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第三部 異世界建築士と思い出の家
第273話:りあるばうと☆ガロウ伝説
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「シマカ? 知らん、見たことも聞いたこともない」
担いでいた男を放り出した糞狼――ガフル改めガロウが、呆れたように言った。途端に大声でわめき出したシマカ。
そんなシマカを半目で見ながら、小声で俺に言う。
「それより、なんでクソオスがここにいる。大工だろう、クソオスは。それにレンガ割りまで。お前ら、冒険者になるつもりか?」
俺の隣で、物静かに控えているリトリィの方を見て、さらに嫌そうな顔をする。レンガ割りって、まさかリトリィのことか?
「人の妻になる美しい女性に、珍妙なあだ名をつけるな糞狼。……本人は、幹部候補になりそうだったって言ってるぞ?」
「レンガ割りは事実だろ。それから、俺はそんなヤツなど知らん。俺はあくまでも雇われていただけだ。見たことのない下っ端まで知るわけないだろう」
「使えない奴だな糞狼」
「カスを一匹捕まえただけで、でかい口を叩くなクソオス。知らんモノは知らん」
結局、ガロウは支給されるはずの報奨金にも、興味なさそうに帰ろうとする。
彼のことを知らないと言ったガロウに対して、あらん限りの悪態をつき、ぜえぜえと荒い息を吐いていたシマカ。
奴は、眼鏡の事務の女の子に頭を蹴飛ばされたあと、奥の部屋に引きずられていった。
ガロウが担いできた簀巻き男と一緒に。
……この世界の女の子、本当にタフだな!?
「クソオスが受け取れ。そこのメスを食わせるためにもな。オレは、冒険者ギルドの金などいらん」
ふむ。糞狼には糞狼なりのプライドがあるようだ。そう言えばガルフは、傭兵ギルドかなにかに所属していたんだっけ?
……いいことを思いついたぞ?
「まあ待てガロウ。金はあって困るもんじゃない。ガロウだって、屋台で飯を食う時もあるだろう?」
「オレはこんなところに世話になるつもりはない。それよりクソオス、オレをガロウと――」
「お前、ガロウっていうのか?」
ギルド長が、ガロウの手を掴む。
「なかなかの腕っぷしじゃねえか。うちのギルドの二人とやりあったときの報告は、聞いてるぞ?」
奥に座る、眼鏡の男と赤髪の女が、席を立つ。ガロウは顔をしかめた。
「……だから何だ」
険悪なムードになりかけたのを感じ、俺はとっさにギルド長との間に割って入る。
「ガロウはあのとき、たまたま見つけたリトリィ――そこにいる俺の妻、に、なる予定の、原初の犬属人の女性に一目ぼれしたようなんだ。それで俺が横取りしに来たと、ガロウは勘違いしたらしい。ただの行き違いだったみたいだ」
ガロウもギルド長も、大口を開けて俺を見る。
「お、おいクソオス! オレは――」
「行き違い? ただの、女の取り合いだったってのか? 報告では、アムもヴェフもなかなか苦戦したそうだが」
苦戦どころか圧倒されていたぞ。まあいいや。
「ああ。結局、なんだかんだで誤解も解けて、ガロウは引き下がったんだ。行き違いはあったけど、奴隷商人の頭領って奴も俺たちが着く前に倒していたし、聞いた話だと残党狩りもしていたんだろう? このガロウって奴は、なかなかすごい奴なんだよ」
俺の言葉に、リトリィもうなずく。
だがガロウは、ものすごく嫌そうな表情を浮かべた。名前を連呼されるのも嫌そうだったが、まさか、俺が褒めるとも思っていなかったようだ。
「……少ぅしだけ、納得がいかないねェ?」
アムティが、不敵な笑みを浮かべながら口を挟む。
「アタシら、そうすると、アンタらの痴話ゲンカに巻き込まれただけ、って話になっちまうじゃないか」
「言葉にすると俺もものすごく嫌なんだが、事実を並べるとそうなるから仕方が無い。とにかく、ガロウには冒険者ギルドと事を構える気はなかったってことだ。なあ、ガロウ?」
話を振られたガロウは、しばらく挙動不審なさまを見せていた。が、目をそらしながら「……そうだ」と、一言だけ、返す。
「アタシもねェ、仕事の上でぶつかった相手を、いつまでも恨む気はないんだよォ? ただねェ、ポープは、アンタの片割れに殺られてんのさァ。それをチャラにする気は、無いんだよねェ……?」
ポープ――会ったこともないが、遠耳の魔装具をつけていたインテレークの兄貴分であり相棒だった男――ポパゥトとかいう奴だったか。
それにしても、危なかった。人間の姿のガルフで来ていたら、もっと多くの、恨みを持つ人間に絡まれていただろう。
「……オレは逃げも隠れもしない。やるなら相手になるぞ」
あああ! せっかく他人の振りをしてやり過ごすチャンスだってのに、この馬鹿狼は!
