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第一章 中学校時代
第二話 「お前の覚悟を見せてくれ」
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書斎のドアを数回ノックし、ドアノブへ右手を掛ける綾乃。ドアを開くと、視線の先には椅子にどっしりと構える浩平の姿。机の前には一つの椅子が用意されていた。
「まあ、掛けなさい」
椅子を勧められ、綾乃は「失礼します」と頭を下げ、腰掛ける。それから少しの間の後、浩平が口を開く。
「さっきの話だが、私は考えを変えない。高校卒業後にグループ企業に入って経験を積んでもらい、いずれはトップの座を継いでもらいたい。お客様のために、そして、一ノ瀬家のために」
重みのある浩平の声が綾乃の耳に届く。
綾乃は父の言葉を聞き、僅かに顔を俯ける。しかし、臆することはなかった。
顔を上げ、綾乃は浩平の目を見つめる。
「私もそう思っています。お客様のために、一ノ瀬家のために。しかし、それはもう少しだけ待っていただけませんか?私にも夢があります。その夢への挑戦へのお時間をいただけないでしょうか?」
真剣な眼差しで父を見つめる娘。
「夢か……」
浩平はそう言葉を漏らすと唸るように息をつき、腕を組む。そして、キャスター付きの椅子を後ろへ引くと足を組み、天井を見つめる。
「夢でもこればかりは……」
浩平が言うが、綾乃は表情を変えない。
父は娘の目をじっと見つめる。
一分後、浩平が何かを悟ったかのように口を開く。
「険しい道だ。生半可な覚悟で続けてたら途中で挫折する。お前には限界まで自身を追い込めるだけの気持ちがあるか……?」
重みのある浩平の声に、綾乃は表情を変えることなく、静かに頷く。
「仮にそうなってしまった場合、お客様のため、一ノ瀬家のために尽くしてくれるか?」
綾乃は再び静かに頷く。
浩平は一瞬だけ書斎の窓を見つめ、机の引き出しを開ける。そして、一枚の用紙を取り出し、机上の万年筆を右手に取り、文字を記し始める。
数分後、浩平は万年筆を置き、用紙を綾乃へ差し出す。
綾乃は記された文字を見て、思わず目を細める。
読み終えた綾乃は視線を浩平に戻す。
「お父様……」
綾乃の言葉に、浩平はうなるように息をつくと、腕を組む。
「お前の覚悟を見せてくれ。我が一ノ瀬家に誇れるお前の覚悟を。もし、その夢を掴み取ることができたら全力で応援させてもらう。いいか?」
綾乃は口元を緩め、頷く。
「勿論です……!」
綾乃はドアの前で一礼し、書斎を出る。右手に浩平が文字を記した用紙を携えて。
自身の寝室へと入った綾乃は椅子へ腰掛け、再び用紙の文字へ目を通す。
文字を目で追うとともに、綾乃の表情は引き締まる。
「声が掛からなければ……」
そう呟いた綾乃は小さく頷く。
用紙の最下段にはこう記されていた。
高校卒業までにプロクラブから声が掛からなければ、グループ企業へ入り、経験を積むこと。
「勿論です…!」
再び小さく頷くと立ち上がり、窓から空を眺め、天に何かを誓うように口を動かす。
「絶対、なってみせます」
そう誓うような口の動きだった。
数日後。
登校した綾乃はクラスメイトの女子生徒と進路について話す。
「綾乃ちゃんってどこの高校に行くの?やっぱり、吉体大附属?」
そう尋ねたのは女子サッカー部に所属していた女子生徒。綾乃は「いえ」と前置きし、こうこたえる。
「山取東高校を受験しようと思っています」
綾乃の答えを聞き、女子生徒は驚いた表情を浮かべる。
「山東(山取東高校の略称)!?」
「はい。お父様から山取東高校の受験を勧めていただいて」
「まあ、サッカーコースがあるけどさ」
「それも理由かと思われますけど、一番の理由は……」
綾乃は浩平が山取東高校の受験を勧めた理由を話す。それを聞き、女子生徒は納得した表情を見せる。
「なるほどね。勢いあるもんね。今年の秋は県ベストエイトだったらしいし」
「『一番全国に近い』お父様がそう仰っておりましたので」
しばらくサッカーの話で盛り上がる二人。
その中で。
「綾乃ちゃん、お父さんが会社を経営してるんだよね?将来は綾乃ちゃんが継ぐの?」
女子生徒の問いに、綾乃は口元を緩める。そして、数日前の出来事を話す。
すると。
「凄い挑戦だね……」
驚く女子生徒。
綾乃は真剣な表情で小さく頷く。並々ならぬ覚悟が窺える表情が女子生徒の目に映る。
「夢でしたから…!挑戦しないと絶対後悔しますから……!」
力強く話した綾乃は自身に気合を入れるように右手で握り拳を作る。
