にしてるんだよ!!」
ここで急に入ってくる蛮族おじさん。
「……ん? 聞き間違えか?? 今グリフォンとフェンリルって聞こえた気がするんだが。」
「そう言ったんだよ! 俺は嘘言ってねぇよ。確かにこの目で見たんだからな!」
そうそう。それで白目剥いて泡吹いて倒れたのよね。
「ほ、本当か……?」
「本当ですよ。今ならギルドの外に出ればいますし」
「まぁ俺は見て気絶したんだけどなぁ! ガハハハハッ!」
「そ、そうなのか。俺は今日は見るのをやめとくよ。ゴンザレスが気絶したなら俺はどうなるのかわからん。仕事にならなくなるかもしれないしな」
この蛮族みたいなおじさんはゴンザレスさんって言うのか。見た目にピッタリすぎる。
「それじゃ、2日後には解体と査定を済ませとくからまた2日後にきてくれ! 解体スタッフみんなでがんばるからよ!」
「わかりました。よろしくお願いします」
37
お気に入りに追加
4,176
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ どこーーーー
ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど
安全が確保されてたらの話だよそれは
犬のお散歩してたはずなのに
何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。
何だか10歳になったっぽいし
あらら
初めて書くので拙いですがよろしくお願いします
あと、こうだったら良いなー
だらけなので、ご都合主義でしかありません。。
魔力無しの私に何の御用ですか?〜戦場から命懸けで帰ってきたけど妹に婚約者を取られたのでサポートはもう辞めます〜
まつおいおり
恋愛
妹が嫌がったので代わりに戦場へと駆り出された私、コヨミ・ヴァーミリオン………何年も家族や婚約者に仕送りを続けて、やっと戦争が終わって家に帰ったら、妹と婚約者が男女の営みをしていた、開き直った婚約者と妹は主人公を散々煽り散らした後に婚約破棄をする…………ああ、そうか、ならこっちも貴女のサポートなんかやめてやる、彼女は呟く……今まで義妹が順風満帆に来れたのは主人公のおかげだった、義父母に頼まれ、彼女のサポートをして、学院での授業や実技の評価を底上げしていたが、ここまで鬼畜な義妹のために動くなんてなんて冗談じゃない……後々そのことに気づく義妹と婚約者だが、時すでに遅い、彼女達を許すことはない………徐々に落ちぶれていく義妹と元婚約者………主人公は
主人公で王子様、獣人、様々な男はおろか女も惚れていく………ひょんな事から一度は魔力がない事で落されたグランフィリア学院に入学し、自分と同じような境遇の人達と出会い、助けていき、ざまぁしていく、やられっぱなしはされるのもみるのも嫌だ、最強女軍人の無自覚逆ハーレムドタバタラブコメディここに開幕。
男爵令嬢が『無能』だなんて一体誰か言ったのか。 〜誰も無視できない小国を作りましょう。〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「たかが一男爵家の分際で、一々口を挟むなよ?」
そんな言葉を皮切りに、王太子殿下から色々と言われました。
曰く、「我が家は王族の温情で、辛うじて貴族をやれている」のだとか。
当然の事を言っただけだと思いますが、どうやら『でしゃばるな』という事らしいです。
そうですか。
ならばそのような温情、賜らなくとも結構ですよ?
私達、『領』から『国』になりますね?
これは、そんな感じで始まった異世界領地改革……ならぬ、建国&急成長物語。
※現在、3日に一回更新です。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?
仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。
そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。
「出来の悪い妹で恥ずかしい」
「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」
そう言ってましたよね?
ある日、聖王国に神のお告げがあった。
この世界のどこかに聖女が誕生していたと。
「うちの娘のどちらかに違いない」
喜ぶ両親と姉妹。
しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。
因果応報なお話(笑)
今回は、一人称です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる