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第二章 勝負の三年間 一年生編
第三十一話 列車内の三人
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六月八日。
山取東高校はこの日、北東学園高校との三回戦に挑む。
六時三分に目を覚ました綾乃はベッドから下りると、窓を開ける。
外は快晴。
「いい天気ですね…!」
やさしく降り注ぐ朝陽を浴び、綾乃は体を伸ばす。
一つ深呼吸をすると、犬の鳴き声が響く。まるで、綾乃の言葉に応えるように元気に。
綾乃は口元を緩め、小さく頷く。
犬との会話が成立した瞬間だったのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
朝食を終え、綾乃は食器を下げる。席へ戻ると、浩平が問う。
「今日は北東学園とか?」
「はい。私に出番があるかは分かりませんが、機会が巡ってきたら全力でボールを追いかけます」
娘の力強い言葉に頷く父。母は娘を見つめながら湯呑を傾ける。
「中途半端なプレーでは通用しない。県外から来てる生徒もいる。その選手に負けないように。それが勝利への第一歩だ」
浩平はそう言い、コーヒーを啜る。
綾乃は「はい」と応えると浩平へ一礼し、食堂を出た。
「行ってらっしゃいませ」
晴義に見送られ、綾乃は試合会場の緑石北サッカー場へと向かった。台府駅に到着し、緑石駅までの切符を購入し、改札機を抜ける。そして、緑石駅行きの列車内へ。
すると、ある学校名が背中部分に記されたジャージが綾乃の目に映る。
「北東学園…」
三回戦の相手、北東学園の女子サッカー部員だった。
「山東か…。最近強いからね」
「でも、勝てなくないでしょ」
「そうそう!」
三人の会話が綾乃の耳に届く。
綾乃は三人の会話を耳に入れながら列車内に掲出された広告へ視線を向ける。
その時。
「そういえば、山東の一年…。誰だっけ…」
「えっと…。一ノ瀬…。だったかな」
「あ、そうそう。なんか、二回戦で全得点アシストしたんだって。今日出るかなと思って」
「出そうだよね。でも、大丈夫でしょ」
「そうそう」
そして、三人の笑い声が。
その瞬間、綾乃は囁くように言う。
「まあ、私はその程度でしょうね…」
しかし、その言葉に「悔しさ」の文字はなかった。
寧ろ、エンジンがかかったような声だった。
「緑石行き、発車します」
出発時刻となり、車掌の言葉からすぐにドアが閉まり、列車は動き出す。吊革に掴まりながら列車に揺られる綾乃。
「ですが…」
綾乃の言葉と同時に、列車はスピードを上げる。
「その言葉通りになるでしょうかね…!」
綾乃はその瞬間、口元を緩める。それから間もなくして、列車内に自動アナウンスが流れる。
窓に見える朝日を見つめ、綾乃は心に灯をともした。
山取東高校はこの日、北東学園高校との三回戦に挑む。
六時三分に目を覚ました綾乃はベッドから下りると、窓を開ける。
外は快晴。
「いい天気ですね…!」
やさしく降り注ぐ朝陽を浴び、綾乃は体を伸ばす。
一つ深呼吸をすると、犬の鳴き声が響く。まるで、綾乃の言葉に応えるように元気に。
綾乃は口元を緩め、小さく頷く。
犬との会話が成立した瞬間だったのかもしれない。
「ごちそうさまでした」
朝食を終え、綾乃は食器を下げる。席へ戻ると、浩平が問う。
「今日は北東学園とか?」
「はい。私に出番があるかは分かりませんが、機会が巡ってきたら全力でボールを追いかけます」
娘の力強い言葉に頷く父。母は娘を見つめながら湯呑を傾ける。
「中途半端なプレーでは通用しない。県外から来てる生徒もいる。その選手に負けないように。それが勝利への第一歩だ」
浩平はそう言い、コーヒーを啜る。
綾乃は「はい」と応えると浩平へ一礼し、食堂を出た。
「行ってらっしゃいませ」
晴義に見送られ、綾乃は試合会場の緑石北サッカー場へと向かった。台府駅に到着し、緑石駅までの切符を購入し、改札機を抜ける。そして、緑石駅行きの列車内へ。
すると、ある学校名が背中部分に記されたジャージが綾乃の目に映る。
「北東学園…」
三回戦の相手、北東学園の女子サッカー部員だった。
「山東か…。最近強いからね」
「でも、勝てなくないでしょ」
「そうそう!」
三人の会話が綾乃の耳に届く。
綾乃は三人の会話を耳に入れながら列車内に掲出された広告へ視線を向ける。
その時。
「そういえば、山東の一年…。誰だっけ…」
「えっと…。一ノ瀬…。だったかな」
「あ、そうそう。なんか、二回戦で全得点アシストしたんだって。今日出るかなと思って」
「出そうだよね。でも、大丈夫でしょ」
「そうそう」
そして、三人の笑い声が。
その瞬間、綾乃は囁くように言う。
「まあ、私はその程度でしょうね…」
しかし、その言葉に「悔しさ」の文字はなかった。
寧ろ、エンジンがかかったような声だった。
「緑石行き、発車します」
出発時刻となり、車掌の言葉からすぐにドアが閉まり、列車は動き出す。吊革に掴まりながら列車に揺られる綾乃。
「ですが…」
綾乃の言葉と同時に、列車はスピードを上げる。
「その言葉通りになるでしょうかね…!」
綾乃はその瞬間、口元を緩める。それから間もなくして、列車内に自動アナウンスが流れる。
窓に見える朝日を見つめ、綾乃は心に灯をともした。
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