上 下
22 / 42
第三章「ハイラント王国の危機」

第二十二話:本当の決戦

しおりを挟む
 女勇者セイラは、ガンプに言われるがままに仲間を起こし、慌ててダンジョンの地下から馬車に戻って鳴り響いている通信を取った。

「なんですって!」

 エリザベート姫が電話で受けた報告は、最前線の街カステルの崩壊であった。
 しかもそれは、アンデッドと化して復活した魔王によるものだと言う。

「魔王って冗談じゃないわよね……」
「少なくとも、避難してきた民はそう申しております」

「街の防衛はどうなっているの!」
「それが、主力である近衛騎士団が壊滅しているため、難しい状況です」

 姫様は、できる限りの指示をするが、すぐに戻るということで通信を切った。
 そしてそこに割り込むように、またガンプから通信が入る。

 セイラは、耐えきれずにガンプに怒鳴った。

「師匠、魔王を復活させるなんて人類の敵ですよ!」
「バカかお前は、俺がやったわけないだろう!」

 もうこの国を見限っているガンプだって、自分がよく通った酒場や店が被害を受けたと聞けば気分がいいわけがない。

「だって、じゃあなんで知ってたんですか」
「俺は、魔界の各所を魔導球でモニタリングしてるんだよ」

 だから、王宮よりも早く魔王復活の情報をキャッチできたというのだ。
 むしろガンプからすれば、その程度のことをやってない王宮の情報網はどうなってるんだと苛立たしい思いがある。

「でも、もっと前に……師匠は最初から知ってたみたいじゃないですか」

 ガンプは、魔将をアンデッド化させたりもしているのだ。
 これまでがこれまで誰から信用できないとセイラは言う。

「じゃあ聞くがセイラ。お前魔王倒した後、死体の処理をきちんとやったか」
「やりましたよ! 四肢をちゃんと切断しました。首だってしっかりと斬り飛ばしました!」

「じゃあ、それらはバラバラにして封印したりはしたんだな」
「それは、だって……」

 あの時は、近衛騎士団が崩壊して、帰還を急かされていてそれどころではなかった。
 処置が甘かったかと言われると、不安になってくる。

「ちゃんとやってなかったんだなあ。それじゃあ、アンデッドとして復活しても当たり前だ」
「でも他の魔族であれば、バラバラにすることで復活を阻止できるはずでしょ」

「魔王は他の魔族とは違うだろ。なんで、これまでのケースを見てそれぐらいのことはわからないんだ」
「そんなこと言われたって、教えられてない……」

 口を尖らせるセイラに、いちいち何でも指示しないとできないって子供かよとガンプはつぶやいてしまう。
 十五歳だから、まだ子供かもしれん。

 しかし、少なくとも魔王がアンデッド化したのはガンプのせいではない。

「俺がその場にいれば教えていたさ。その機会を潰したのは誰だ?」
「……私たちです」

 それを言われたら、なんとも言い返せないだろう。
 ガンプは、ため息をついて言う。

「今更だが、あんなに魔王討伐を急がなければよかったんだ」

 タイムリミットがあったわけでもないのに、防衛の要である近衛騎士団まで使い潰して無茶な侵攻をしたのはどうしてだ。
 ガンプなら、魔王城攻略は半年……もしかすると、それ以上時間をかけて用心深く行っていたと思う。

 危なすぎてガンプは魔王城に近づいていなかったのだが、ちゃんと調べたらこんな状況を招かずに済んだ方法も見つかったかもしれない。
 それに対して、エリザベート姫姫がこたえる。

「攻略を急いだのは、建国記念日が近かったからよ」
「はあぁぁ?」

 ガンプはもう、呆れて物が言えない。

「その後には、大事な国際会議もあったの! お父様が、どうしてもそれまでに大きな成果を欲していたから」

 この姫様も姫様なら、国王も国王だ。
 ハイラント王国のガイアス王は、豪胆王などと呼ばれているが、こりゃろくでもないなとガンプは思う。

 姫様によると、現在も国王は国際会議に出ており、そろそろ帰国する予定だという。
 姫様が、比較的自由に国政を操れたのは、国王のガイアスが留守で指揮権を委任されていたということもあったのだ。