お前、何のために狼男の姿でうろついてるんだよ! 人間の姿だとガルフと認識されて面倒くさいから、じゃないのかよ!
「ガロウ、腕を見せつけたいっていうならやめておいた方がいいぞ。このアムティって女は、強い」
「……おいクソオス。お前、頭が無いのか? それとも、都合の悪いことはすぐに忘れるおめでたい頭なのか?」
「先手は取らせてやる、だってェ? 甘く見られたモンだねェ……?」
アムティが、腰を落とし、短剣を構える。
「手加減はしないよォ……? 腕の一本は、覚悟しとくんだねェ……!」
「とっとと来い」
ギルドの館の敷地内――中庭で、大勢のギャラリーが固唾を飲んで見守る中、二人がにらみ合う。
短剣を構えるアムティに対して、ガロウは素手のままだ。
左半身を引き、やや右半身を前に向け、そして右腕を曲げた状態で突き出す構えをしてみせる。
「お前が地面に倒れるか、オレがかすり傷の一つでも負ったら、この遊びは終わりだ」
「……言ったねェ!?」
瞬間、地を蹴ったアムティが恐ろしい勢いで踏み込む!
短剣を真っ直ぐ突き出すかと思いきや、身を沈め軸をずらし、正面ではなく斜め下から滑り出すように短剣を伸ばし――!
アムティは、宙を、舞っていた。
そのまま、地面に投げ出される。
「……は? え?」
かろうじて受け身をとったらしいアムティは、何が起こったのか、納得し難いという様子。
俺も、全く分からなかった。
ガロウは、その場から、一歩も動いていなかった。
強いて言うなら、いつの間にか背後に飛んでいっていたアムティの方に、これまたいつの間にか向き直っている、というだけ。
ゆるりと下りてゆく、太い枯れ草色の尻尾が、彼の動きの余韻を物語る。
「終わったぞ」
大して興味もなさそうに言い放つ。
やや遅れて、ギャラリーのどよめきが起こった。
そりゃそうだろう、どう受け止めるか、かわすかだと思ったら、なぜかアムティのほうが投げ飛ばされていた、だなんて。
ガロウは、改めてアムティに向けて、肘を曲げ右の指をすべて天に向けるような、中途半端な挙手をするような体制をとる。
膝を曲げ腰を落とし、尻尾で地面を打ち鳴らして、まるで武道の達人のように。
「まだやるのか?」
静かなガロウの問いに、アムティは答えなかった。
彼女はもう一度短剣を構えると、再び地面を蹴る!
一気に距離を詰めたかと思ったら、ガロウの間合いの手前で大地を蹴り、一気に跳躍する!
ガロウは直前まで、微動だにしなかった。
しかし、今度はわかった。
わずかに左足を下げ、飛び込んでくるアムティの腕を掴むと、そのまま軽く背負うような仕草を見せ、背後に放り投げてみせたのだ!
いわゆるカウンターなどではない。
ナイフを持った方の腕を掴んで、そのまま投げる!
何という動体視力!
投げたあとで向き直るために動かすまで、足元はほぼ、動いていないというのに!
今度はどよめきではなかった。快哉の歓声だ。純粋に、強者を称える称賛の声。
ガロウは、やはり強いのだ!
