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最終章 勝負の三年間 三年生編
第五話 「挑戦してダメなら悔いはありません」
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「ナイスプレー!」
鈴江は笑顔で言葉を掛け、綾乃とハイタッチを交わす。
綾乃はやや照れたような笑みを浮かべる。
「綾乃ちゃんがいると、本当に心強いよ。攻撃でも、守備でも。必要不可欠な存在。練習でも、練習以外でも」
「ちょ、ちょっと…」
綾乃には、鈴江の言葉が大袈裟に聞こえた。
しかし、鈴江の言葉は本心だ。
「卒業後も、一緒にプレーしたいなあ」
鈴江は笑顔を浮かべ、そのように呟くとポジションに戻る。
綾乃はしばらく鈴江の姿を目で追うと、晴れ渡った空を眺める。
「卒業後…私はどういった進路を歩んでいるのでしょう…」
天に尋ねるように、綾乃は言葉を発する。
高校卒業までに夢を叶えることができなければ、浩平が社長を務める会社のグループ企業に入社する。
綾乃は決して、入社を断っているわけではない。
「夢に向かって挑戦したい。挑戦してダメなら悔いはありません」
産まれた段階で、道が決まっていたようなもの。
運命だ。
しかし、綾乃はその運命に抗うように、自身の夢を追い続けている。
夢を追わずして諦める方が、圧倒的に悔いが残るのだから。
しばらくすると、綾乃は視線を正面へ向ける。同時に、綾乃の右足に向かってボールが転がる。
綾乃はボールが転が音に気付くと、咄嗟に右脚を伸ばす。
「いけない…練習中でした…」
そして我に返ったように、右足で納めたボールへ視線を向ける。
「卒業後も…」
綾乃は哀愁が漂う表情を浮かべ、無意識の言葉を漏らす。
それからすぐ、鈴江の明るい声が綾乃の耳に届く。
「綾乃ちゃん!」
綾乃は哀愁が漂う表情のまま、鈴江へ視線を向ける。
すると、美智恵が綾乃の様子に気付き、声を掛ける。
「どうしたの?」
心配そうに美智恵が尋ねると、綾乃は自身をあざ笑うような表情を浮かべる。
そして、何事もなかったことを装うように、やさしい笑顔を作る。
「なんでもありません。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
「だったらいいんだけど…」
綾乃は美智恵の左肩にやさしく右手を置く。
「さあ、いきましょう!」
そして、笑顔で言葉を掛けると、綾乃はドリブルを仕掛ける。
頼もしさの窺える背中は一気に二人を抜く。そして、ゴール前にスルーパスを供給する。
そのスルーパスに反応した鈴江が右足で押し込むと、ボールはゴールネット中央に鋭く突き刺さった。
「卒業後も一緒に…!」
鈴江が綾乃に言葉を掛けてからすぐ、太陽の日差しが山取東高校女子サッカー部員の影をピッチに、よりはっきりと映し出した。
鈴江は笑顔で言葉を掛け、綾乃とハイタッチを交わす。
綾乃はやや照れたような笑みを浮かべる。
「綾乃ちゃんがいると、本当に心強いよ。攻撃でも、守備でも。必要不可欠な存在。練習でも、練習以外でも」
「ちょ、ちょっと…」
綾乃には、鈴江の言葉が大袈裟に聞こえた。
しかし、鈴江の言葉は本心だ。
「卒業後も、一緒にプレーしたいなあ」
鈴江は笑顔を浮かべ、そのように呟くとポジションに戻る。
綾乃はしばらく鈴江の姿を目で追うと、晴れ渡った空を眺める。
「卒業後…私はどういった進路を歩んでいるのでしょう…」
天に尋ねるように、綾乃は言葉を発する。
高校卒業までに夢を叶えることができなければ、浩平が社長を務める会社のグループ企業に入社する。
綾乃は決して、入社を断っているわけではない。
「夢に向かって挑戦したい。挑戦してダメなら悔いはありません」
産まれた段階で、道が決まっていたようなもの。
運命だ。
しかし、綾乃はその運命に抗うように、自身の夢を追い続けている。
夢を追わずして諦める方が、圧倒的に悔いが残るのだから。
しばらくすると、綾乃は視線を正面へ向ける。同時に、綾乃の右足に向かってボールが転がる。
綾乃はボールが転が音に気付くと、咄嗟に右脚を伸ばす。
「いけない…練習中でした…」
そして我に返ったように、右足で納めたボールへ視線を向ける。
「卒業後も…」
綾乃は哀愁が漂う表情を浮かべ、無意識の言葉を漏らす。
それからすぐ、鈴江の明るい声が綾乃の耳に届く。
「綾乃ちゃん!」
綾乃は哀愁が漂う表情のまま、鈴江へ視線を向ける。
すると、美智恵が綾乃の様子に気付き、声を掛ける。
「どうしたの?」
心配そうに美智恵が尋ねると、綾乃は自身をあざ笑うような表情を浮かべる。
そして、何事もなかったことを装うように、やさしい笑顔を作る。
「なんでもありません。ご心配をおかけして、申し訳ありません」
「だったらいいんだけど…」
綾乃は美智恵の左肩にやさしく右手を置く。
「さあ、いきましょう!」
そして、笑顔で言葉を掛けると、綾乃はドリブルを仕掛ける。
頼もしさの窺える背中は一気に二人を抜く。そして、ゴール前にスルーパスを供給する。
そのスルーパスに反応した鈴江が右足で押し込むと、ボールはゴールネット中央に鋭く突き刺さった。
「卒業後も一緒に…!」
鈴江が綾乃に言葉を掛けてからすぐ、太陽の日差しが山取東高校女子サッカー部員の影をピッチに、よりはっきりと映し出した。
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