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第二章 勝負の三年間 一年生編
第二十一話 引き寄せ
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「ピーッ!」
ホイッスルが鳴り、四十分のミニゲームが終了。
一対一の引き分け。
「ありがとうございました!」
挨拶を終え、宮城の元へ集まる綾乃達。
「引き分けだが、仕上がりを感じた。よほどのことがない限り、メンバーは変更しない。コンディション管理をしっかりするように。今日はこれで終了だ」
「ありがとうございました!」
次々と練習場を出る女子部員。綾乃は美幸とともにベンチに腰掛け、彼女達の背中を見つめる。
「勝ちたかったですけど、そう簡単にはいきませんよね…。後半はほぼ、何もさせてもらえませんでした。特に、吉川先輩に…」
後半、綾乃はボールを持ったが、舞子が彼女の動きを上手く封じ、前線へボールを送ることができなかった
「綾乃ちゃんがあそこまで封じ込まれるんだもん…。やっぱり凄いよ…」
弱々しい声で美幸が言葉を吐き出す。
「でも…」
若干強さを取り戻した声で美幸が続ける。
「逆に、成長するチャンスって捉えることもできるよね。困難を乗り越えてこそ、成長するから」
日差しが強くなり、練習場の人工芝に二人の影を濃く映す。
綾乃は自身の影を見つめ、小さく頷く。
「困難が経験となり、その経験が試合に活きる。だからこそ、勝利により近付く。このミニゲームは成長への更なる一歩」
美幸が続けると、彼女の横顔を見つめる綾乃。
「そうですね…!」
「月曜からまた頑張ろう!」
「はい!」
午後二時二十三分。
綾乃は帰宅し、寝室で着替える。
そして、食堂へと向かう。
食堂のドアを開けると、浩平の姿が。綾乃の姿に気付いた浩平は椅子から立ち上がり、彼女の元へ。
「ただ今戻りました」
「おう、戻ったか。来週から総体の県大会か」
「はい。ですが、私はスタンドで応援です」
綾乃が応えると、浩平は小さく頷く。
「まあ、仕方ないさ。層が厚いからな。特に、二年生の子が凄いという噂は聞いている。まずは、その子に追いつかないといけないな」
「はい。まずは、ベンチ入りを果たすことができるよう、日々精進してまいります」
「頑張るんだぞ?そして、夢に近付けるように」
「はい」
浩平は小さく頷くと、食堂を出る。
綾乃は彼の背中を見届け、食器が並べられているテーブルの席へと腰掛けた。
「ごちそうさまでした」
食事を終えると、コックが食器を下げる。綾乃はお礼を伝え、食堂を出る。
そして、外へ。
サッカーの練習でも訪れる公園へ足を運んだ綾乃。すると、見覚えのある少年の姿が。彼はベンチに腰掛け、女性と言葉を交わしていた。
綾乃は二人の姿を見つめる。
「恋人のようには見えませんけど…。どなたなんでしょう…」
綾乃の足は自然とベンチへと向かっていた。
少年は綾乃の姿に気付くと、立ち上がり、笑顔で手を振る。
「綾乃ちゃん!」
「宮本さん。偶然ですね」
ベンチに腰掛けていたのは潤だった。彼の隣に腰掛けていた女性も立ち上がる。
「あ、紹介するね。僕のお姉ちゃん」
女性は頭を下げる。潤と顔のよく似たきれいな女性だった。
「宮本沙苗です。潤からお話は窺ってます。『女子サッカー部に凄い子がいる』と」
沙苗が言うと、謙遜するように首を横に振る綾乃。
「いえ、私はまだ全然…」
彼女の姿を見つめ、潤が言う。
「綾乃ちゃん、ほんとに謙虚だから。仙田先輩もそうだけど」
沙苗は潤の言葉に頷く。
「あの子が引き寄せたのかもね。そして、潤が綾乃ちゃんをここに引き寄せた」
「ちょっと、お姉ちゃん…」
微笑み、綾乃を見つめる沙苗。
「綾乃ちゃん、潤と仲良くしてあげてね。この子、寂しがり屋だから」
「お姉ちゃん!」
照れたような潤の声を聞き、微笑む綾乃。
「昔っから私にべったりだったもんね」
「まあ、あれは事情が…」
綾乃はその事情を尋ねようとしたが、止めた。
しばらくじゃれ合うきょうだい。そして、沙苗は笑顔で綾乃を見つめる。
「こんな弟だけど、よろしくね!」
そして、潤の頭に手を置き、頭を下げた。
少し遅れて潤も。
綾乃は微笑むと、小さく頷く。
「こちらこそ。改めて、よろしくお願いします。宮本さん」
綾乃の言葉に、潤は笑顔で頷く。
そして、笑顔で言葉を交わす潤と綾乃。その姿を微笑みながら見つめる沙苗。
「お顔が似てらっしゃるなあ、と」
「よく言われるよ」
「きれいなお顔立ちで」