ただの腕力だけでも、脚力だけでもなく。
もう一度、アムティは挑んでみせたが、結果はほぼ変わらなかった。
強いて言うなら、投げ飛ばされるのではなく、今度こそ、地面に叩きつけられたというくらいで。
その後、冒険者たちが二十人くらい挑んでみせたが、全て、あの不思議な投げ技で投げ飛ばされた。
ガロウ自身は、全く土をつけることなく。
「これは、認めざるを得ないな。なんだあの強さは。ヤツに誰も触れねえとは」
ギルド長が、ため息を漏らす。
「かわすでも、受け止めるでも、殴り返すでもねえ。そうだな、当て身を受け流して投げる……獣人族の目の良さを活かしたさばき方だな」
最後にヴェフタールを投げ飛ばしたガロウに近づくと、ギルド長は高らかに宣言した。
「やろうと思えば骨の二本や三本、へし折ることだってできたはずなのに、このガロウってヤツは大した野郎だ! これだけの数を相手にしながら、誰も傷つけずにすべて倒しやがった!
お前ら、同じことができるか!」
しん、となった中庭に、次の瞬間、歓声が弾ける。どれもが、ガロウの偉業を称賛する叫び。
ガロウはというと、落ち着かなさげにキョロキョロとしている。
「今日は、二十人がかりでもホコリ一つつけられなかった、とんでもねぇ伝説を作ったガロウの歓迎会だ! 一刻だけくれてやる、好きなだけ飲め!」
さらなる怒号が爆発する。
「お、おい! クソオス、オレは冒険者ギルドに入るなんて……」
「みんな歓迎してるだろ。いいじゃないか」
「いいわけあるか。オレは……」
なんだかひどくうろたえるガロウに、俺はなんだかおかしみを感じて、その肩を叩いた。
「お前はガロウ。二十人を五十回以上投げた、“リアルバウト”な伝説を今、作った男。それでいいだろ」
「り、“りあるばうと”……?」
「真の漢の真剣勝負、って意味だよ」
「真の漢の真剣勝負……」
りあるばうと、りあるばうと……ガロウが、何やら何度も、怪しい発音で復唱する。
口元がわずかに歪み、上がっているのは、俺の見間違いではないだろう。
「今日は『リアルバウト☆ガロウ伝説』の誕生の日、それでいいんだよ」
「りあるばうと☆ガロウ伝説……!」
担いでいた男を放り出した糞狼――ガフル改めガロウが、呆れたように言った。途端に大声でわめき出したシマカ。
そんなシマカを半目で見ながら、小声で俺に言う。
「それより、なんでクソオスがここにいる。大工だろう、クソオスは。それにレンガ割りまで。お前ら、冒険者になるつもりか?」
俺の隣で、物静かに控えているリトリィの方を見て、さらに嫌そうな顔をする。レンガ割りって、まさかリトリィのことか?
「人の妻になる美しい女性に、珍妙なあだ名をつけるな糞狼。……本人は、幹部候補になりそうだったって言ってるぞ?」
「レンガ割りは事実だろ。それから、俺はそんなヤツなど知らん。俺はあくまでも雇われていただけだ。見たことのない下っ端まで知るわけないだろう」
「使えない奴だな糞狼」
「カスを一匹捕まえただけで、でかい口を叩くなクソオス。知らんモノは知らん」
結局、ガロウは支給されるはずの報奨金にも、興味なさそうに帰ろうとする。
彼のことを知らないと言ったガロウに対して、あらん限りの悪態をつき、ぜえぜえと荒い息を吐いていたシマカ。
奴は、眼鏡の事務の女の子に頭を蹴飛ばされたあと、奥の部屋に引きずられていった。
ガロウが担いできた簀巻き男と一緒に。
……この世界の女の子、本当にタフだな!?
「クソオスが受け取れ。そこのメスを食わせるためにもな。オレは、冒険者ギルドの金などいらん」
ふむ。糞狼には糞狼なりのプライドがあるようだ。そう言えばガルフは、傭兵ギルドかなにかに所属していたんだっけ?
……いいことを思いついたぞ?
