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第二章 勝負の三年間 一年生編

第三十九話 心強い存在

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 「一ノ瀬、明日は試合に出さない。足の状態が心配だからな」


 挨拶を終え、右足を引きずるようにベンチへと戻った綾乃にそう言葉を掛けた宮城。

 綾乃は「はい…」と応える。

 
 二回戦、三回戦ともに、途中出場の綾乃。その中で、自身の技術と体力のなさを痛感した。

 
 「そう順調に事は運びませんね…。今は練習あるのみです…」


 宮城と握手を交わし、ロッカールームへ続く通路へ足を踏み入れたと同時に、綾乃はそう言葉を漏らした。



 綾乃がロッカールームへ入ると、健実が心配そうな表情で歩み寄る。


 「大丈夫?右足…」


 
 彼女の問いに、綾乃はスパイクを履いた自身の右足へ視線を向ける。同時に、残り数秒でのあの場面が映像として頭の中で流れる。


 
 北東学園高校の選手が右足で合わせる。同時に、彼女の背後から山取東高校の一人の選手が現れた。

 その選手が綾乃だった。


 綾乃はペナルティーエリア外から一気にゴールエリア手前まで回り込み、健実の頭上を越えたボールを額に当てる。あと数センチでゴールという状況だった。

 綾乃はシュートブロックをしようとジャンプした時に自身の右足くるぶしをゴールポストへぶつけてしまった。しかし、綾乃はそのまま走った。

 ボールはペナルティーエリアの外へ流れ、ボールを追う瑞穂が大きくクリア。それから間もなくしてホイッスル。

 同時に、綾乃の右足に痛みが走った。




 映像が終了するとともに、視線を健実へ。


 「まだ痛むので、この後マッチドクターに診ていただきます。大丈夫ですよ、すぐ治りますから」


 笑顔でそう答えると、綾乃はタオルで顔の汗を拭う。そして、タオルを左肩にかけ、医務室へと向かった。



 「とりあえず、これで様子を見てください」

 「ありがとうございました」


 医務室で処置を受けた綾乃はマッチドクターへお礼を伝える。

 怪我は軽傷。患部を氷で冷やし、経過観察。

 ゆっくりと歩を進める綾乃。

 そして、ロッカールームへ戻ると、舞子が心配そうに声を掛ける。


 「早く治してね…。でも、焦らずにね…。綾乃ちゃんがいると凄く心強いから…」


 そして、綾乃の左肩に手を置く。


 「終了間際のファインプレー、絶対忘れないからね…!」


 舞子は微笑みながら小さく頷き、瑞穂の元へと赴いた。



 綾乃はしばらく舞子の背中を見つめると、視線をスパイクを脱いだ痛みが残る自身の右足へ。

 


 「早く…治ってくださいね…。今はこのチームのために…!」


 
 終了間際のファインプレーを演出した自身の右足を見つめ、綾乃は一秒でも早い怪我の回復を願った。
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