「ね、姉ちゃんはともかく、俺は…」
沙苗には、潤と綾乃の姿がどのように映っただろうか。
ホイッスルが鳴り、四十分のミニゲームが終了。
一対一の引き分け。
「ありがとうございました!」
挨拶を終え、宮城の元へ集まる綾乃達。
「引き分けだが、仕上がりを感じた。よほどのことがない限り、メンバーは変更しない。コンディション管理をしっかりするように。今日はこれで終了だ」
「ありがとうございました!」
次々と練習場を出る女子部員。綾乃は美幸とともにベンチに腰掛け、彼女達の背中を見つめる。
「勝ちたかったですけど、そう簡単にはいきませんよね…。後半はほぼ、何もさせてもらえませんでした。特に、吉川先輩に…」
後半、綾乃はボールを持ったが、舞子が彼女の動きを上手く封じ、前線へボールを送ることができなかった
「綾乃ちゃんがあそこまで封じ込まれるんだもん…。やっぱり凄いよ…」
弱々しい声で美幸が言葉を吐き出す。
「でも…」
若干強さを取り戻した声で美幸が続ける。
「逆に、成長するチャンスって捉えることもできるよね。困難を乗り越えてこそ、成長するから」
日差しが強くなり、練習場の人工芝に二人の影を濃く映す。
綾乃は自身の影を見つめ、小さく頷く。
「困難が経験となり、その経験が試合に活きる。だからこそ、勝利により近付く。このミニゲームは成長への更なる一歩」
美幸が続けると、彼女の横顔を見つめる綾乃。
「そうですね…!」
「月曜からまた頑張ろう!」
「はい!」
午後二時二十三分。
綾乃は帰宅し、寝室で着替える。
そして、食堂へと向かう。
食堂のドアを開けると、浩平の姿が。綾乃の姿に気付いた浩平は椅子から立ち上がり、彼女の元へ。
「ただ今戻りました」
「おう、戻ったか。来週から総体の県大会か」
「はい。ですが、私はスタンドで応援です」
綾乃が応えると、浩平は小さく頷く。
「まあ、仕方ないさ。層が厚いからな。特に、二年生の子が凄いという噂は聞いている。まずは、その子に追いつかないといけないな」
「はい。まずは、ベンチ入りを果たすことができるよう、日々精進してまいります」
「頑張るんだぞ?そして、夢に近付けるように」
「はい」
浩平は小さく頷くと、食堂を出る。
綾乃は彼の背中を見届け、食器が並べられているテーブルの席へと腰掛けた。
「ごちそうさまでした」
食事を終えると、コックが食器を下げる。綾乃はお礼を伝え、食堂を出る。
そして、外へ。
サッカーの練習でも訪れる公園へ足を運んだ綾乃。すると、見覚えのある少年の姿が。彼はベンチに腰掛け、女性と言葉を交わしていた。
綾乃は二人の姿を見つめる。
「恋人のようには見えませんけど…。どなたなんでしょう…」
綾乃の足は自然とベンチへと向かっていた。
少年は綾乃の姿に気付くと、立ち上がり、笑顔で手を振る。
「綾乃ちゃん!」
「宮本さん。偶然ですね」
ベンチに腰掛けていたのは潤だった。彼の隣に腰掛けていた女性も立ち上がる。
「あ、紹介するね。僕のお姉ちゃん」
女性は頭を下げる。潤と顔のよく似たきれいな女性だった。
「宮本沙苗です。潤からお話は窺ってます。『女子サッカー部に凄い子がいる』と」
沙苗が言うと、謙遜するように首を横に振る綾乃。
「いえ、私はまだ全然…」
彼女の姿を見つめ、潤が言う。
「綾乃ちゃん、ほんとに謙虚だから。仙田先輩もそうだけど」
沙苗は潤の言葉に頷く。
「あの子が引き寄せたのかもね。そして、潤が綾乃ちゃんをここに引き寄せた」
「ちょっと、お姉ちゃん…」
微笑み、綾乃を見つめる沙苗。
「綾乃ちゃん、潤と仲良くしてあげてね。この子、寂しがり屋だから」
「お姉ちゃん!」
照れたような潤の声を聞き、微笑む綾乃。
「昔っから私にべったりだったもんね」
「まあ、あれは事情が…」
綾乃はその事情を尋ねようとしたが、止めた。
しばらくじゃれ合うきょうだい。そして、沙苗は笑顔で綾乃を見つめる。
「こんな弟だけど、よろしくね!」
そして、潤の頭に手を置き、頭を下げた。
少し遅れて潤も。
綾乃は微笑むと、小さく頷く。
「こちらこそ。改めて、よろしくお願いします。宮本さん」
綾乃の言葉に、潤は笑顔で頷く。
そして、笑顔で言葉を交わす潤と綾乃。その姿を微笑みながら見つめる沙苗。
「お顔が似てらっしゃるなあ、と」
「よく言われるよ」
「きれいなお顔立ちで」
「ね、姉ちゃんはともかく、俺は…」
沙苗には、潤と綾乃の姿がどのように映っただろうか。
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