「まあ待てガロウ。金はあって困るもんじゃない。ガロウだって、屋台で飯を食う時もあるだろう?」
「オレはこんなところに世話になるつもりはない。それよりクソオス、オレをガロウと――」
「お前、ガロウっていうのか?」
ギルド長が、ガロウの手を掴む。
「なかなかの腕っぷしじゃねえか。うちのギルドの二人とやりあったときの報告は、聞いてるぞ?」
奥に座る、眼鏡の男と赤髪の女が、席を立つ。ガロウは顔をしかめた。
「……だから何だ」
険悪なムードになりかけたのを感じ、俺はとっさにギルド長との間に割って入る。
「ガロウはあのとき、たまたま見つけたリトリィ――そこにいる俺の妻、に、なる予定の、原初の犬属人の女性に一目ぼれしたようなんだ。それで俺が横取りしに来たと、ガロウは勘違いしたらしい。ただの行き違いだったみたいだ」
ガロウもギルド長も、大口を開けて俺を見る。
「お、おいクソオス! オレは――」
「行き違い? ただの、女の取り合いだったってのか? 報告では、アムもヴェフもなかなか苦戦したそうだが」
苦戦どころか圧倒されていたぞ。まあいいや。
「ああ。結局、なんだかんだで誤解も解けて、ガロウは引き下がったんだ。行き違いはあったけど、奴隷商人の頭領って奴も俺たちが着く前に倒していたし、聞いた話だと残党狩りもしていたんだろう? このガロウって奴は、なかなかすごい奴なんだよ」
俺の言葉に、リトリィもうなずく。
だがガロウは、ものすごく嫌そうな表情を浮かべた。名前を連呼されるのも嫌そうだったが、まさか、俺が褒めるとも思っていなかったようだ。
「……少ぅしだけ、納得がいかないねェ?」
アムティが、不敵な笑みを浮かべながら口を挟む。
「アタシら、そうすると、アンタらの痴話ゲンカに巻き込まれただけ、って話になっちまうじゃないか」
「言葉にすると俺もものすごく嫌なんだが、事実を並べるとそうなるから仕方が無い。とにかく、ガロウには冒険者ギルドと事を構える気はなかったってことだ。なあ、ガロウ?」
話を振られたガロウは、しばらく挙動不審なさまを見せていた。が、目をそらしながら「……そうだ」と、一言だけ、返す。
「アタシもねェ、仕事の上でぶつかった相手を、いつまでも恨む気はないんだよォ? ただねェ、ポープは、アンタの片割れに殺られてんのさァ。それをチャラにする気は、無いんだよねェ……?」
ポープ――会ったこともないが、遠耳の魔装具をつけていたインテレークの兄貴分であり相棒だった男――ポパゥトとかいう奴だったか。
それにしても、危なかった。人間の姿のガルフで来ていたら、もっと多くの、恨みを持つ人間に絡まれていただろう。
「……オレは逃げも隠れもしない。やるなら相手になるぞ」
あああ! せっかく他人の振りをしてやり過ごすチャンスだってのに、この馬鹿狼は!
お前、何のために狼男の姿でうろついてるんだよ! 人間の姿だとガルフと認識されて面倒くさいから、じゃないのかよ!
「ガロウ、腕を見せつけたいっていうならやめておいた方がいいぞ。このアムティって女は、強い」
「……おいクソオス。お前、頭が無いのか? それとも、都合の悪いことはすぐに忘れるおめでたい頭なのか?」
「先手は取らせてやる、だってェ? 甘く見られたモンだねェ……?」
アムティが、腰を落とし、短剣を構える。
「手加減はしないよォ……? 腕の一本は、覚悟しとくんだねェ……!」
「とっとと来い」
ギルドの館の敷地内――中庭で、大勢のギャラリーが固唾を飲んで見守る中、二人がにらみ合う。
短剣を構えるアムティに対して、ガロウは素手のままだ。
左半身を引き、やや右半身を前に向け、そして右腕を曲げた状態で突き出す構えをしてみせる。
「お前が地面に倒れるか、オレがかすり傷の一つでも負ったら、この遊びは終わりだ」
「……言ったねェ!?」
瞬間、地を蹴ったアムティが恐ろしい勢いで踏み込む!
短剣を真っ直ぐ突き出すかと思いきや、身を沈め軸をずらし、正面ではなく斜め下から滑り出すように短剣を伸ばし――!