「すると何か、国王が国際会議でデカイ顔するためだけに魔王討伐を急いだのか!」
「外交のためよ、重要なことだわ。ガンプのやり方じゃ間に合わなかった」

 聞けば聞くほど、愚かな人間ばかりだ。

「あれだけの犠牲を出して、民を危機にさらして、王族はバカしかいないのか!」

 ガンプは根本的から、この国はもうだめだと感じた。

「私だけでなく、お父様もバカにする気?」
「バカだからバカだって言ってんだ!」

「なんですって!」
「じゃあ聞くけどよ。近衛騎士団があれば、カステルの防衛も出来たんじゃないか?」

 最前線の街が一つ潰れたのは、そしてこれから被害が拡大していくのは誰のせいだ。

「それは……」
「エリザベート姫、それは確実にお前の責任だよな。だったら魔王の討伐も、責任もって天下の勇者パーティー様がなんとかしてくれ」

 もはや相手にするのがアホらしくなって、ガンプは話を打ち切ろうとする。
 とりあえず、ガンプとしてもセイラたちには頑張ってもらわないといけないのだ。

 復活した魔王を勇者がなんとかできなきゃ、人類はいずれ滅亡するのだから。
 後は頼むぞと、投げやりにガンプは通信を切ろうとする。

 そこに、セイラは言う。

「師匠は、僕たちを助けてくれないの?」

 これに、ヴァルキリアやプリシラが反発した。

「こんなやつの助力なんかいるか!」
「本当です、悪しき道に落ちた者など信用できません」

 これには、ガンプは呆れる。
 なんでこんなバカげた話を、いつまでも聞かなきゃならんのか。

「おいおい、なんで俺がお前らを手助けしなきゃならない流れになってるんだよ」
「だって師匠の言う通りじゃないか。ここで魔王を止められなきゃ、人類滅亡なんだよ!」

 そう言われると、ガンプもふむと考え込んで言う。

「そこのエリザベート姫が非を認めて、地面に頭をこすりつけて謝るならば、力を貸してやってもいい」

 エリザベート姫はピシャリという。

「そんなことできるわけがありません!」
「だろうな、お前はそういう女だエリザベート。その高いプライドを抱いて死ぬまで戦うがいい。お前たちだけで、せいぜい頑張れ」

 もう自分は勇者パーティーではないので関係ないと、ガンプは一方的に通信を切ってしまった。
 セイラは、姫様に尋ねる。

「どうします?」
「もう一度、魔王を討伐するしかないでしょう」

 もはや、ガンプに関わり合っている場合ではない。
 人類の敵に回らないだけ、良しと思うしかない。

「師匠との戦いで、僕は一皮むけたような気がします」
「それは、何よりです。もはや、わたくしたちだけが世界を救えるのです」

 盛り上がってるところ申し訳ないんだがと、ヴァルキリアが割って入る。

「呪いの下着、どうする?」
「しまった! 師匠に呪いを解呪するように言えばよかった!」

 シリアスな話で、忘れていたが裸より恥ずかしい格好をしているのだった。
 もうこのエッチな下着に慣れてしまっているのかもしれない。

 しかも、ガンプは魔導球を下げてくれない。
 もはや諦めきっているエリザベート姫は、セイラに言った。

「セイラ、今回はあなたも一緒にハイレグ踊りですね」
「はい……」

 もはや時間との勝負になっているので、こんなところで時間を無駄にしている暇はないのだ。
 ハイレグ踊りにストリップをさせられながら、やはりガンプは最低だと思うセイラたちであった。

 魔王も、アンデッド化で強化されているかもしれない。
 それでも一度倒せたのだから、もう一度倒せるはず……。

 セイラたち勇者パーティーは、そう考えて戦いにおもむく。
 しかし、その考えが甘かったことは近いうちに判明することになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

