麗しき女性監督「如月麗奈」

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第一章 監督一年目

第五話 将来のエース候補

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 五月二十六日。この日の練習の最後に紅白戦を行なった仙谷高校硬式野球部。麗奈はグラウンド外からネット越しに戦況を見つめる。

 紅組の一年生右腕が振りかぶり、モーションへ。

 
 「ストライク!」


 球審を務める一年生部員の声が麗奈の耳に届く。

 二年生キャッチャーが返球し、ボールはピッチャーのグラブに。ボールが収まる音を聞き、麗奈は呟く。


 「バンバン、ストライクが入る。テンポがいい。相手バッターに考える隙を与えない」


 それからすぐ、マウンドに立つ本田寛人ほんだひろとは振りかぶる。そして、リリース。

 スライダーを上手く打たせ、セカンドゴロに仕留め、スリーアウト。小走りで三塁側ベンチへ戻る弘人を目で追う麗奈。


 「打たせて取るピッチングが持ち味なのかもね。アウトのほとんどが凡打だから」


 小さく数回頷き、腕を組む麗奈。それからしばらくして、白組の大河が左バッターボックスへと入った。




 「ありがとうございました!」


 紅白戦が終了。三対一で紅組の勝利。

 麗奈視点での総括をし、この日の練習が終了。グラウンドを出る部員の背中を見つめる麗奈に恵一が尋ねる。


 「麗奈視点から良いピッチャーだなと思う部員は誰だ?」


 麗奈は恵一の問いと同時に、グラウンドへ体を向け、マウンドを見つめる。

 口元を緩めると左足を僅かに浮かす。やがて、左足がグラウンドの土を踏む。同時に、麗奈は答える。


 「本田君ですかね。ポンポンとテンポよく投げ込んで、相手に隙を与えない。そして、コントロールがいい」


 麗奈は口元を緩めたまま、目を閉じる。


 「将来のエース候補。そんな予感がします」


 麗奈の声から間もなくして、寛人の声が。


 「変化球、もっと覚えたい」


 その言葉を聞き、麗奈が言う。


 「凄いピッチャーになるよ、本田君」


 昌義と笑顔で言葉を交わす寛人へ視線を向ける麗奈。


 「でも、ベンチ入りを決めたわけじゃない。競争を勝ち抜く。そこから。本当のエースになるためにも」


 その言葉が届いたかのように、寛人はゆっくりと頷いた。
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