そして、こう続ける。
「絶対に掴み取ってみせます……!」
女子生徒にしか見えない光が綾乃を包む。その光は数年後、どのような輝きを放つのだろう。
「まあ、掛けなさい」
椅子を勧められ、綾乃は「失礼します」と頭を下げ、腰掛ける。それから少しの間の後、浩平が口を開く。
「さっきの話だが、私は考えを変えない。高校卒業後にグループ企業に入って経験を積んでもらい、いずれはトップの座を継いでもらいたい。お客様のために、そして、一ノ瀬家のために」
重みのある浩平の声が綾乃の耳に届く。
綾乃は父の言葉を聞き、僅かに顔を俯ける。しかし、臆することはなかった。
顔を上げ、綾乃は浩平の目を見つめる。
「私もそう思っています。お客様のために、一ノ瀬家のために。しかし、それはもう少しだけ待っていただけませんか?私にも夢があります。その夢への挑戦へのお時間をいただけないでしょうか?」
真剣な眼差しで父を見つめる娘。
「夢か……」
浩平はそう言葉を漏らすと唸るように息をつき、腕を組む。そして、キャスター付きの椅子を後ろへ引くと足を組み、天井を見つめる。
「夢でもこればかりは……」
浩平が言うが、綾乃は表情を変えない。
父は娘の目をじっと見つめる。
一分後、浩平が何かを悟ったかのように口を開く。
「険しい道だ。生半可な覚悟で続けてたら途中で挫折する。お前には限界まで自身を追い込めるだけの気持ちがあるか……?」
重みのある浩平の声に、綾乃は表情を変えることなく、静かに頷く。
「仮にそうなってしまった場合、お客様のため、一ノ瀬家のために尽くしてくれるか?」
綾乃は再び静かに頷く。
浩平は一瞬だけ書斎の窓を見つめ、机の引き出しを開ける。そして、一枚の用紙を取り出し、机上の万年筆を右手に取り、文字を記し始める。
数分後、浩平は万年筆を置き、用紙を綾乃へ差し出す。
綾乃は記された文字を見て、思わず目を細める。
読み終えた綾乃は視線を浩平に戻す。
「お父様……」
綾乃の言葉に、浩平はうなるように息をつくと、腕を組む。
「お前の覚悟を見せてくれ。我が一ノ瀬家に誇れるお前の覚悟を。もし、その夢を掴み取ることができたら全力で応援させてもらう。いいか?」
綾乃は口元を緩め、頷く。
「勿論です……!」
綾乃はドアの前で一礼し、書斎を出る。右手に浩平が文字を記した用紙を携えて。
自身の寝室へと入った綾乃は椅子へ腰掛け、再び用紙の文字へ目を通す。
文字を目で追うとともに、綾乃の表情は引き締まる。
「声が掛からなければ……」
そう呟いた綾乃は小さく頷く。
用紙の最下段にはこう記されていた。
高校卒業までにプロクラブから声が掛からなければ、グループ企業へ入り、経験を積むこと。
「勿論です…!」
再び小さく頷くと立ち上がり、窓から空を眺め、天に何かを誓うように口を動かす。
「絶対、なってみせます」
そう誓うような口の動きだった。
数日後。
登校した綾乃はクラスメイトの女子生徒と進路について話す。
「綾乃ちゃんってどこの高校に行くの?やっぱり、吉体大附属?」
そう尋ねたのは女子サッカー部に所属していた女子生徒。綾乃は「いえ」と前置きし、こうこたえる。
「山取東高校を受験しようと思っています」
綾乃の答えを聞き、女子生徒は驚いた表情を浮かべる。
「山東(山取東高校の略称)!?」
「はい。お父様から山取東高校の受験を勧めていただいて」
「まあ、サッカーコースがあるけどさ」
「それも理由かと思われますけど、一番の理由は……」
綾乃は浩平が山取東高校の受験を勧めた理由を話す。それを聞き、女子生徒は納得した表情を見せる。
「なるほどね。勢いあるもんね。今年の秋は県ベストエイトだったらしいし」
「『一番全国に近い』お父様がそう仰っておりましたので」
しばらくサッカーの話で盛り上がる二人。
その中で。
「綾乃ちゃん、お父さんが会社を経営してるんだよね?将来は綾乃ちゃんが継ぐの?」
女子生徒の問いに、綾乃は口元を緩める。そして、数日前の出来事を話す。
すると。
「凄い挑戦だね……」
驚く女子生徒。
綾乃は真剣な表情で小さく頷く。並々ならぬ覚悟が窺える表情が女子生徒の目に映る。
「夢でしたから…!挑戦しないと絶対後悔しますから……!」
力強く話した綾乃は自身に気合を入れるように右手で握り拳を作る。
そして、こう続ける。
「絶対に掴み取ってみせます……!」
女子生徒にしか見えない光が綾乃を包む。その光は数年後、どのような輝きを放つのだろう。
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