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第三部 異世界建築士と思い出の家
第291話:守るために生きる
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昼食を済ませたあと、俺はマレットさんに現場をお願いして、瀧井さんの家に向かった。例のものを返すためだ。本当は朝、瀧井さんの家に寄って返してから現場に行くつもりだったんだが、……うん、結局、明け方まで張り切り過ぎた結果です申し訳ありませんなどとは、口が裂けても言えない。
ジルンディール親方に、リトリィを嫁にもらう正式な挨拶をしに行ったと三人で報告すると、瀧井さん夫妻は、大いに祝福してくれた。特にペリシャさんは、もともとリトリィのことを気にかけてくださっていたこともあって、とても喜んでくれた。
加えて、もともとお二人と親交のあるマレットさんの娘ということで、マイセルにも祝福の言葉を掛けてくれた。以前、俺がマイセルと親しくなったと聞いたとき、ペリシャさんは烈火のごとく怒ったものだから、俺自身は叱責されることを覚悟していたのだが。
「マイセル。あなたは本当に、ムラタさんのお嫁さんになることに納得しているのですね?」
「はい! 私のことを大工の一員として認めてくださったムラタさんに、恩返しをしたいんです!」
一瞬の迷いもなく言い切ったマイセルに、ペリシャさんはわずかに苦笑いを浮かべたけれど、その手を握ると、力強く言った。
「きっと苦労すると思いますけれど、リトリィさんと二人で、末永く、仲良くね?」
「はい! お姉さまと一緒に、頑張ります!」
リトリィやマイセルが、ペリシャさんとのお茶で話がはずんでいる間に、俺は、本来の用事を果たすために、瀧井さんにそれを渡す。
九九式小銃――旧日本軍が主力として使っていたという、鉄砲。
それを俺から渡された瀧井さんは、大変驚いていた。
「また、わしの手元に戻ってくるとは思わなかったな……」
「すみません、ほんとうなら朝、こちらに寄ってお返ししてから、現場に向かうつもりだったのですが」
「なに、気にしなくていい。わしはもう隠居の身、働く君の用事の方が優先されてしかるべきだ」
少し、出ようか――瀧井さんに促され、俺は彼の後に続いた。リトリィたちも俺たちの様子を見て、慌ててお茶を切り上げてついてくる。戻ってくるからお茶をしていていいよ、と言ったのだが、二人とも結局、ついて来てしまった。
瀧井さんについてしばらく歩くと、川に出た。川岸はレンガで固められ、水がゆったりと流れている。
瀧井さんは、川べりに設置されていたベンチに腰かけた。その隣に、俺も座る。リトリィたちにも座るよう促したが、彼女たちはベンチの後ろに控えるようにして、座ろうとしなかった。
瀧井さんは、袋から取り出したその銃を、懐かしそうに撫でまわした。
「村田さんや、分かるかい? この負革の状態が」
瀧井さんは、鉄砲の下の部分に垂れ下がる、革ベルトを撫でながら言った。
鉄砲を背負うために付けられているのだろう、鉄砲の尖端と、肩に当てる木の部分あたりを繋ぐ革のベルト。それは、多少硬そうに見えるが、こげ茶色で、まあシックな感じの、普通のベルトといった感じだ。そう言うと、瀧井さんは大きくうなずいた。
「そうとも。普通の革ベルトだ。五十年経った今もだ。……分かるかい? 五十年も放置すれば、革はボロボロになってしまうはずなのに」
「……ええと、それはつまり、メイドインジャパンはすごいってことですか?」
俺の言葉に、瀧井さんは少しがっかりした様子だった。
「……革は、お手入れをしないと乾燥して、ボロボロになってしまうんです。それなのに、ちゃんとしなやかさを保っているんですよ?」
