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第3章

ノゾミ・ぜーリス(EX)

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 それは、おれが「蒼空ブルーの聖玉の守護者」として「神殿入り」してから、3年が経とうとしていたころだった。
 長い間「所在不明」だった、「慈愛の聖女」が見つかったのだ。

 慈愛の聖女。
 5人の聖女のうち光の属性に位置し、「五聖玉」のかなめとなる存在だ。

 見つかった「慈愛の聖女」は、おれの先祖と同じく「異世界から召喚された」という、「のんきそうな顔」をした背の高い女だった。

 おれがしる先代の「慈愛の聖女」は、そのころには左軍将として一軍を指揮する「国一番の武人」であり、視線で人が殺せるとも噂されるほどの人物だった。

 だから意外だった。

「ノゾミくんっていうの? よろしくねー。あたし、キョウカ・サクラマチです」

 自己紹介されたこともだが、

「身体は大きいけど、なんにもわかんないから、いろいろ教えてくれると嬉しいな。あっ、失敗しても、あんまり怒らないでね? この人よくわかってないんだなーって、軽い気持ちでお願いします」

 そういって頭を下げたことがだ。

 聖女が頭を下げる?
 神域の存在であり、地界の国王の上位に位置する聖女が、おれを頭を下げた。

 平民階級のおれにしてみればありえないことで、思わず、聖女の側に控えていた大神官さまに視線を向けてしまった。

(これは、どう理解すればよいのですか)

 そういう意味を込めた視線だった。

 しかし大神官さまは、曖昧な顔でうなずいただけ。
 たぶん、大神官さまにも、異世界から召喚されて日の浅い聖女のことは理解できていなかったのだろう。

 だけど、あれから20年近くが経過した今なら、おれもにもわかる。
 あのころのキョウカ様は、「なにも考えていなかった」と。

 ただの自然体で、「なにか理由があってそう」ではなかったんだと。


     ◇


「やばいよノゾミくんっ!」

 大きな木々に光が遮られた森の中。
 巨木の陰から飛び出した9歳の少女に、おれは辺りを警戒しながら視線をむける。

「マジでやばいんだってっ!」

 語彙力。「やばい」とか「マジで」とか、そういう言葉は使わないように何度いえばわかるんだろう。

 いや、何度いおうが理解しないのだ、こいつは。

「なにがヤバイんだ、ハツネ。わかるようにいえ」

「あっちにやばいのがいるっ!」

 森の奥を指差し、また「やばい」だ。
 だから、おれにわかるように……ま、いいか。

 こいつの名前は、ハツネ・ライヴァ。
 雰囲気は年相応にこどもっぽいが、すでに美人へと育つことが確約されているような整った顔をしている。

 母親に似た雰囲気もあるが、どちらかといえば父親似だ。
 むしろ、超絶的な美形の父親に似たのだから、ハツネは美少女なのだろう。

 とはいえ美形具合でいえば、父親に敵わないのが悲しいところだが。
 ハツネが1万人にひとりの美形だとすると、彼女の父親は1億人にひとりの美形だからな。

 かつて「慈愛の聖女」だったキョウカ様。
 彼女は現在、ハツネの母であり、ただの主婦だ。

 まぁ、キョウカ様は「最上級の神術師」だから「ただの主婦」ではないだろうが、自分ではそう思っているらしい。

 そして、その「元慈愛の聖女」の娘であるハツネは、「勇者の魂」を持つがゆえに「試練を与えれた存在」であり、おれ……ノゾミ・ゼーリスが「宿命によって守護すべき存在」でもある。

「どのくらいヤバイんだ?」

 おれの確認に、

「えっとね、ヤバイ度8くらい」

 ヤバイ度8? 黒死龍ニールが「ヤバイ度10」だったから、8は結構ヤバイな。

 って……あぁっ!

 おれもヤバイって言葉使ってる。

「そのヤバイ度8のやつは、おれとおまえで倒せそうなのか?」

「うんとね、ムリっ!」

 なぜ笑顔なんだ、おまえ。「ヤバイ度8」がいるんだろうが。

「じゃあ、どうする。レンファとリョウマを呼びに行くか」

「リョウマはいらない、やくにたたないから」

 そうか? おまえの母と同じ世界から来たリョウマは、おまえと同じく「勇者の魂」を持っているし、本気を出せばおれより強いぞ?

 あぁ……でも、本気出さないか、あいつ。

「わかった。とりえず街に戻るぞ、ルノウにしらせる必要がある。それにレンファと、ついでにリョウマも含めて対策を練らないといけないだろう」

 その提案に、ハツネはおれの手を握ると、

「転移。ハニーモの街の転移門っ!」

 魔術構成の時間すら感じさせずに、高位魔術の「転移」を発動させた。
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