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第二章 勝負の三年間 一年生編

第九話 背番号七、一ノ瀬綾乃。

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 午前九時五十七分、両校の選手が整列。両校の選手が握手を交わし、代表者がセンターサークル内へ。

 山取東高校からは綾乃が。主審がコイントスし、エンドとボールが決定。前半は岩浜西高校ボールでのキックオフとなった。

 試合時間は前半と後半合わせて四十分。この練習試合では延長戦は行なわない。

 綾乃は岩浜西高校の主将と握手を交わす。

 綾乃の目に映るのは決して余裕を見せない相手主将の姿。それこそが本来あるべき姿。


 「よろしくお願いします!」


 二人が声を揃え、足を上げると同時に、両校の選手がポジションへ散る。綾乃は中盤左サイドの位置に立つ。

 センターサークル内には握手を交わした相手主将の姿。綾乃は彼女を見つめ、囁くように言う。


 「簡単に勝たせてくれないことは百も承知です…。ですけど、こちらが勝つ可能性は十分あります…!」


 それからすぐに、一人の選手がセンターサークル内へ。そして、ボールを右足で収め、主将と言葉を交わす。

 すると次の瞬間、主将の視線が綾乃へと向けられる。綾乃は主将の視線から目を逸らすことなく、じっと彼女を見つめる。

 主将の視線が何を意味するのかは綾乃には分からない。しかし、握手を交わした時と同様に、表情には「余裕」の文字はない。


 しばらく主将を見つめた綾乃の視線は校舎へ。彼女の目に映るのは一階の一つの窓。その左にはあの人物。

  綾乃の表情は一瞬だけ緩みかけたが、すぐに気を引き締め直す。


 「勝利に貢献できるプレーを…!」


 綾乃はその人物に会釈し、視線をセンターサークルへ。

 同時に、綾乃が着用する背番号七のビブスを太陽が照らす。そして、練習場に彼女の影をはっきりと映す。

 すると。

 
 「頑張れ、綾乃ちゃん!」


 綾乃の耳に男子生徒の声が届く。


 「綾乃ちゃん!」

 
 続けて、女子生徒の声が。


 彼らの声は校舎の三階にある音楽室から。

 綾乃は彼らを見つめ、小さく頷く。


 「ありがとうございます…!力になります…!」


 お礼を伝えると、校舎の一階の窓へ視線を移す。

 潤と目が合った綾乃。


 綾乃を見つめる潤は微笑み、小さく頷く。

 彼の表情を見て、綾乃も微笑む。


 「ありがとうございます…!絶対に勝利を掴み取ります…!」



 そして、十時三分。


 ピーッ!


 ホイッスルが鳴り、前半の二十分が始まった。岩浜西高校の主将へボールが渡ったと同時に、背番号七、一ノ瀬綾乃は勢いよく駆け出す。

 主将がパスを出すと、綾乃はスピードを上げる。

 その姿にお嬢様の面影はない。

 まさに、サッカー選手そのもの。


 「おお!」


 しばらしく、校舎から歓声が練習場に届く。彼らの歓声は背番号七へ向けられた。

 
 彼らの視線の先に映る綾乃はピッチの練習場でボールを右足で収める。


 監督の宮城が思わず声を上げるほどの鮮やかなボール奪取だった。 
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