リトリィが、そっと耳打ちをする。ただ、翻訳首輪の効果で、その声の意味は、近くのひとには伝わってしまうのだ。案の定、瀧井さんが、苦笑いしながらうなずいた。
「お嬢さんの言うとおりだ。これはな、この銃を、こまめに、丁寧に、手入れをしてくれていた人がいた、ということなのだよ。銃のことは知らずとも、錆びぬように油を差し、磨き、革に油をすり込んでな……。
適当に処分しておいてくれと言ったのに、ジルアンの奴は、ずっと手入れをしてくれていたのだろう」
いずれ返す時のためにだろうな――瀧井さんはそう言って、鉄砲の木の部分を右の肩に当てた。
鉄砲から横に突き出している、丸い球のようなものが付いたレバーのようなものを右手で掴むと、上に起こす。そのまま、レバーを掴んだ右手を手前に引き寄せる。
ガチン――カシャガシャン。
次に、また右手を前進させ、レバーを右に倒す。
ガシャ――ガチャ。
最後に、右手を持ちかえてトリガーを引く。
パチン。
一連の動作を数回させて、瀧井さんは感慨深げにつぶやいた。
「なにもかも、あのときのままだ。ジルアンには、感謝しかないな」
そして、小箱を開けて、また、感慨深げにため息をついた。
親父殿から渡されたときに見たが、中には鈍い真鍮色の弾が、尾部を細長いレールにはめ込まれるように五個、並んでいる。それがいくつか、積み重ねられていた。
「五十年――五十年越しの実包は、果たして使えるのだろうかね?」
瀧井さんは、その弾の塊をひとつ取り出すと、鉄砲のレバーを操作してふたを開けた。その穴に、縦に押し付けるようにはめ込むと、五つの弾の一番上から、親指でぐっと押し込んでいく。五十年越しとはいえ、手慣れた様子だ。
最後に残ったレールを取り外し、ガシャ、ガチャッとレバーを押し戻す。
「もう二度と手にすることのないものだと思っていたが……九九式のこの手触りは、いい意味でも悪い意味でも、小銃を抱えて戦友たちと支那大陸を駆け回っていた、あの頃のことを思い出させてくれる……」
俺は鉄砲のことなど分からないが、瀧井さんがベンチに座ったまま、背筋を伸ばして真っ直ぐに鉄砲を構える姿には、ある種の荘厳さを感じた。
彼は、その銃とともに、中国大陸で戦ってきたのだ。
初めて瀧井さんと会ったとき、俺は、彼を人殺しと非難した。今考えると、本当に自分の視野の狭さ、愚かさを感じる。
いったい誰が、人殺しをしたくて、戦場に身を置くというのだ。
リトリィを奪還するためについて行ったあの戦いの場で、俺は、もう少しで死ぬという目に何度も遭った。俺が死ななかったのは、たまたまそばにいてくれた冒険者たちのおかげだ。
だが、彼らだって、別に人殺しをしたくてあの戦いに出向いたわけではないだろう。義憤のため、得られる報酬のため、生き残って名を挙げるため……。決して、血に酔った殺人鬼だったわけではないはずだ。
そして瀧井さんは、日本を守るために戦っていた。
そしてこの世界でも、その鉄砲を使って野盗の集団から村を――ペリシャさんを守るために戦ったのだ。
俺なんかよりも、はるかに強い意志で。
「……あの、ムラタさん。あちらでお水が売っているようですから、買ってきますね?」
リトリィが、そっと話しかけてくる。マイセルもうなずきながら。
なるほど、マイセルが飲みたがっているのか。苦笑した俺は、人数分を買ってきてくれるよう頼む。
リトリィは、マイセルと連れ立って、屋台のほうに駆け足で向かって行った。マイセルの方はスキップするように若干飛び跳ねている感じが、なんとも妹っぽくて可愛らしい。
「……村田さんや。覚悟はできたんだな、二人の人生を背負うことを」
「ええ。こんな俺みたいな奴を好きだと言ってくれた二人です。意地でも背負ってみせますよ」
「なんだ、相変わらず自信があるのかないのか、分からないことを」
日本語で話しかけてきた瀧井さんに、俺も、あえて翻訳首輪を外して答える。
俺は、鉄砲を親父殿に託されてからずっと聞いてみたかったことを、口にした。
