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第一章 新人アナウンサー 雨宮涙子(22歳) 編

温泉レポ 前編

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「まったく、なんで私がこんなことを……」

 名門女子大を首席で卒業して、日本有数の名家である実家から強く反対されながらも大手テレビに就職した雨宮涙子(22歳)は、白いバスタオル一枚を身体にまいて、愚痴りに愚痴っていた。
 今日の涙子は、東北地方の温泉ロケに来ている。

 ピンク色をしていて美肌にいいというのが評判の桃川温泉を紹介するのが今日の仕事だ。
 もちろん、深夜にやる温泉番組でまともな温泉レポートなど気にしている人はいない。

「下に水着も着用禁止とか言われるし、最悪……」

 いかにもお嬢様な長く美しい巻髪をかきあげて、美しい眉根をキリリッと顰める涙子。
 今日涙子が担当するのは、新人アナウンサーを温泉に浸からせることで、視聴者の目を楽しませようというくだらない番組である。

 どれほどくだらなくても、その新人アナが透き通るような肌をした美人で、おっぱいが97センチのGカップだと言えば視聴率は十分確保できそうである。
 まだ入社したてなのに、期待の新人アナとしていやらしい目で見てくるファンもいるのだ。

 すでに、マニアの間ではお嬢様巨乳アナウンサーとして、人気を集めつつあるなんて話もある。
 真面目な報道部のキャスターを目指している涙子には、ありがたくない話だ。

「だめ、気を取り直してしっかり仕事しないと」

 バラエティー部門とはいえ、ちゃんとしたアナウンサーの仕事なのだ。
 ここでしっかりしないと、報道部に移るという涙子の夢も潰えてしまう。

 どんなにつまらない仕事でも、しっかりと丁寧に全力でやらなきゃ駄目だ。
 カメラマンと何やら話していたディレクターが、そんな涙子に尋ねる。

「涙子ちゃん。そろそろいいかな。生放送だから、くれぐれも気をつけてね」
「わかってます。いつでもいけます」

 絶対に落ちないように、しっかりとタオルを身体に巻き直してマイクを持ってカメラの前に立つ。

「じゃあ、本番5秒前、3,2、1」

 息を呑むと、涙子はとうとうと流れるように話始める。

「はい、大手テレビの新人アナウンサー。雨宮涙子です! 今日は、東北の桃川温泉に来ています」

 しっかりと暗記した、温泉の効能を説明しながらゆっくりと温泉の周りを歩く。
 全ては打ち合わせ通りに進んでいた。

「では、早速この近所では神の湯と言われている温泉を堪能してみたいと思います」

 ゆっくりと、岩風呂に浸かろうとしたその時だった。

「おいいいぃ! 姉ちゃんなにやってんだ!」
「えっ、ええーっ!!」

 突然、現場に男が乱入してきた。
 うろんな眼をしている、粗野な小太りの中年男性である。

「何やってんだって言ってんだ!」

 びっくりして、湯船に座り込んでしまう涙子。

「あの、いま撮影中なんで……」

 生放送の撮影なのだ。
 途中で止めるわけにはいかない。

 これはきっと、ハプニング映像としてバラエティーに使われるなと思いながら、なんとか男をなだめようとする。

「撮影だぁ、どこのテレビか知らねえけどなあ。ここの温泉は、タオルを湯につけちゃいけねえんだよ。マナー違反だろ!」

 まさか、闖入者にマナーを説かれるとは思わなかった。

「あの、でもここ女湯ですよね」
「はあっ、何言ってやがる。桃川温泉は、全部混浴だよ。そこに書いてあるだろ、日本語読めねえのかこのバカ娘!」

 バカと言われて、硬直してしまう。
 学生時代、ずっと優秀だと言われ続けてきたのに、産まれて始めて受けた罵倒だ。

 涙子は思わず涙目になってしまう。
 しかし、なんで自分は気が付かなかったのか。

 よくよく看板を読むと、混浴と書かれているではないか。

「本当、ですね……」
「本当ですねじゃねえんだよ! 湯船にタオルをつけるなって言ってんだろうが」

「ちょっと、引っ張らないでください。キャーやめてぇ!」

 バスタオルが、男の手によって無理やり剥ぎ取られる。
 涙子の97センチのバストが、ブルンブルンと生放送のテレビカメラの前に映し出された。

「ったくよぉ! タオルを風呂につけるとか、今どきの若い女は常識がないのか。ええっ?」
「すみません……」

 涙子は、おっぱいを必死に手で隠しながら涙目になって謝った。

「申し訳ないと思ったら、謝り方ってもんがあるだろ!」
「どうすればいいですか」

 男は呆れたように言った。

「なんだ、そんなことも親に習ってないのか。まず気をつけして、手は腰に揃えろ」
「えっ、あっ……」

「早くしろ! 頭を下げるんだよわかるだろ?」

 男の勢いに押されて、涙子はおっぱいから手を話して腰に当てる。
 気をつけの姿勢だ。

「申し訳、ございませんでした……」

 そのまま涙子は、深々と頭を下げる。
 お辞儀である。

 当然剥き出しの巨大なおっぱいは、ブルンブルンと男の前で激しく上下することになる。
 男は、それをスケベそうな眼でニンマリと眺めて言う。

「わかればいいんだよ、わかれば。しっかし、姉ちゃんほんとパイオツがでけえな」
「きゃー! おっぱいに触らないでください! 誰か助けてぇ!」

 男な、なんと急に涙子のおっぱいを鷲掴みにして揉みしだいてきた。
 これは、いくらなんでもアウトだ!

「おい、騒ぐなよ。裸の付き合いじゃないか」
「こんなのち、ち……」

 痴漢っていいたいのだが、テレビに映ってると気がついて躊躇した。
 涙子は、報道キャスターになりたいけど、自分が事件の被害者になりたいわけではない。

「こんなのスキンシップじゃねえか。混浴の温泉なら、どこでも挨拶代わりにやってることだぞ」
「そ、そんなわけ……」

 そう言ってみて気がついた。
 涙子は混浴の温泉に入ったことがない。

 入りたいと思ったことすらない。
 もしかすると、混浴にわざわざ入ってくるおおらかな男女の間ではそれが常識の可能性がある。

 そうなると、おかしな行動をしているのは自分ということになる。

「わかったみたいだな。郷に入れば郷に従えっていうんだよ。この温泉では、俺が先輩なんだから」
「あの、十分わかりましたので、できればカメラの外に出てもらえませんか」
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