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『さよなら』って言ったのは私なのに……
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「今までありがとう」
健太の一言で美沙子の恋は終わった。
別れを切り出したのは美沙子。
交際してから会えない日が続き、積もり積もったものが崩れ落ちた。
健太と別れ、新しい恋を探し始めた美沙子。
しかし、なかなか見つからない。
健太と別れてから数週間が経ったある日。
「何で『別れよう』なんて言っちゃったんだろ……」
美沙子は別れたことを今更のように後悔していた。
しかし、時間は戻ってこない。
別れを切り出した自身の責任だ。
その日以降、心が晴れない日が続いた美沙子。
そんなある日のこと。
美沙子は休日に街へ繰り出す。
すると、ショッピングモールから出てくる一人の男性の姿が美沙子の目の映る。
無意識に美沙子の口が動く。
しかし、言葉は届いていない。
男性の背中を見つめることしか出来ない美沙子。
男性は信号機手前の角を右へ曲がろうとした。
その時。
美沙子の鼓動が高鳴る。
男性は一瞬だけ、美沙子へ視線を向けた。
そして、角を曲がる。
美沙子は無意識に走り出した。
信号機前に着くと、男性の姿はなかった。
どこかがっかりとした気持ちの美沙子は来た道を戻る。
すると。
「美沙子?」
背後から聞こえる声に振り向く美沙子。
目の前に立っていたのは美沙子の友人である和美。小学校時代からの仲の良い友人だ。
「どうしたの?暗い顔して」
和美の問いに美沙子は無理やり作った笑顔を見せる。
「何でもないの!それより偶然だね」
何とか話を逸らした美沙子。
しかし、和美には美沙子の真意が分かっていた。
「最近ね、健太も暗い顔してるの。健太と何かあったの?」
「え……」
別れを告げた際、健太は笑顔で美沙子を見送った。
しかし、その笑顔が何を意味しているのか美沙子には分からなかった。
美和子は真剣な表情でこう話す。
「ねえ、健太と会ってあげてよ。凄く会いたがってたから。ね?」
和美の言葉に対し、返事を躊躇う美沙子。
訴えかける様に美沙子を見つめる和美。
しばらくし、美沙子は首を縦に振った。
数日後。
美沙子は和美のメールに記載された場所へと赴き、健太を待つ。
何処か緊張した面持ちの美沙子。
そして、それからおよそ十分後。
一人の男性の姿。
美沙子は思わず背筋が伸びる。
距離が近付くにつれ、美沙子の鼓動は高鳴る。
そして、数十センチ前で男性は止まる。
「美沙子……」
健太だ。
お洒落な服装で現れた健太。その姿は交際していた頃から変わっていない。
しばらく沈黙が続く。
美沙子は俯く。
互いに話を切り出すことが出来ない。
その時、近くを歩く子どもの声が二人の耳に届く。母親と手を繋ぎ、楽しそうに話す子どもの声が。
子どもの姿を見つめる二人。
すると。
「可愛いね」
笑顔でそう話す美沙子。
その言葉に笑顔で頷く健太。
二人の心にあった緊張に近いものがほどけた瞬間だった。
しばらくし、健太が美沙子を見つめる。
「美沙子から別れを告げられた時、すごくショックだった。でも、それを表情に出したくなかった。情けない姿を見られたくなかったから。だから笑顔で見送ったんだ。いや、そうすることしか出来なかった」
あの時の真意を知った美沙子。
健太は続ける。
「今はもう人と人。でも、やっぱり美沙子がいないと……」
健太の言葉に思わず俯く美沙子。
その表情は僅かに赤みを帯びていた。
嬉しい気持ちの反面、くだらないプライドのようなものが美沙子の心で葛藤する。
『さよなら』って言ったのは私なのに……。
心にある壁がその先の言葉を出させてくれない。
健太は真剣な表情で美沙子を見つめる。
次の瞬間、美沙子の耳にある言葉が舞い降りる。
(くだらないプライドなんか捨てちゃいなよ)
二人以外に近くに誰かがいるわけでもない。
しかし、そう聞こえた。
美沙子は一瞬だけ目を閉じ、健太を見る。
「『さよなら』って言ったのは私なのにね。でも、健太と離れてから別れを告げたこと後悔して……やっぱり、私には健太しかいないと思って……」
一瞬雲に隠れた太陽が再び顔を出す。
「こんな私で良ければ、もう一度……!」
美沙子がその先を言おうとした瞬間、健太は美沙子の両手を握り締める。
そして、何も言わず笑顔で頷いた。
その表情を見て、美沙子は溢れ出そうになったものを何とか抑え、笑顔で頷いた。
数か月後。
「行くよー!」
「待ってー!美沙子は歩くのが速いから」
「そんなことないって。あれ、靴紐ほどけてるよ」
「あ、ほんとだ」
靴紐を結び直す健太。
結び終え、立ち上がると、あの頃と変わらない美沙子の表情が健太の目に映る。
やっぱり、美沙子じゃないと……。
小さく頷く健太。
道を進む二人。
しばらくして。
「美沙子、靴紐ほどけてる」
「え、あ、ほんとだ」
美沙子は靴紐を結ぶ。
結び終え、健太を見つめる美沙子。
やっぱり、隣には健太がいてほしい……!
笑顔で言葉を交わし、道を進む二人。
その後姿はまさに……!