「……もし、ですよ?」
俺はリトリィ奪還作戦に参加しても、結局のところ、まともに戦うことなんてできなかった。震えてばかりで、何もできなかった。ガルフと対峙した時だって、ずっと膝が笑っていた。
「もし、また何か戦わなければならないようなことがあったら――瀧井さんはその鉄砲で、戦いますか?」
瀧井さんは、驚いたような顔をして振り向き、そして、しばらく俺を見つめていた。
「なぜそんなことを聞く?」
「……この前の戦いで、俺は結局走り回っていただけで、何の力にもなれませんでした。なのに凱旋式じゃ、あんなところに立たされて……。何もしていないのに」
俺の言葉に、瀧井さんはしばらく黙っていたが、鉄砲のレバーに手をかけると、それを手前に引いた。
ガシャッ――弾が一つ、転がり出てくる。
「戦うというのは、己の身を、己の仲間を、家族を、守るということだ。わしはそうせねばならぬときがきたら、もちろん戦う。アレを守るためなら、当然のことだ」
アレとは当然、ペリシャさんのことだろう。
「五十年も前の弾だ、不発ばかりかもしれん。だが、どれかの一発がアレを守ることにつながるなら、わしはためらわん。お前さんも、お嬢さん二人を背負う覚悟を決めたのだろう? わしと同じ土俵に立つ気構えを持ったということだ」
「い、いやそんな、俺はそこまで――」
「家族を守る覚悟ができたなら、同じだ。やがてはお嬢さんたちも、お前さんの子供を産むだろう。守るものが増えたら、四の五の言ってはおれんのだ」
そう言って肩を叩く。
「なに、戦場に行って、生きて帰って来た。それだけで十分だ。これからは胸を張って、家族を守るために生きろ。嫁と子供のことを考えれば、死んでなぞおれん」
そう言って、瀧井さんは小さく笑うと、無言で、鉄砲のレバーをゆっくりとガシャガシャやりはじめた。
彼がレバーを動かすたびに、弾が一つずつ、排出されてくる。
一つ……二つ。三つ目までを取り出したときだった。
「おまたせしました、お水を――」
リトリィが、マイセルと戻って来た。
そして、そのときだった。
「おい、城内街でケダモノのニオイをまき散らすんじゃねぇよ、くッせぇな」
ジルンディール親方に、リトリィを嫁にもらう正式な挨拶をしに行ったと三人で報告すると、瀧井さん夫妻は、大いに祝福してくれた。特にペリシャさんは、もともとリトリィのことを気にかけてくださっていたこともあって、とても喜んでくれた。
加えて、もともとお二人と親交のあるマレットさんの娘ということで、マイセルにも祝福の言葉を掛けてくれた。以前、俺がマイセルと親しくなったと聞いたとき、ペリシャさんは烈火のごとく怒ったものだから、俺自身は叱責されることを覚悟していたのだが。
「マイセル。あなたは本当に、ムラタさんのお嫁さんになることに納得しているのですね?」
「はい! 私のことを大工の一員として認めてくださったムラタさんに、恩返しをしたいんです!」
一瞬の迷いもなく言い切ったマイセルに、ペリシャさんはわずかに苦笑いを浮かべたけれど、その手を握ると、力強く言った。
「きっと苦労すると思いますけれど、リトリィさんと二人で、末永く、仲良くね?」
「はい! お姉さまと一緒に、頑張ります!」
リトリィやマイセルが、ペリシャさんとのお茶で話がはずんでいる間に、俺は、本来の用事を果たすために、瀧井さんにそれを渡す。
九九式小銃――旧日本軍が主力として使っていたという、鉄砲。
それを俺から渡された瀧井さんは、大変驚いていた。
「また、わしの手元に戻ってくるとは思わなかったな……」
「すみません、ほんとうなら朝、こちらに寄ってお返ししてから、現場に向かうつもりだったのですが」
「なに、気にしなくていい。わしはもう隠居の身、働く君の用事の方が優先されてしかるべきだ」
