Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

第三章 勝負の三年間 二年生編

第十二話 「一歩進んだ。明日からは…」

　「ただ今戻りました」


　午後二時二十七分に帰宅した綾乃は階段を上り、寝室へ向かう。ドアを開け、バッグを机の横に置くと、試合後のあの場面が頭の中に映像として流れる。


　「宮城先生とお話をされていた方は…」


　記者だったのか、それとも…。

　
　「まあ、そんなことあるはずないですよね…。もし、そうだったら夢のようなお話ですけど…」


　頬を緩めた綾乃。


　「今は試合に出て、勝つ。ただそれだけです」


　そう言葉を発し、綾乃は食堂へと向かった。



　「いただきます」


　手を合わせ、箸を持つ綾乃。ご飯茶碗を持つと同時に、浩平が食堂へ。綾乃は箸とご飯茶碗を置き、立ち上がろうとしたが、浩平は「食事を続けなさい」と右掌を綾乃へ見せる。綾乃は浩平の送るサインに「はい」と応えるように軽く頭を下げ、腰掛ける。

　浩平は綾乃から少し離れた椅子へ腰掛ける。それから少し遅れて晴義が食堂へ。


　「お帰りなさいませ」と言うように、綾乃へ頭を下げると、浩平の正面へ腰掛ける晴義。綾乃は晴義へ体を向け、会釈で応える。そして、テーブルへ体を向け、再び箸とご飯茶碗を持つ。

　綾乃の耳には微かに耳に届く浩平と晴義の会話。特に気にすることなく、箸を進める綾乃。

　すると、次の瞬間。



　「一歩進んだ。明日からは…」


　微かに聞こえる浩平の言葉に綾乃は右手に持つ箸を見つめ、その言葉を意味を探る。

　あれこれ考えていると、いつの間にか三分以上が経過していた。