もう二度と、二人が結んだ靴紐がほどけることはないだろう。
健太の一言で美沙子の恋は終わった。
別れを切り出したのは美沙子。
交際してから会えない日が続き、積もり積もったものが崩れ落ちた。
健太と別れ、新しい恋を探し始めた美沙子。
しかし、なかなか見つからない。
健太と別れてから数週間が経ったある日。
「何で『別れよう』なんて言っちゃったんだろ……」
美沙子は別れたことを今更のように後悔していた。
しかし、時間は戻ってこない。
別れを切り出した自身の責任だ。
その日以降、心が晴れない日が続いた美沙子。
そんなある日のこと。
美沙子は休日に街へ繰り出す。
すると、ショッピングモールから出てくる一人の男性の姿が美沙子の目の映る。
無意識に美沙子の口が動く。
しかし、言葉は届いていない。
男性の背中を見つめることしか出来ない美沙子。
男性は信号機手前の角を右へ曲がろうとした。
その時。
美沙子の鼓動が高鳴る。
男性は一瞬だけ、美沙子へ視線を向けた。
そして、角を曲がる。
美沙子は無意識に走り出した。
信号機前に着くと、男性の姿はなかった。
どこかがっかりとした気持ちの美沙子は来た道を戻る。
すると。
「美沙子?」
背後から聞こえる声に振り向く美沙子。
目の前に立っていたのは美沙子の友人である和美。小学校時代からの仲の良い友人だ。
「どうしたの?暗い顔して」
和美の問いに美沙子は無理やり作った笑顔を見せる。
「何でもないの!それより偶然だね」
何とか話を逸らした美沙子。
しかし、和美には美沙子の真意が分かっていた。
「最近ね、健太も暗い顔してるの。健太と何かあったの?」
「え……」
別れを告げた際、健太は笑顔で美沙子を見送った。
しかし、その笑顔が何を意味しているのか美沙子には分からなかった。
美和子は真剣な表情でこう話す。
「ねえ、健太と会ってあげてよ。凄く会いたがってたから。ね?」
和美の言葉に対し、返事を躊躇う美沙子。
訴えかける様に美沙子を見つめる和美。
しばらくし、美沙子は首を縦に振った。
数日後。
美沙子は和美のメールに記載された場所へと赴き、健太を待つ。
何処か緊張した面持ちの美沙子。
そして、それからおよそ十分後。
一人の男性の姿。
美沙子は思わず背筋が伸びる。
距離が近付くにつれ、美沙子の鼓動は高鳴る。
そして、数十センチ前で男性は止まる。
「美沙子……」
健太だ。
お洒落な服装で現れた健太。その姿は交際していた頃から変わっていない。
しばらく沈黙が続く。
美沙子は俯く。
互いに話を切り出すことが出来ない。
その時、近くを歩く子どもの声が二人の耳に届く。母親と手を繋ぎ、楽しそうに話す子どもの声が。
子どもの姿を見つめる二人。
すると。
「可愛いね」
笑顔でそう話す美沙子。
その言葉に笑顔で頷く健太。
二人の心にあった緊張に近いものがほどけた瞬間だった。
しばらくし、健太が美沙子を見つめる。
「美沙子から別れを告げられた時、すごくショックだった。でも、それを表情に出したくなかった。情けない姿を見られたくなかったから。だから笑顔で見送ったんだ。いや、そうすることしか出来なかった」
あの時の真意を知った美沙子。
健太は続ける。
「今はもう人と人。でも、やっぱり美沙子がいないと……」
健太の言葉に思わず俯く美沙子。
その表情は僅かに赤みを帯びていた。
嬉しい気持ちの反面、くだらないプライドのようなものが美沙子の心で葛藤する。
『さよなら』って言ったのは私なのに……。
心にある壁がその先の言葉を出させてくれない。
健太は真剣な表情で美沙子を見つめる。
次の瞬間、美沙子の耳にある言葉が舞い降りる。
(くだらないプライドなんか捨てちゃいなよ)
二人以外に近くに誰かがいるわけでもない。
しかし、そう聞こえた。
美沙子は一瞬だけ目を閉じ、健太を見る。
「『さよなら』って言ったのは私なのにね。でも、健太と離れてから別れを告げたこと後悔して……やっぱり、私には健太しかいないと思って……」
一瞬雲に隠れた太陽が再び顔を出す。
「こんな私で良ければ、もう一度……!」
美沙子がその先を言おうとした瞬間、健太は美沙子の両手を握り締める。
そして、何も言わず笑顔で頷いた。
その表情を見て、美沙子は溢れ出そうになったものを何とか抑え、笑顔で頷いた。
数か月後。
「行くよー!」
「待ってー!美沙子は歩くのが速いから」
「そんなことないって。あれ、靴紐ほどけてるよ」
「あ、ほんとだ」
靴紐を結び直す健太。
結び終え、立ち上がると、あの頃と変わらない美沙子の表情が健太の目に映る。
やっぱり、美沙子じゃないと……。
小さく頷く健太。
道を進む二人。
しばらくして。
「美沙子、靴紐ほどけてる」
「え、あ、ほんとだ」
美沙子は靴紐を結ぶ。
結び終え、健太を見つめる美沙子。
やっぱり、隣には健太がいてほしい……!
笑顔で言葉を交わし、道を進む二人。
その後姿はまさに……!
もう二度と、二人が結んだ靴紐がほどけることはないだろう。
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