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第二章 勝負の三年間 一年生編

第三十話 「あれ、あの子…」

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 「ピーッ!」


 
 試合終了。二対〇で山取東高校が勝利した。

 両校の選手は整列し、スタンドへ一礼。そして、選手同士握手を交わす。

 中町商業高校のキャプテンと握手を交わした綾乃。

 すると。


 「一年生?」


 尋ねられた綾乃は「はい」と答える。

 
 「頑張ってね」


 笑顔で言葉を掛け、舞子と握手を交わした。

 お礼をその場で伝え損ねた綾乃。

 握手を終えると、遠くに見える中町商業高校のキャプテンを見つめる。


 「ありがとうございます…!」


 綾乃は引き締まった表情でお礼を伝えた。

 


 着替えを終え、ロッカールームを出た山取東高校の選手。


 「三回戦は北東ほくとう学園高校さんとの対戦。厳しい戦いになる。しかし、勝てない相手じゃない。自分達の武器を思う存分発揮してほしい。以上だ。解散」

 「ありがとうございました!」


 それぞれが岐路に就く。

 綾乃は最寄り駅となる地下鉄の駅へと向かう。

 切符を購入し、ホームに立つ。それからしばらくして、風と共に列車が到着。ドアが開き、席へ腰掛ける。

 列車が動き出し、綾乃は向かいの窓を見つめる。すると、中町商業高校のキャプテンに掛けられた言葉が頭の中で流れる。

 綾乃は目を閉じ、口元を緩める。


 ありがとうございます…!そのように声を掛けていただいたことなど今まで全くありませんでしたから…。


 心で言葉を贈ると、車内の自動アナウンスが流れる。

 アナウンスが終了すると、綾乃は目を開ける。


 お気持ちを無駄にせず、精進してまいります…!


 その後しばらくして、次の駅に到着した。




 「台府に到着です」


 
 ドアが開き、台府駅地下鉄のホームへ降り立った綾乃。エスカレータのステップに立ち、地下一階へ上がる。

 改札機が綾乃の目に映る。それからすぐに、地下一階へ到着。そして、改札機の手前へ。

 その時。


 「あれ、あの子…」


 背後から男性の声が。綾乃はその声に反応し、一瞬だけ切符を通す手が止まる。

 振り向こうとした綾乃だが、後ろが詰まると思い、切符を改札機へ通した。

 改札機を抜け、綾乃は振り向く。しかし、改札機の向こうには男性らしき姿はなかった。

 
 気のせいだったのでしょうか…。


 首をかしげる綾乃。


 しばらくし、綾乃は正面を向き、エスカレーターで地上へ上った。




 「ただいま」



 三時七分に帰宅した綾乃。

 晴義は綾乃を出迎えると、微笑む


 「あれ、どうしたんですか?ニコニコして」


 笑顔で尋ねる綾乃。

 晴義は「いえ」と答えると、微笑む。

 
 「お食事は?」

 「いただきます」

 「ご準備しております」

 「ありがとうございます」


 
 綾乃はお礼を歌え、階段を上り、寝室へ。

 バッグを置き、着替える。そして、食堂へ向かおうとした。

 その時。


 「見ろ」

 「あらほんと!」


 ドアの向こうから浩平と由紀子の声が。綾乃はドアノブから手を離す。

 数秒後、綾乃はゆっくりとドアを開け、廊下を出る。

 二人の姿はない。

 ドアを閉めた綾乃は首をかしげる。


 「どうされたんでしょう、お父様とお母様…」


 天井を見つめ、考える綾乃。しかし、その答えは出てこなかった。

 しばらくし、綾乃は階段へ視線を向ける。


 「さあ、土曜日は三回戦。絶対勝ちましょうね…!」


 気合いを入れるように握り拳を作った綾乃は小さく頷き、食堂へと歩を進めていった。
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