アムティは、宙を、舞っていた。
そのまま、地面に投げ出される。
「……は? え?」
かろうじて受け身をとったらしいアムティは、何が起こったのか、納得し難いという様子。
俺も、全く分からなかった。
ガロウは、その場から、一歩も動いていなかった。
強いて言うなら、いつの間にか背後に飛んでいっていたアムティの方に、これまたいつの間にか向き直っている、というだけ。
ゆるりと下りてゆく、太い枯れ草色の尻尾が、彼の動きの余韻を物語る。
「終わったぞ」
大して興味もなさそうに言い放つ。
やや遅れて、ギャラリーのどよめきが起こった。
そりゃそうだろう、どう受け止めるか、かわすかだと思ったら、なぜかアムティのほうが投げ飛ばされていた、だなんて。
ガロウは、改めてアムティに向けて、肘を曲げ右の指をすべて天に向けるような、中途半端な挙手をするような体制をとる。
膝を曲げ腰を落とし、尻尾で地面を打ち鳴らして、まるで武道の達人のように。
「まだやるのか?」
静かなガロウの問いに、アムティは答えなかった。
彼女はもう一度短剣を構えると、再び地面を蹴る!
一気に距離を詰めたかと思ったら、ガロウの間合いの手前で大地を蹴り、一気に跳躍する!
ガロウは直前まで、微動だにしなかった。
しかし、今度はわかった。
わずかに左足を下げ、飛び込んでくるアムティの腕を掴むと、そのまま軽く背負うような仕草を見せ、背後に放り投げてみせたのだ!
いわゆるカウンターなどではない。
ナイフを持った方の腕を掴んで、そのまま投げる!
何という動体視力!
投げたあとで向き直るために動かすまで、足元はほぼ、動いていないというのに!
今度はどよめきではなかった。快哉の歓声だ。純粋に、強者を称える称賛の声。
ガロウは、やはり強いのだ!
ただの腕力だけでも、脚力だけでもなく。
もう一度、アムティは挑んでみせたが、結果はほぼ変わらなかった。
強いて言うなら、投げ飛ばされるのではなく、今度こそ、地面に叩きつけられたというくらいで。
その後、冒険者たちが二十人くらい挑んでみせたが、全て、あの不思議な投げ技で投げ飛ばされた。
ガロウ自身は、全く土をつけることなく。
「これは、認めざるを得ないな。なんだあの強さは。ヤツに誰も触れねえとは」
ギルド長が、ため息を漏らす。
「かわすでも、受け止めるでも、殴り返すでもねえ。そうだな、当て身を受け流して投げる……獣人族の目の良さを活かしたさばき方だな」
最後にヴェフタールを投げ飛ばしたガロウに近づくと、ギルド長は高らかに宣言した。
「やろうと思えば骨の二本や三本、へし折ることだってできたはずなのに、このガロウってヤツは大した野郎だ! これだけの数を相手にしながら、誰も傷つけずにすべて倒しやがった!
お前ら、同じことができるか!」
しん、となった中庭に、次の瞬間、歓声が弾ける。どれもが、ガロウの偉業を称賛する叫び。
ガロウはというと、落ち着かなさげにキョロキョロとしている。
「今日は、二十人がかりでもホコリ一つつけられなかった、とんでもねぇ伝説を作ったガロウの歓迎会だ! 一刻だけくれてやる、好きなだけ飲め!」
さらなる怒号が爆発する。
「お、おい! クソオス、オレは冒険者ギルドに入るなんて……」
「みんな歓迎してるだろ。いいじゃないか」
「いいわけあるか。オレは……」
なんだかひどくうろたえるガロウに、俺はなんだかおかしみを感じて、その肩を叩いた。
「お前はガロウ。二十人を五十回以上投げた、“リアルバウト”な伝説を今、作った男。それでいいだろ」
「り、“りあるばうと”……?」
「真の漢の真剣勝負、って意味だよ」
「真の漢の真剣勝負……」
りあるばうと、りあるばうと……ガロウが、何やら何度も、怪しい発音で復唱する。
口元がわずかに歪み、上がっているのは、俺の見間違いではないだろう。
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