麗しき女性監督「如月麗奈」

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第一章 監督一年目

第一話 「飾りのままで終わりたくない…」

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 「キン!」


 練習場のベンチで打球音を聞き、白球を目で追う麗奈。それから間もなくして、硬式野球部員の大きな声がグラウンドに響く。

 再び打球音が。白球はセンターのフェンスを直撃し、転がる。同時に、麗奈がベンチを出る。


 「よーし!休憩!」

 「はい!」


 硬式野球部員は声を合わせると、ボール拾いを開始。ボールを全てかごへ入れると、硬式野球部員はグラウンドを出る。

 彼らの背中を見つめ、麗奈は一つ息をつく。


 「私が伝えることができるのは、自身が持っている知識…。その知識を伝える場面は来るのかな…」


 麗奈がその言葉を発してからしばらくし、一人の硬式野球部員が彼女の元へ。


 「如月さん。ソフト部だったんですか?」


 尋ねたのは一年生部員の木下昌義きのしたまさよし


 「うん。高校までね。最後にプレーしたのはこの学校」

 
 麗奈をじっと見つめる昌義。


 「大学でも続けようかと考えたけど、最後の大会で思った以上のプレーができなくて『ここまでだな』と悟って、高校で競技を引退したの」


 やさしい風が麗奈を包む。それからすぐ、麗奈は何かを悔やむような表情を浮かべる。


 「本当は大学でもプレーしたかったけどね…。高校まで全国を経験してこなかったから『大学では…!』って思ってたんだけど、そう上手くはいかないよね、人生って」


 麗奈は引退と同時に、指導者を志す。しかし、将来はバーで働きたいという夢を持っていた。そしていずれは自分の店を。

 麗奈は高校卒業、大学で勉学に励む傍ら、バーでアルバイトを開始。そのアルバイト先が「Bar SGS」だった。

 当時から麗奈の勤務成績は良好で、就職活動開始の時期に陽翔から正社員の打診を受ける。そして、大学卒業と同時に正社員となった。

 
 「もし、大学でもプレーを続けていたら、将来の夢は変わっていましたか?」


 昌義が尋ねると、麗奈は口元を緩める。


 「きっと、他のバーの正社員になってた。監督就任のオファーも来なかった」


 そう答え、昌義を見つめる麗奈。


 「まあ、今の私はただの飾りだよ」


 僅かな笑みを浮かべる麗奈。それからすぐ、視線をグラウンドへ戻す。同時に、麗奈の表情から笑みが消える。

 
 「今はその『飾り』の状況を脱しないといけない。飾りのままで終わりたくない…。わざわざ先生がお店を訪れてまでオファーを出してくれたんだから…!」


 右手に握り拳を作る麗奈。

 それは、彼女の覚悟の表れだった。その覚悟を受け取った昌義。

 次の瞬間。


 「僕達が如月さんを日本一の監督にします!」


 昌義の言葉でゆっくりと彼へ顔を向ける麗奈。

 真剣な昌義の眼差しが麗奈の目に映る。

 
 「飾りのままになんかさせませんから…!」


 昌義の言葉と同時に、軟式野球部顧問である男性教諭がグラウンドの前を通る。彼は通り過ぎざま、麗奈へ視線を向けていた。どこか冷たい眼差しで。

 男性教諭は通りかかった女性教諭と言葉を交わす。そして女性教諭の視線は麗奈へ。

 同じく、どこか埋めたい眼差しだった。

 しかし、麗奈は落ち込むことはなかった。



 「そういう意見があるのは分かっています。でも、実際に挑戦してみないと分からないことだってあります…。誰が何と言おうと関係ありません。終わりが訪れるまで、任務を全うさせていただきますよ…!」



 昌義は麗奈の言葉を聞き、後ろを振り向く。そして、麗奈の言葉の相手を理解する。

 小さく頷いた昌義は再び麗奈へ顔を向ける。そして、笑顔で言葉を掛ける。


 「大丈夫ですよ。俺達、如月さんの味方ですから。先生達が何と言おうと。改めて、よろしくお願いします!一緒に甲子園目指しましょう!」


 深々と頭を下げる昌義。


 「ちょ、ちょっと…そんなに…」


 それからすぐ、硬式野球部員が続々と麗奈の元へ。


 「おい、昌義。いつの間に仲良くなったのかよ?」

 「羨ましい。俺ともお話してください!」


 世間の声など知ったことか。私はこの子達、そして、硬式野球部のために全力を尽くす。

 心にそう誓い、麗奈はファーストベースへ。そして、走りだす。

 一人の一年生部員からの走塁に関する質問に答えるために。



 「速!」

 「ベースから視線を外しちゃダメだよ!」

 「はい!」



 この時、麗奈は本格的に指導者としての第一歩を踏み出した。
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