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第二章 勝負の三年間 一年生編

第十五話 「仲良いよね」

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 試合終了後、綾乃は潤の元へ。


 「凄いよ、実際に綾乃ちゃんのプレーを観て、そう思った。友達からはプレーの内容を言葉で聞いていただけだったからね。こんな凄い選手が同じクラスに」

 「ち、ちょっと、宮本さん」


 照れ笑いに近い表情を浮かべる綾乃。

 綾乃のプレーは初めて彼女のプレーを自身の目で観た潤に大きな衝撃を与えた。彼の想像をはるかに超えるほどに。

 
 「少しだけですけど、宮本さんのプレーを取り入れてみたんです。ドリブル突破からクロスのプレーを。ですけど、宮本さんみたいに上手くいかなくて…。あのプレーができる宮本さんは凄いなと…」

 「あの動きを観た時に『おっ…!』って思わず声が漏れちゃった。驚きもあったけど、嬉しさが上を行ったよ。普通に俺より上手かったし」

 「え、いや、そんなこと…」

 「本当にそう思ってるよ」


 潤が笑顔で話すと、綾乃は目を閉じ、口元を緩める。

 
 「嬉しいな、俺のプレーを取り入れてくれて。それは、俺のプレーが評価されたようなものだから。でも、そこで満足しちゃいけないよね。更に上の目標があるから」


 潤がそう話すと、綾乃は目を開ける。


 「全国に行く。男女でね。それが今の夢。それ夢に向かって練習してる」


 潤の続く言葉で綾乃は微笑む。

 
 「全国に出たら宮本さんは一番の注目選手ですね」

 「綾乃ちゃんはもっと注目されるよ。せいぜい俺は一瞬だけ取り上げてもらえるくらいだと思う」

 「もう…!」


 笑い合う二人。


 クラスメイトの二人。しかし、二人のことをよく知らない人物から見れば、それ以上の仲に見えるかもしれない。

 二人にはそのような気持ちは芽生えていない。あくまで、クラスメイト。そして、サッカーを愛する者同士。


 その後二人はサッカーの話題に花を咲かせた。



 
 着替えを終え、バッグを持った綾乃。ドアノブを掴んだと同時に、真希が綾乃に声を掛ける。


 「仲良いよね」


 その言葉でドアノブから手を離す綾乃。


 「宮本君と」


 真希の表情には笑みが。

 すると、綾乃の表情にも笑みが。


 「ええ、まあ。仲良くせさていただいているのでしょうかね」


 どこか曖昧な言葉に真希はやさしく笑う。


 「もう、どっちなの。でも、私達から見たら仲良く見えるよ。昔から知ってる仲みたいにね」


 二人が実際に顔を合わせたのは高校入学後。それまでは、お互いの顔を見たことがなかった。潤に関しては友人から話を聞いていた程度だ。

 前世で会っていた。もしかしたらその可能性もあるかもしれない。しかし、仮に会っていたとしたら、顔を見た瞬間、何かを察するだろう。


 初めて会った気がしない…。と。


 「綾乃ちゃんって、好きな子いるの?」


 真希の唐突な質問。しかし、綾乃は落ち着いた様子で首を横に数回振る。


 「今はいません。しかし、仮にできたとしても、最終的に決定を下すのはお父様ですから」


 真希は「そっか…」と言うように小さく数回頷く。

 
 真希はロッカーの扉を閉じ、バッグを左手に持つ。


 「お似合いだと思うけどね、綾乃ちゃんと潤君…。でも、おうちの都合とかもあるもんね…」


 更衣室の蛍光灯を見つめ、そう呟いた真希。

 それからすぐに、彼女の視線は綾乃へ。


 「応援してるからね、綾乃ちゃんの恋」


 笑顔で、そしてどこかちょっかいを出すように真希は言う。


 「ちょ、ちょっと、西岡さん…!」

 「照れてる!」

 「もう…!」


 お父様はどのようなお方なら許してくださるのでしょう…。


 綾乃が心で呟くと同時に、更衣室は賑やかな雰囲気に包まれた。
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