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会いたかった人
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翌日、僕は久しぶりに店長のCDショップへ立ち寄った。「いらっしゃいませ」従業員の声が響く。入口から向かって右奥の棚に店長がいた。棚の掃除をしていたようだ。しばらくの間掃除をし、事務室に戻っていった。僕には気付いていないようだ。
僕は音楽雑誌のコーナーに足を運んだ。そこには松葉浩の特集記事が載っている雑誌があった。僕はその雑誌を手に取り、記事を読み始めた。
すると、レジの奥から店長の声が聞こえた。「コウちゃんかい?」店長が僕に気が付いた。僕は雑誌を置き、店長に挨拶をした。
「久しぶりだね、コウちゃん。部活とかで忙しかったのかい?」「う、うん。ちょっとね…」本当は行きづらかったからなんて言えるはずがない。僕は店長に合わるようにそう返した。
店長に先日のことを言われると思っていたが、そのことに全く触れられなかった。僕に気を使っていたのだろうか。
すると「実はね、来週の土曜日にアミちゃんが来てくれるんだ。オファーしたら受けてくれたんだ。みんなの前で歌いたかったし、それに会いたい人もいるからって」
「会いたい人」僕はその言葉が気になった。
アミはライブハウスに月2回出ているが、どちらも平日の夜。行ける人は少なかった。そのため、席がなかなか埋まらず、会いたかった人にも会えなかったという。
だが、今回は土曜日のお昼前。休みの人が多い。席が埋まりやすくなる。その会いたかった人も来られるかもしれない。
ただ、それが誰なのかは店長も分からないという。
「運がいいよコウちゃん。もし来週も来なかったらアミに会えなかったんだから」「そうだね…。来てよかった!」
僕はしばらく店長と話し、店を出た。
「アミちゃん、来てくれるんだ…。嬉しいけどスケジュール大丈夫だったのかな…」僕は余計な心配をしていた。アミに言ったら怒られていただろう。「それに…。会いたい人って誰なんだろう…」
そんなことを考えながら自宅に戻った。
翌週の土曜日、僕はショップへ向かった。アミのステージは11時から。10時45分頃に着くと、スペースはほぼ埋まっていた。僕は最後列の席に座り、開始を待った。
11時、アミがステージに登場した。この日はバックバンドも来ていた。来ていたのはなんとアミの高校時代のバンドメンバーだった。公園で会った佐々木さんも参加していた。
みんなが拍手と歓声でアミを迎える。アミは1曲目にバラード曲を歌った。とてもきれいな歌声が店内に響いた。
「きれいな声だなあ」僕はアミの歌声に聴き入っていた。
その後2曲を歌い、MCの時間になった。
「みなさん。今日は私のために貴重な時間を割いて下さってありがとうございます。またみなさんに会えてとても嬉しいです。今日は高校時代のバンドメンバーも来てくれました。ぜひ、メンバーの演奏も堪能してください。そして、今日は新曲も持ってきたので楽しみにしてて下さい」
その時、客席から歓声が起こった。みんなアミに会えるのと同時に新曲も楽しみにしていたみたいだ。
アミはその後、既存の曲を3曲歌った。
その後、MCの時間になり、新曲の説明をした。「色々悩んでいた時にふと自分の曲を聴いたんです。その時ヒントが生まれました。そのヒントをもとに作った曲です。聞いて下さい」
アミはアコースティックギターを弾き始めた。それに続いてバンドメンバーが楽器を鳴らした。そのサウンドには何か懐かしさを感じた。「あれ…。この曲の感じ…。もしかして…」
その曲はアミのインディーズ時代の曲と雰囲気が似ていた。「インディーズの頃を思い出すねえ」僕の後ろに立っていた店長が小さな声で呟いていた。客席でもインディーズの頃を思い出す人が多かった。みんな昔を懐かしむように聴き入っていた。
懐かしさを感じていたのはバンドメンバーも同じだった。
曲が終わり、大きな拍手が送られた。
「ありがとうございます。もしかしたらご存知の方も多いかもしれませんが、インディーズ時代の曲を参考にした曲なんです。高校時代に作った曲で。原点回帰というか。自分らしさを取り戻すために一度昔の自分に戻ってみようと思って」
万人受けする曲も魅力的だが、アーティストらしさが出ている曲はもっと魅力的だ。アミがショップに持ち込んだ曲には自分らしさがなかった。担当者はそこもチェックしたのかもしれない。
アミはその後4曲を歌い、ステージが終了した。
アミとバンドメンバーはステージを降り、事務室へ入った。
事務室ではアミとバンドメンバーが会話していた。
「よかったね亜美子!浩二くんに会えて!」「ちょっと!何言ってんの由紀恵!」「ちらちら浩二くんのこと見てたじゃん!」「あれはたまたま…」「顔赤いよ?」「本当だ!」「ちょっと!怒るよ!?」
事務室は笑いに包まれた。
事務室のドアの前で店長と副店長が4人の会話を聞いていた。「よかったな…。アミちゃん」「ほんと…。よかったわねえ…」店長と副店長が微笑みながら小声で呟いた。
20分後、アミとバンドメンバーが店長に挨拶し、店を出た。アミは少し歩いたところでバンドメンバーと別れた。
バンドメンバーを見送り、アミは歩いた。
「楽しかったなあ。久しぶりにみんなの前で歌えて…。久しぶりに4人でステージに立てたし。新曲も気に入ってもらえたし。それに…」アミは顔を赤らめて少し俯いた。
それはまるで誰かに惚れてしまったような表情だった。
「あれ…。何考えてんだろ。私…」
