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第二章 勝負の三年間 一年生編

第十八話 私にしか出せないもの

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 五月二十日。


 この日から綾乃達一年生部員は二、三年生とともに練習。

 東山取運動場ひがしやまとりうんどうじょう。この日から綾乃達が練習する場所だ。

 更衣室で着替えを終え、綾乃達はサッカー場へ。


 「よろしくお願いします!」


 練習場へ入り、一列に並び、挨拶をする一年生部員。二、三年生部員はその声を聞き、彼女達を見つめる。そして、歩み寄る。

 一年生部員と向かい合うように一列に並んだ二、三年生部員。それからすぐに、主将の声が。


 「よろしくお願いします!」


 彼女の声に続けて、幾つもの声が重なる。


 
 練習場の隣には硬式野球部の練習場。それを挟んで、男子サッカー部の練習場がある。綾乃は少し離れた場所から聞こえるサッカーボールを転がす音に耳を澄ませる。

 それからしばらくして、聞き覚えのある声が。綾乃はその声を聞き、口元を緩める。

 
 「お互い頑張りましょうね…!」


 同時に吹いたやさしい風に言葉を乗せ、綾乃は歩を進めた。



 「ゴール前!」


 二年生部員、吉川舞子よしかわまいこの声と同時に、綾乃は左サイド深くからクロスを上げる。ボールに反応した同じく二年生の佐々岡瑞穂ささおかみずほが頭で合わせると、ゴールネット左を揺らす。

 瑞穂が綾乃の元へ。


 「上手いね。宮城先生が言ってたよ。『凄い一年生がいる』って」


 その一年生部員が綾乃だった。

 綾乃は照れ笑いに近い表情を浮かべ、応える。


 「いえいえ…。私はまだまだですから。本当に『凄い』と思っていただけるように頑張っていきます」


 瑞穂は微笑みながら綾乃を見つめる。


 「どこか似てる、陽太と…。顔は似てないけど、常に挑戦者のような気持ちを持って…」


 綾乃は瑞穂が出した名前に反応し、男子サッカー部の練習場方向を見つめる。


 その姿を見て、舞子が綾乃に言う。


 「綾乃ちゃんがこのチームを押し上げてくれそう。これから一緒に頑張ろう!」


 綾乃は舞子の目を見つめる。そして、口も音を緩め、小さく頷く。


 「はい」



 
 休憩に入り、綾乃は練習場を出る。向かった先は男子サッカー部の練習場前。綾乃の視線の先には一人の男子部員。


 「いいぞ、仙田!」


 大石の声。


 綾乃はボールを華麗に奪取し、素早く前線へ繋げたその男子部員の動きを目で追う。やがて、彼のプレーに見入ってしまう。


 「凄い…」


 思わず言葉を漏らす綾乃。

 それからすぐに、ゴールネットが揺れる。

 潤が彼の元へ。そしてハイタッチを交わす。同時に、潤は綾乃の姿に気付き、軽く頭を下げる。綾乃も応えるように軽く頭を下げる。

 潤はしばらく綾乃を見つめ、センターサークル付近へと小走りで向かう。彼とハイタッチした部員も。彼は瑞穂が話していた部員。綾乃は彼を目で追う。

 
 「独特な雰囲気…。私にあの方のような雰囲気は出せるのでしょうかね…」


 自身へ問うように言葉を発する綾乃。

 綾乃が目で追う部員はボールを受けると、素早く前線へパスを送る。そのボールに反応した潤が右足を振り抜く。

 次の瞬間、綾乃は息をつく。


 「でも、私にしか出せないものもきっとあるはず…。それを探してみましょうかね…」


 その言葉からすぐに、潤が放ったボールはきれいにゴールネットに吸い込まれた。
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