少し、出ようか――瀧井さんに促され、俺は彼の後に続いた。リトリィたちも俺たちの様子を見て、慌ててお茶を切り上げてついてくる。戻ってくるからお茶をしていていいよ、と言ったのだが、二人とも結局、ついて来てしまった。
瀧井さんについてしばらく歩くと、川に出た。川岸はレンガで固められ、水がゆったりと流れている。
瀧井さんは、川べりに設置されていたベンチに腰かけた。その隣に、俺も座る。リトリィたちにも座るよう促したが、彼女たちはベンチの後ろに控えるようにして、座ろうとしなかった。
瀧井さんは、袋から取り出したその銃を、懐かしそうに撫でまわした。
「村田さんや、分かるかい? この負革の状態が」
瀧井さんは、鉄砲の下の部分に垂れ下がる、革ベルトを撫でながら言った。
鉄砲を背負うために付けられているのだろう、鉄砲の尖端と、肩に当てる木の部分あたりを繋ぐ革のベルト。それは、多少硬そうに見えるが、こげ茶色で、まあシックな感じの、普通のベルトといった感じだ。そう言うと、瀧井さんは大きくうなずいた。
「そうとも。普通の革ベルトだ。五十年経った今もだ。……分かるかい? 五十年も放置すれば、革はボロボロになってしまうはずなのに」
「……ええと、それはつまり、メイドインジャパンはすごいってことですか?」
俺の言葉に、瀧井さんは少しがっかりした様子だった。
「……革は、お手入れをしないと乾燥して、ボロボロになってしまうんです。それなのに、ちゃんとしなやかさを保っているんですよ?」
リトリィが、そっと耳打ちをする。ただ、翻訳首輪の効果で、その声の意味は、近くのひとには伝わってしまうのだ。案の定、瀧井さんが、苦笑いしながらうなずいた。
「お嬢さんの言うとおりだ。これはな、この銃を、こまめに、丁寧に、手入れをしてくれていた人がいた、ということなのだよ。銃のことは知らずとも、錆びぬように油を差し、磨き、革に油をすり込んでな……。
適当に処分しておいてくれと言ったのに、ジルアンの奴は、ずっと手入れをしてくれていたのだろう」
いずれ返す時のためにだろうな――瀧井さんはそう言って、鉄砲の木の部分を右の肩に当てた。
鉄砲から横に突き出している、丸い球のようなものが付いたレバーのようなものを右手で掴むと、上に起こす。そのまま、レバーを掴んだ右手を手前に引き寄せる。
ガチン――カシャガシャン。
次に、また右手を前進させ、レバーを右に倒す。
ガシャ――ガチャ。
最後に、右手を持ちかえてトリガーを引く。
パチン。
一連の動作を数回させて、瀧井さんは感慨深げにつぶやいた。
「なにもかも、あのときのままだ。ジルアンには、感謝しかないな」
そして、小箱を開けて、また、感慨深げにため息をついた。
親父殿から渡されたときに見たが、中には鈍い真鍮色の弾が、尾部を細長いレールにはめ込まれるように五個、並んでいる。それがいくつか、積み重ねられていた。
「五十年――五十年越しの実包は、果たして使えるのだろうかね?」
瀧井さんは、その弾の塊をひとつ取り出すと、鉄砲のレバーを操作してふたを開けた。その穴に、縦に押し付けるようにはめ込むと、五つの弾の一番上から、親指でぐっと押し込んでいく。五十年越しとはいえ、手慣れた様子だ。
最後に残ったレールを取り外し、ガシャ、ガチャッとレバーを押し戻す。
「もう二度と手にすることのないものだと思っていたが……九九式のこの手触りは、いい意味でも悪い意味でも、小銃を抱えて戦友たちと支那大陸を駆け回っていた、あの頃のことを思い出させてくれる……」
俺は鉄砲のことなど分からないが、瀧井さんがベンチに座ったまま、背筋を伸ばして真っ直ぐに鉄砲を構える姿には、ある種の荘厳さを感じた。
彼は、その銃とともに、中国大陸で戦ってきたのだ。
初めて瀧井さんと会ったとき、俺は、彼を人殺しと非難した。今考えると、本当に自分の視野の狭さ、愚かさを感じる。
いったい誰が、人殺しをしたくて、戦場に身を置くというのだ。
