コウジとアミ

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アミの夢

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アミは店長と何か話をしていたらしい。内容は分からないが2人には笑顔がこぼれていた。

 「やあ、コウちゃん。いらっしゃい。びっくりしちゃった?」店長がこちらを向き笑顔で僕を迎えてくれた。その横にはアミが立っていた。

 「こんにちは。お邪魔してます」アミが体をこちらに向け、頭を下げた。「こんにちは」僕はアミの挨拶に返すように頭を下げた。ライブの時よりも口調が丁寧だったのが印象的だった。

 「浩二くんっていうんだよね。店長さんからお話は伺ってます。この前は来てくれてありがとう。嬉しかった」アミは笑顔で僕に話した。僕ははにかんだような表情を浮かべ再び頭を下げた。思わず照れてしまった。

 「今日はこのお店のイベントでお邪魔してるの。このステージで歌わせていただけることになって」この日の出演者は偶然にもアミだった。

 現在、15時。イベント開始は16時だ。

 アミは店内の事務室に入って準備をした。

 15時40分頃、アミのファンが続々店内に入ってきた。その中には小さな男の子もいた。店内に設けられた50人分ほどのスペースはあっという間に埋め尽くされた。

 16時、ステージが始まった。みんな拍手と歓声でアミを出迎えていた。僕は最後列でステージを観ていた。みんな楽しそうにステージを観ている。とてもいい光景だった。僕もみんなと一緒に盛り上がった。
 
 1時間後、ステージが終了した。「今日はありがとうございました」深々と頭を下げた。ファンからは惜しみない拍手が送られた。ステージ後、アミはファンと交流していた。小さな男のに声を掛けられたアミ。すると、男の子と同じ目線に立ち「来てくれてありがとう。また会いに来てね」と笑顔で頭を撫でた。とても嬉しそうな男の笑顔が印象的だった。

  しばらくして、アミは事務室に戻った。来ていたファンは数人残っていた、僕も店内に残っていた。

 すると、店長が事務室から出てきた。「コウちゃん!」僕は店長に呼ばれ、事務室に通された。奥の椅子にアミが座っていた。アミは微笑みながら僕を見ていた。店長は席を外した。僕達に気を遣ったのだろう。

 「楽しかった?」アミは僕に聞いた。「うん。楽しかった」「よかった。そう言ってもらえるとほんとに嬉しい。ありがとう」満面の笑みで話していた。素敵な笑顔だった。

 「そういえば…」僕は口を開いた。「アミちゃんってよくこのお店で歌ってるって店長から聞いたんだけど、どうして?」素朴な疑問をアミにぶつけた。アミは「ふふっ」と笑いながら答えてくれた。

 「実は私、この街の出身でね。それでお世話になった地元のために何かできないかなって考えてたの。そしたら私もよく通っていたこのお店の店長さんが私に声を掛けてくれたの。『うちの店でイベントを開催するから歌ってくれないか』って」

 アミは小学校の頃からこのCDショップに通っており、店長はその頃からアミのことを知っていた。アミは歌手になることが夢だった。そして歌手になったことを知った店長がアミに声を掛けた。

 「こうしてみんながライブに足を運んでくれるようになったきっかけを作ってくれたのここの店長さんなんだ。だからその恩返しも兼ねてこのお店で歌ってるの」「そうだったんだ」「まだまだ知名度が低いから大きな会場では歌えないけど、いつかみんなを大きな会場に連れてってあげるのが夢なんだ」

 アミの目は輝いていた。売れなければ契約を切られてしまうとても厳しい世界。アミはそんな荒波に負けないくらいの気持ちを持っていた。

 「俺、アミちゃんのことこれからもずっと応援するよ!絶対に。」「ほんと?嬉しい!絶対だよ?」アミは僕の手を両手で握りしめた。僕はしばらくアミと話した。

 その後、マイのマネージャーが事務室に現れた。「マイ、そろそろ行こうか」「はい…。じゃあね浩二くん」マイは笑顔でそう言い残し「では…」とマネージャーは僕に頭を下げ、ショップを出た。

 数分後、見送りに出た店長が事務室に戻ってきた。「行っちゃった…」店長はどこか寂し気な様子だった。

 事務室の椅子に座った店長がしばらくパソコンを触りながらため息をついた。「アミ、続けられればいいけど…」「どういうこと?」僕は店長に聞いた。店長は少しためらいながら話した。

 「うん…。実はアミに契約終了の話が出てるらしいんだ…。まだ決まりじゃないらしいけど…」「え…」僕はそこから言葉が出てこなかった。「売れなかったら契約を切られる。辛いけどそういう世界なんだ、コウちゃん…。このことは本当は内緒なんだ。だから誰にも言わないでくれよ、コウちゃん…」アミは笑顔の裏で契約終了の怖さと戦っていた。だからこそ支えてくれるファンの存在が有難かったのだろう。「俺達にできることは、CDを買ったり、ライブに行ったりしてアミを応援することだよ」そう言い、店長は席を立った。

 店内ではステージの後片付けをしている。ステージ台やマイクなどを従業員が片付けていた。「アミちゃん、可愛かったね」「うん!」女性従業員とファンの女性の声が聞こえた。だが、従業員と他のファンはアミがあのような状況に置かれていることを知らない。知ってるのは僕と店長だけだ。状況を聞いた僕はその会話を聞いて何故だか悲しみが込み上げてきた。「あれ、何で泣いてるんだろ…」そんなことを思い、僕は事務室で1人涙を流していた。
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