アミは気持ちを落ち着かせた。
そして一度立ち止まり、空を見上げた。
「ここから這い上がってやる!みんな見てて!」
そう決心し、再び曲作りに燃えるアミであった。
僕は音楽雑誌のコーナーに足を運んだ。そこには松葉浩の特集記事が載っている雑誌があった。僕はその雑誌を手に取り、記事を読み始めた。
すると、レジの奥から店長の声が聞こえた。「コウちゃんかい?」店長が僕に気が付いた。僕は雑誌を置き、店長に挨拶をした。
「久しぶりだね、コウちゃん。部活とかで忙しかったのかい?」「う、うん。ちょっとね…」本当は行きづらかったからなんて言えるはずがない。僕は店長に合わるようにそう返した。
店長に先日のことを言われると思っていたが、そのことに全く触れられなかった。僕に気を使っていたのだろうか。
すると「実はね、来週の土曜日にアミちゃんが来てくれるんだ。オファーしたら受けてくれたんだ。みんなの前で歌いたかったし、それに会いたい人もいるからって」
「会いたい人」僕はその言葉が気になった。
アミはライブハウスに月2回出ているが、どちらも平日の夜。行ける人は少なかった。そのため、席がなかなか埋まらず、会いたかった人にも会えなかったという。
だが、今回は土曜日のお昼前。休みの人が多い。席が埋まりやすくなる。その会いたかった人も来られるかもしれない。
ただ、それが誰なのかは店長も分からないという。
「運がいいよコウちゃん。もし来週も来なかったらアミに会えなかったんだから」「そうだね…。来てよかった!」
僕はしばらく店長と話し、店を出た。
「アミちゃん、来てくれるんだ…。嬉しいけどスケジュール大丈夫だったのかな…」僕は余計な心配をしていた。アミに言ったら怒られていただろう。「それに…。会いたい人って誰なんだろう…」
そんなことを考えながら自宅に戻った。
翌週の土曜日、僕はショップへ向かった。アミのステージは11時から。10時45分頃に着くと、スペースはほぼ埋まっていた。僕は最後列の席に座り、開始を待った。
11時、アミがステージに登場した。この日はバックバンドも来ていた。来ていたのはなんとアミの高校時代のバンドメンバーだった。公園で会った佐々木さんも参加していた。
みんなが拍手と歓声でアミを迎える。アミは1曲目にバラード曲を歌った。とてもきれいな歌声が店内に響いた。
「きれいな声だなあ」僕はアミの歌声に聴き入っていた。
その後2曲を歌い、MCの時間になった。
「みなさん。今日は私のために貴重な時間を割いて下さってありがとうございます。またみなさんに会えてとても嬉しいです。今日は高校時代のバンドメンバーも来てくれました。ぜひ、メンバーの演奏も堪能してください。そして、今日は新曲も持ってきたので楽しみにしてて下さい」
その時、客席から歓声が起こった。みんなアミに会えるのと同時に新曲も楽しみにしていたみたいだ。
アミはその後、既存の曲を3曲歌った。
その後、MCの時間になり、新曲の説明をした。「色々悩んでいた時にふと自分の曲を聴いたんです。その時ヒントが生まれました。そのヒントをもとに作った曲です。聞いて下さい」
アミはアコースティックギターを弾き始めた。それに続いてバンドメンバーが楽器を鳴らした。そのサウンドには何か懐かしさを感じた。「あれ…。この曲の感じ…。もしかして…」
その曲はアミのインディーズ時代の曲と雰囲気が似ていた。「インディーズの頃を思い出すねえ」僕の後ろに立っていた店長が小さな声で呟いていた。客席でもインディーズの頃を思い出す人が多かった。みんな昔を懐かしむように聴き入っていた。
懐かしさを感じていたのはバンドメンバーも同じだった。
曲が終わり、大きな拍手が送られた。
「ありがとうございます。もしかしたらご存知の方も多いかもしれませんが、インディーズ時代の曲を参考にした曲なんです。高校時代に作った曲で。原点回帰というか。自分らしさを取り戻すために一度昔の自分に戻ってみようと思って」
万人受けする曲も魅力的だが、アーティストらしさが出ている曲はもっと魅力的だ。アミがショップに持ち込んだ曲には自分らしさがなかった。担当者はそこもチェックしたのかもしれない。
アミはその後4曲を歌い、ステージが終了した。
アミとバンドメンバーはステージを降り、事務室へ入った。
事務室ではアミとバンドメンバーが会話していた。
「よかったね亜美子!浩二くんに会えて!」「ちょっと!何言ってんの由紀恵!」「ちらちら浩二くんのこと見てたじゃん!」「あれはたまたま…」「顔赤いよ?」「本当だ!」「ちょっと!怒るよ!?」
事務室は笑いに包まれた。
事務室のドアの前で店長と副店長が4人の会話を聞いていた。「よかったな…。アミちゃん」「ほんと…。よかったわねえ…」店長と副店長が微笑みながら小声で呟いた。
20分後、アミとバンドメンバーが店長に挨拶し、店を出た。アミは少し歩いたところでバンドメンバーと別れた。
バンドメンバーを見送り、アミは歩いた。
「楽しかったなあ。久しぶりにみんなの前で歌えて…。久しぶりに4人でステージに立てたし。新曲も気に入ってもらえたし。それに…」アミは顔を赤らめて少し俯いた。
それはまるで誰かに惚れてしまったような表情だった。
「あれ…。何考えてんだろ。私…」
アミは気持ちを落ち着かせた。
そして一度立ち止まり、空を見上げた。
「ここから這い上がってやる!みんな見てて!」
そう決心し、再び曲作りに燃えるアミであった。
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