禁忌だろうが何だろうが、魔物スキルを取り込んでやる!~社会から見捨てられ、裏社会から搾取された物乞い少年の(糞スキル付き)解放成り上がり譚~

柳生潤兵衛
ファンタジー
~キャッチコピー~ クソ憎っくき糞ゴブリンのくそスキル【性欲常態化】! なんとかならん? は? スライムのコレも糞だったかよ!? ってお話……。 ~あらすじ~ 『いいかい? アンタには【スキル】が無いから、五歳で出ていってもらうよ』 生まれてすぐに捨てられた少年は、五歳で孤児院を追い出されて路上で物乞いをせざるをえなかった。 少年は、親からも孤児院からも名前を付けてもらえなかった。 その後、裏組織に引き込まれ粗末な寝床と僅かな食べ物を与えられるが、組織の奴隷のような生活を送ることになる。 そこで出会ったのは、少年よりも年下の男の子マリク。マリクは少年の世界に“色”を付けてくれた。そして、名前も『レオ』と名付けてくれた。 『銅貨やスキル、お恵みください』 レオとマリクはスキルの無いもの同士、兄弟のように助け合って、これまでと同じように道端で物乞いをさせられたり、組織の仕事の後始末もさせられたりの地獄のような生活を耐え抜く。 そんな中、とある出来事によって、マリクの過去と秘密が明らかになる。 レオはそんなマリクのことを何が何でも守ると誓うが、大きな事件が二人を襲うことに。 マリクが組織のボスの手に掛かりそうになったのだ。 なんとしてでもマリクを守りたいレオは、ボスやその手下どもにやられてしまうが、禁忌とされる行為によってその場を切り抜け、ボスを倒してマリクを救った。 魔物のスキルを取り込んだのだった! そして組織を壊滅させたレオは、マリクを連れて町に行き、冒険者になることにする。

俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~

平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。 異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。 途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。 しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。 その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり
ファンタジー
世界一強いと言われているSSSランクの冒険者パーティ。 その一員であるケイド。 スーパーサブとしてずっと同行していたが、パーティメンバーからはただのパシリとして使われていた。 戦闘は役立たず。荷物持ちにしかならないお荷物だと。 それでも彼はこのパーティでやって来ていた。 彼がスカウトしたメンバーと一緒に冒険をしたかったからだ。 ある日仲間のミスをケイドのせいにされ、そのままパーティを追い出される。 途方にくれ、なんの目的も持たずにふらふらする日々。 だが、彼自身が気付いていない能力があった。 ずっと荷物持ちやパシリをして来たケイドは、筋力も敏捷も凄まじく成長していた。 その事実をとあるきっかけで知り、喜んだ。 自分は戦闘もできる。 もう荷物持ちだけではないのだと。 見捨てられたパーティがどうなろうと知ったこっちゃない。 むしろもう自分を卑下する必要もない。 我慢しなくていいのだ。 ケイドは自分の幸せを探すために旅へと出る。 ※小説家になろう様でも連載中

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

【破天荒注意】陰キャの俺、異世界の女神の力を借り俺を裏切った幼なじみと寝取った陽キャ男子に復讐する

花町ぴろん
ファンタジー
陰キャの俺にはアヤネという大切な幼なじみがいた。 俺たち二人は高校入学と同時に恋人同士となった。 だがしかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。 アヤネはあっさりと俺を捨て、イケメンの陽キャ男子に寝取られてしまったのだ。 絶望に打ちひしがれる俺。夢も希望も無い毎日。 そんな俺に一筋の光明が差し込む。 夢の中で出会った女神エリステア。俺は女神の加護を受け辛く険しい修行に耐え抜き、他人を自由自在に操る力を手に入れる。 今こそ復讐のときだ!俺は俺を裏切った幼なじみと俺の心を踏みにじった陽キャイケメン野郎を絶対に許さない!! ★寝取られ→ざまぁのカタルシスをお楽しみください。 ※この小説は「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...