リトリィを奪還するためについて行ったあの戦いの場で、俺は、もう少しで死ぬという目に何度も遭った。俺が死ななかったのは、たまたまそばにいてくれた冒険者たちのおかげだ。
だが、彼らだって、別に人殺しをしたくてあの戦いに出向いたわけではないだろう。義憤のため、得られる報酬のため、生き残って名を挙げるため……。決して、血に酔った殺人鬼だったわけではないはずだ。
そして瀧井さんは、日本を守るために戦っていた。
そしてこの世界でも、その鉄砲を使って野盗の集団から村を――ペリシャさんを守るために戦ったのだ。
俺なんかよりも、はるかに強い意志で。
「……あの、ムラタさん。あちらでお水が売っているようですから、買ってきますね?」
リトリィが、そっと話しかけてくる。マイセルもうなずきながら。
なるほど、マイセルが飲みたがっているのか。苦笑した俺は、人数分を買ってきてくれるよう頼む。
リトリィは、マイセルと連れ立って、屋台のほうに駆け足で向かって行った。マイセルの方はスキップするように若干飛び跳ねている感じが、なんとも妹っぽくて可愛らしい。
「……村田さんや。覚悟はできたんだな、二人の人生を背負うことを」
「ええ。こんな俺みたいな奴を好きだと言ってくれた二人です。意地でも背負ってみせますよ」
「なんだ、相変わらず自信があるのかないのか、分からないことを」
日本語で話しかけてきた瀧井さんに、俺も、あえて翻訳首輪を外して答える。
俺は、鉄砲を親父殿に託されてからずっと聞いてみたかったことを、口にした。
「……もし、ですよ?」
俺はリトリィ奪還作戦に参加しても、結局のところ、まともに戦うことなんてできなかった。震えてばかりで、何もできなかった。ガルフと対峙した時だって、ずっと膝が笑っていた。
「もし、また何か戦わなければならないようなことがあったら――瀧井さんはその鉄砲で、戦いますか?」
瀧井さんは、驚いたような顔をして振り向き、そして、しばらく俺を見つめていた。
「なぜそんなことを聞く?」
「……この前の戦いで、俺は結局走り回っていただけで、何の力にもなれませんでした。なのに凱旋式じゃ、あんなところに立たされて……。何もしていないのに」
俺の言葉に、瀧井さんはしばらく黙っていたが、鉄砲のレバーに手をかけると、それを手前に引いた。
ガシャッ――弾が一つ、転がり出てくる。
「戦うというのは、己の身を、己の仲間を、家族を、守るということだ。わしはそうせねばならぬときがきたら、もちろん戦う。アレを守るためなら、当然のことだ」
アレとは当然、ペリシャさんのことだろう。
「五十年も前の弾だ、不発ばかりかもしれん。だが、どれかの一発がアレを守ることにつながるなら、わしはためらわん。お前さんも、お嬢さん二人を背負う覚悟を決めたのだろう? わしと同じ土俵に立つ気構えを持ったということだ」
「い、いやそんな、俺はそこまで――」
「家族を守る覚悟ができたなら、同じだ。やがてはお嬢さんたちも、お前さんの子供を産むだろう。守るものが増えたら、四の五の言ってはおれんのだ」
そう言って肩を叩く。
「なに、戦場に行って、生きて帰って来た。それだけで十分だ。これからは胸を張って、家族を守るために生きろ。嫁と子供のことを考えれば、死んでなぞおれん」
そう言って、瀧井さんは小さく笑うと、無言で、鉄砲のレバーをゆっくりとガシャガシャやりはじめた。
彼がレバーを動かすたびに、弾が一つずつ、排出されてくる。
一つ……二つ。三つ目までを取り出したときだった。
「おまたせしました、お水を――」
リトリィが、マイセルと戻って来た。
そして、そのときだった。
「おい、城内街でケダモノのニオイをまき散らすんじゃねぇよ、くッせぇな」
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