31 / 113
グレーゲル5
しおりを挟む「お姉さーん!」
ん? なんだか聞いたことある声だわ。
「お姉さーん!!」
『リア、後ろを見てみろ』
ノアに言われて後ろを振り返ると、ロルフとミルルがこちらへ走って来ているではないか。
「2人とも! どうしてここに?」
2人はゼェゼェと膝に手を当てながら息を整えている。
相当急いで走って来たようだ。
まさかまたお母さんに何か!? と思ったが、表情を見るにどうやら違うらしい。
「昨日のお礼を言いに宿に行ったら宿のおばあちゃんが今朝出てったって言うから慌てて追いかけて来たんだよ! まだちゃんとお礼も言えてないのに、なんで黙って出て行っちゃうんだよ!」
昨日3人ともすごくお礼を言っていたからこれで一件落着と思ったら違かったらしい。
「お前たちこのお嬢ちゃんと友達か? この嬢ちゃん、1人で大森林を通って隣国へ行こうとしてるんだ。2人からも辞めるように言ってくれ」
門番さんにそう言われたロルフとミルルは顔を見合わせ「大丈夫だよ」と言った。
「このお姉さん強いもん」
「そうだよ! 私たちが魔物に襲われてたの助けてくれたんだよ。いっぱいいたのに魔法を使って一瞬で倒しちゃったんだから!」
ミルルが何故か胸を張って言う。
「う~ん、そうかぁ……。まぁ、俺ら門番には無理矢理止めることはできないからな。
お嬢ちゃん、魔法が得意だからって油断するなよ。無理だと思ったらすぐ引き返して来るんだぞ」
2人からそれなりに魔法が使えることを聞いてやっと門を通してくれる気になったらしい。
「身分証はあるか?」
いつものようにポケットから出したと見せかけてアイテムボックスから冒険者カードを出そうとし、ノアに『リア、それじゃ冒険者のリアが出国したことになってしまうぞ』と言われて気づく。
そうだった。オレリア・アールグレーンが国外に出たということをわからせなければ。
冒険者カードの代わりにアイテムボックスからアールグレーン家の紋章の彫られたバッジを取り出す。
「なんだぁ? 冒険者カードじゃないのか? えらく小さいな。」なんて言いながらバッジを受け取った門番さんはサッとバッジを見て一旦目を逸らすと、ものすごい勢いでもう一度手元のバッジを確認する。
「なっ、え!? えぇ!?」
門番さんは何度もバッジと私の顔を確認し、「え? 嘘、え? 本当に!?」とかなんとか言ってる。
しばらくそのままにしておくと、門番さんは何度か深呼吸をして無理矢理自分を落ち着かせてこちらを見る。
「あの、これ、本物ですか?」と。
そりゃあ公爵令嬢が1人で冒険者の格好をして大森林に向かおうとしてるなんて信じられないよね。
「本物ですよ。私はオレリア・アールグレーンといいます」
そう言って私はローブのフードを取る。
しばらく旅をしていたとはいえ戦闘はしたが怪我はしていないし、クリーンも毎日かけているからサーラがケアしてくれていた頃のまま髪も肌も艶々だ。
貴族でもなければここまで美しく保つのは無理だろう。
私の顔をマジマジとみた門番さんは、「失礼しました!」とピシッと姿勢を正すとササッと手早く手続きをする。
「手続きが終了しました! こちらお返しします!」
早っ! さっきまでグダグダ言ってたのは何だったのか。
こんなことなら最初からバッジを出していればよかったかも。
手元に戻ってきたバッジを見て、私は今からオレリア・アールグレーンじゃなく冒険者のリアになるんだ、と実感が湧く。
よし、行こう。
「ロルフ、ミルル。もう行くね!」
そう言って振り返ると、2人は泣きながら笑顔で「ありがとう!」「またグレーゲルに来てね!」と手を振る。
『すんなり出国できてよかった。まだデブブ伯爵の追手は来ていないと言うことね』
『そうだな。あの後すぐ早馬を飛ばせばそろそろグレーゲルに着く頃だろうが、もう私たちは大森林の目の前だ。もう追いつかれることはないだろうな』
何度か後ろを振り返りロルフとミルルに手を振りながら大森林の方へ歩いていると、遠目に門に人が集まっているのに気がつく。
『何だ? さっき並んでいた時あんな奴らいたか?』
リアは身体強化で視力を強化し、門の様子を確認する。
『あれは……。王国軍の騎士だわ!! 追手よ!!』
門には門番をしていた兵士より格段に豪華な鎧を着た人が数人集まっていた。
さっき手続きをしてくれた門番さんは王国軍の騎士に尋ねられたのかこちらを指差している。
『まずいわ、私が今さっき出国したのを知られたみたい。
追ってくるわ!』
王国軍の騎士たちは馬に乗り門を出てこちらに走ってくる。
『ノア! 背中に乗らせて!』
『任せておけ』
ノアは肩から飛び降りるとみるみる大きくなり元の姿に戻った。
「ありがとう!」
急いで背中に飛び乗ると、ノアは助走をつけて翼をはためかせる。
「待て!」
「待つんだ!!」
騎士は私がノアに乗って飛ぼうとしているのを見て飛ぶのを止めるよう必死に叫ぶ。
「飛ぶぞ!」
ノアに乗って飛び立つと騎士は諦めたのかその場で立ち止まる。
「見てみろ、あいつらアホみたいな面して見上げているぞ」
ノアは面白そうに騎士たちを見下ろし、騎士の上を旋回する。
騎士たちは命令されて来ただけなので可哀想だが、私も捕まるわけには行かないので仕方ない。
騎士たちはこのまま手ぶらで帰って大人しく怒られてもらおう。
「このまま大森林に入るぞ」
「うん!」
最後にぐるっと大きく旋回すると、ロルフとミルルが手を振っているのが見える。
上から手を振り返すと嬉しそうに飛び跳ねながらまた手を振り返してくる。
さようなら、お父様、お母様、お兄様。
さようなら、ルボワール王国。
38
お気に入りに追加
4,176
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる