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第三部 異世界建築士と思い出の家
第242話:凱旋パレード
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そんなわけで、凱旋パレードに参加しましたよ!
俺にとっては恩人のアムティもヴェフタールも、同席はしなかった。
ギルドを代表する最強の剣士だか戦士だかと一緒に、二階建てオープンカーみたいな馬車の上で手を振る役をやらされることになったのだ。
二列に並ぶ冒険者ギルドの戦士たちに続く、二階建てオープンカー馬車の上。ギルド最強の男「剣王」フリートマンが、実に濃い、無精ひげだらけの野性的なスマイルで手を振ったり腕を振り上げたり。悪を滅ぼした勇者として、冒険者ギルドをアピールする。
よくある紙吹雪とかはないみたいだが、沿道に集まった人々が、こっちに向かって手を振っている。家々の二階や三階の窓からも、だ。お目当ては「剣王」に決まっているけどな。
俺も一緒になって手を振りながら、沿道にずらりと並んでわいわい騒ぐ人々に圧倒されていた。
別に巨悪を倒してきたわけでもないのに、この人出はなんだ?
固まった俺に、フリートマンが遠慮なしに大声で教えてくれた。
「決まっているだろう、娯楽だ娯楽。オレたち冒険者の活躍は、街の住人にとって、数少ない娯楽なんだよ! 何をやったかなんて、彼らにはどうでもいいんだ。何かをやって、お祭り騒ぎ。それでいいんだ」
フリートマンはそう言って、隣に立つ女性の肩を抱き、唇を寄せる。
沿道の女たちから、黄色い声が上がる。そうか、この街のヒーローなんだな、こいつ。そのヒーローに並び立つ俺も、ヒーロー? あ、いや、救出された一般人、という立ち位置か。
そんな俺の隣にはもちろんリトリィ――と言いたいところだが、実はリトリィは、一階部分――馬車の中にいる。
で、さっきから俺とフリートマンの両脇にいるのは、リトリィではなく、見目麗しい、耳だけ動物の女性三人。実に華やかなドレスを身に付けて。
知らないよ、こんな女たち!
しかもファーがたっぷりの髪飾りをごてごてつけてるから、一見すると人間にしか見えないというところがまた、いやらしい。
この女性たちは、俺たちが砦攻略をする前に出た、例の囮の馬車にいた女性たちらしい。確かに、耳以外は、どう見ても人間にしか見えない。つまり「ケモノ好き」な需要を満たせないというわけだ。
これだけ美人なら、普通に売れただろうに。いや、人身売買を推奨する気は微塵もないけどな。
それはともかくだ。どうしてリトリィが俺の隣にいないのか。
理由は実に簡単だった。
『なに? お前の女がいないだと? そんなこと知るか、お前の女の隣に立たされる俺の身にもなってみろ。第一、民衆受けを狙うなら美人がいいに決まっているだろう。なに? あの金色の犬女の方が美人? 馬鹿言え、お前の目は腐ってんのか』
ギルド長に、俺の隣はリトリィと、はっきり言われていたにもかかわらず、だ。
そんなわけで、「ギルド最強剣士」とやらは俺の中では敵と断定。リトリィくらい美しい女性がこの世にそういてたまるか。目が腐ってんのはお前だろ。
ところで、公開処刑という言葉を、皆は知っているか?
「――迫りくるは悪しき刃!
だが、捕らわれの恋人を求める勇者は、神の定めし運命を、ああ、引き裂かんとするその刃を受け止める!
見よ、飛び散る火花は両者を照らし、恋人より贈られた短剣が、おお、神も照覧! 月を映して正義を執行!」
――やめてくれ。俺はガルフにぶちのめされてぶっ倒れてただけだ。恋人から贈られた短剣、しか合ってないぞ。
いわゆる吟遊詩人という奴らしい。
パレードの行列の中ほど、俺たちの馬車の鼻先で、鳥の背中に揺られながら朗々と歌ってるんだけどさ。
ぜんぜん違ってら。
いや、そりゃ報道機関なんてないのは分かるよ?
ニュースっていうより、娯楽が求められてる――つまり国営放送協会の堅苦しいニュースじゃなくて、ワイドショーを人々が求めてるってのは、まあ、分かる。
ただ、俺は、ガルフという名は伏せて、獣人ということだけを伝えて、一応覚えている限り正確に話したんだよ。
そしたら、他の冒険者たちからも聞いた話を全部ごちゃ混ぜにしたらしくてな。この吟遊詩人、とある見知らぬ英雄譚を仕立てやがった。
さらわれた恋人を救うために旅立った、まではまあいいとしてだ。
俺、街娘たちを集めた馬車になんか行ってないし、哀れな街娘たちの話を聞いて義憤を燃やしてもいなければ、並み居る敵をぶちのめして悪の城塞の跳ね橋をぶち破ってもいない。
身の丈八尺(約二メートル四十センチ)の大男なんて相手にしてないし、火花を散らせて戦ってもいない。
もちろん、並び立つ「剣王」フリートマンの背を守って共に打ち破る、なんてやってもいない。まして、敵を倒したあとに赤髪の女性を抱えて崩れゆく城から見事脱出って、それアムティとヴェフタールじゃないか。
でもって締めくくりは、朝日の照らす丘の上で永遠の愛を誓い口づけをかわすって、いったいどこのどいつだよ。
ないない尽くしの嘘八百、俺要素なんて、結局短剣しか存在してなかったよ!
「ふふ……でも、悪い気はしません」
「いや、どう考えても捏造だろ、話を盛りすぎだ」
「たしかに、吟遊詩人さんのお話はいつも楽しみに聞いていたのですけど、いざ自分がうたわれると、ちょっと、むずかゆい気がしますね」
「むずかゆいどころじゃないよ。九割九分九厘、俺の話じゃないから!」
こうやって、ありもしない話が捏造されていくわけだな!
どうせこの吟遊詩人の歌に尾ひれがついて、さらに訳の分からない話が広がっていくんだろ? ああもう、いやだいやだ。
「でも、わたしのだんなさまが英雄さま、ですよ? わたしはとっても誇らしいです」
「リトリィまで虚飾に乗っかるなよ!」
「いいえ? わたしのだんなさまは、命の危険を冒してわたしをたすけに来てくださった、掛け値なしの、ほんものの英雄さまです」
白いヴェールの下で、声を詰まらせながら、それでも嬉しそうにするリトリィに、それ以上、嘘だ偽物だ作り話だなどと言えず、だから、気まずさを隠すように彼女の肩を抱く。
すこし肩を震わせた彼女は、だが安心したように、そっと、俺に体を寄せる。
パレードで練り歩いていたとき、ナリクァン商会本部――ナリクァンさんの屋敷前で、なぜか止まった行列。屋敷から慌てて飛び出してきた小太りの男性が、なにやら布の山を抱えたメイドと共に、必死に訴えてきたのだ。
メイドさんは布の塊と共に馬車に入ると、しばらくしてから、それまで馬車の中で待機していたリトリィを引っ張り出し、屋根の上――俺たちのところに押し上げたのである。
かならず、リトリィを、俺と剣王ではさむようにして並び立たせるようにと、何度も何度も念を押しながら。
ドレスは白を基調としたもので、ご丁寧に、半透明のヴェールまで。
どう見ても花嫁衣裳です。あのときの。
メイドさんすげえ。一階部分の狭い馬車の中で、よくこんなフリフリな衣装を着せることができたな!?
おかげで、美女三人に囲まれた剣王から、俺が一気に主役っぽくなっちまったんだよ! リトリィが、俺と腕を組むもんだから! 不愉快そうな剣王のツラは、一生忘れてやらないからな!
ヴェールを付けてるおかげで、おそらく彼女の獣人らしい容貌は目立たなくなってるし、格好は花嫁衣裳そのものだし、そんな美姫の隣にいる俺が、姫君を守り抜いた騎士みたいになっちまってさ。
出発するときなど、屋敷の広い庭の一角――以前、リトリィと再会したあのテラスに、ナリクァンさんがいて。
そりゃもう、ばっちり目が合ってしまった。つまりそういうことだ、ギルド長がリトリィを俺の隣に立たせるように言ったのは、ナリクァンさんの指示だったんだ。
それが果たされていない状況を確かめたナリクァンさんが、リトリィを主役にすべく、奥の手を使った――そんなところだろう。
――それって、俺が、ナリクァンさんを怒らせたってことになるのか……?
『決めました。あなたの体を削るのは、このナイフで行うことにしましょう』
コーヒーと紅茶、どっちにしようか決めるみたいに軽やかに言ってのけたあの言葉が脳内に再生される。
……ひぃぃいいいいっ!?
「ムラタさん? ……ムラタさん? どうしたんですか? ひどい汗ですよ? ど、どこか具合が悪いんですか?」
リトリィが俺を見上げて泣きそうな顔になっているのに気づき、無理矢理笑顔を作ってみせる。
ナリクァンさんはこの晴れ舞台を、おそらくリトリィのために用意したのだ。そんな場で、悲しそうな顔をさせてしまったら、ほんとに俺、あとでミンチにされる気がする。比喩でも何でもなく実施されそうで、シャレにならない。
「な、なんでもない、なんでもないよ。え、笑顔、笑顔! なっ!」
「何でもないわけがないじゃないですか、そんなに汗をかいて、不自然に笑って。ムラタさん、無理をしないでください。すぐ降りましょう?」
降りたら間違いなく俺、ミンチコースまっしぐらじゃないか!
なんとかリトリィをなだめて、俺も必死に営業スマイルを取り繕って、パレードを続行したのだった。
後日、聞いた話だが、体調の悪そうな俺の汗を何度も拭うリトリィが健気に見えて、また見る人からの角度によってはそれがキスしているようにも見えたりしたそうで、それはそれは、いろいろな噂が飛び交うことになったらしい。
まあ、噂が実態と乖離すればするほど、噂とは違う俺の日常が平穏になると考えれば、それもまあいいか、とも思う。
だが、「許されぬ恋に落ち、陰謀によって奴隷商人に売り飛ばされた異国の姫君と、姫君の恋の相手であり、ナリクァン商会の支援の下で冒険者ギルドと協力し、悪の組織を壊滅させて姫君を見事救出してみせた見習い騎士が、王国一美しいと評判のこの街を安住の地と定めた。凱旋式典は、その二人を祝福するナリクァン商会によるもの」とかいうのは、さすがに盛りすぎだと思う。いろいろと。
俺にとっては恩人のアムティもヴェフタールも、同席はしなかった。
ギルドを代表する最強の剣士だか戦士だかと一緒に、二階建てオープンカーみたいな馬車の上で手を振る役をやらされることになったのだ。
二列に並ぶ冒険者ギルドの戦士たちに続く、二階建てオープンカー馬車の上。ギルド最強の男「剣王」フリートマンが、実に濃い、無精ひげだらけの野性的なスマイルで手を振ったり腕を振り上げたり。悪を滅ぼした勇者として、冒険者ギルドをアピールする。
よくある紙吹雪とかはないみたいだが、沿道に集まった人々が、こっちに向かって手を振っている。家々の二階や三階の窓からも、だ。お目当ては「剣王」に決まっているけどな。
俺も一緒になって手を振りながら、沿道にずらりと並んでわいわい騒ぐ人々に圧倒されていた。
別に巨悪を倒してきたわけでもないのに、この人出はなんだ?
固まった俺に、フリートマンが遠慮なしに大声で教えてくれた。
「決まっているだろう、娯楽だ娯楽。オレたち冒険者の活躍は、街の住人にとって、数少ない娯楽なんだよ! 何をやったかなんて、彼らにはどうでもいいんだ。何かをやって、お祭り騒ぎ。それでいいんだ」
フリートマンはそう言って、隣に立つ女性の肩を抱き、唇を寄せる。
沿道の女たちから、黄色い声が上がる。そうか、この街のヒーローなんだな、こいつ。そのヒーローに並び立つ俺も、ヒーロー? あ、いや、救出された一般人、という立ち位置か。
そんな俺の隣にはもちろんリトリィ――と言いたいところだが、実はリトリィは、一階部分――馬車の中にいる。
で、さっきから俺とフリートマンの両脇にいるのは、リトリィではなく、見目麗しい、耳だけ動物の女性三人。実に華やかなドレスを身に付けて。
知らないよ、こんな女たち!
しかもファーがたっぷりの髪飾りをごてごてつけてるから、一見すると人間にしか見えないというところがまた、いやらしい。
この女性たちは、俺たちが砦攻略をする前に出た、例の囮の馬車にいた女性たちらしい。確かに、耳以外は、どう見ても人間にしか見えない。つまり「ケモノ好き」な需要を満たせないというわけだ。
これだけ美人なら、普通に売れただろうに。いや、人身売買を推奨する気は微塵もないけどな。
それはともかくだ。どうしてリトリィが俺の隣にいないのか。
理由は実に簡単だった。
『なに? お前の女がいないだと? そんなこと知るか、お前の女の隣に立たされる俺の身にもなってみろ。第一、民衆受けを狙うなら美人がいいに決まっているだろう。なに? あの金色の犬女の方が美人? 馬鹿言え、お前の目は腐ってんのか』
ギルド長に、俺の隣はリトリィと、はっきり言われていたにもかかわらず、だ。
そんなわけで、「ギルド最強剣士」とやらは俺の中では敵と断定。リトリィくらい美しい女性がこの世にそういてたまるか。目が腐ってんのはお前だろ。
ところで、公開処刑という言葉を、皆は知っているか?
「――迫りくるは悪しき刃!
だが、捕らわれの恋人を求める勇者は、神の定めし運命を、ああ、引き裂かんとするその刃を受け止める!
見よ、飛び散る火花は両者を照らし、恋人より贈られた短剣が、おお、神も照覧! 月を映して正義を執行!」
――やめてくれ。俺はガルフにぶちのめされてぶっ倒れてただけだ。恋人から贈られた短剣、しか合ってないぞ。
いわゆる吟遊詩人という奴らしい。
パレードの行列の中ほど、俺たちの馬車の鼻先で、鳥の背中に揺られながら朗々と歌ってるんだけどさ。
ぜんぜん違ってら。
いや、そりゃ報道機関なんてないのは分かるよ?
ニュースっていうより、娯楽が求められてる――つまり国営放送協会の堅苦しいニュースじゃなくて、ワイドショーを人々が求めてるってのは、まあ、分かる。
ただ、俺は、ガルフという名は伏せて、獣人ということだけを伝えて、一応覚えている限り正確に話したんだよ。
そしたら、他の冒険者たちからも聞いた話を全部ごちゃ混ぜにしたらしくてな。この吟遊詩人、とある見知らぬ英雄譚を仕立てやがった。
さらわれた恋人を救うために旅立った、まではまあいいとしてだ。
俺、街娘たちを集めた馬車になんか行ってないし、哀れな街娘たちの話を聞いて義憤を燃やしてもいなければ、並み居る敵をぶちのめして悪の城塞の跳ね橋をぶち破ってもいない。
身の丈八尺(約二メートル四十センチ)の大男なんて相手にしてないし、火花を散らせて戦ってもいない。
もちろん、並び立つ「剣王」フリートマンの背を守って共に打ち破る、なんてやってもいない。まして、敵を倒したあとに赤髪の女性を抱えて崩れゆく城から見事脱出って、それアムティとヴェフタールじゃないか。
でもって締めくくりは、朝日の照らす丘の上で永遠の愛を誓い口づけをかわすって、いったいどこのどいつだよ。
ないない尽くしの嘘八百、俺要素なんて、結局短剣しか存在してなかったよ!
「ふふ……でも、悪い気はしません」
「いや、どう考えても捏造だろ、話を盛りすぎだ」
「たしかに、吟遊詩人さんのお話はいつも楽しみに聞いていたのですけど、いざ自分がうたわれると、ちょっと、むずかゆい気がしますね」
「むずかゆいどころじゃないよ。九割九分九厘、俺の話じゃないから!」
こうやって、ありもしない話が捏造されていくわけだな!
どうせこの吟遊詩人の歌に尾ひれがついて、さらに訳の分からない話が広がっていくんだろ? ああもう、いやだいやだ。
「でも、わたしのだんなさまが英雄さま、ですよ? わたしはとっても誇らしいです」
「リトリィまで虚飾に乗っかるなよ!」
「いいえ? わたしのだんなさまは、命の危険を冒してわたしをたすけに来てくださった、掛け値なしの、ほんものの英雄さまです」
白いヴェールの下で、声を詰まらせながら、それでも嬉しそうにするリトリィに、それ以上、嘘だ偽物だ作り話だなどと言えず、だから、気まずさを隠すように彼女の肩を抱く。
すこし肩を震わせた彼女は、だが安心したように、そっと、俺に体を寄せる。
パレードで練り歩いていたとき、ナリクァン商会本部――ナリクァンさんの屋敷前で、なぜか止まった行列。屋敷から慌てて飛び出してきた小太りの男性が、なにやら布の山を抱えたメイドと共に、必死に訴えてきたのだ。
メイドさんは布の塊と共に馬車に入ると、しばらくしてから、それまで馬車の中で待機していたリトリィを引っ張り出し、屋根の上――俺たちのところに押し上げたのである。
かならず、リトリィを、俺と剣王ではさむようにして並び立たせるようにと、何度も何度も念を押しながら。
ドレスは白を基調としたもので、ご丁寧に、半透明のヴェールまで。
どう見ても花嫁衣裳です。あのときの。
メイドさんすげえ。一階部分の狭い馬車の中で、よくこんなフリフリな衣装を着せることができたな!?
おかげで、美女三人に囲まれた剣王から、俺が一気に主役っぽくなっちまったんだよ! リトリィが、俺と腕を組むもんだから! 不愉快そうな剣王のツラは、一生忘れてやらないからな!
ヴェールを付けてるおかげで、おそらく彼女の獣人らしい容貌は目立たなくなってるし、格好は花嫁衣裳そのものだし、そんな美姫の隣にいる俺が、姫君を守り抜いた騎士みたいになっちまってさ。
出発するときなど、屋敷の広い庭の一角――以前、リトリィと再会したあのテラスに、ナリクァンさんがいて。
そりゃもう、ばっちり目が合ってしまった。つまりそういうことだ、ギルド長がリトリィを俺の隣に立たせるように言ったのは、ナリクァンさんの指示だったんだ。
それが果たされていない状況を確かめたナリクァンさんが、リトリィを主役にすべく、奥の手を使った――そんなところだろう。
――それって、俺が、ナリクァンさんを怒らせたってことになるのか……?
『決めました。あなたの体を削るのは、このナイフで行うことにしましょう』
コーヒーと紅茶、どっちにしようか決めるみたいに軽やかに言ってのけたあの言葉が脳内に再生される。
……ひぃぃいいいいっ!?
「ムラタさん? ……ムラタさん? どうしたんですか? ひどい汗ですよ? ど、どこか具合が悪いんですか?」
リトリィが俺を見上げて泣きそうな顔になっているのに気づき、無理矢理笑顔を作ってみせる。
ナリクァンさんはこの晴れ舞台を、おそらくリトリィのために用意したのだ。そんな場で、悲しそうな顔をさせてしまったら、ほんとに俺、あとでミンチにされる気がする。比喩でも何でもなく実施されそうで、シャレにならない。
「な、なんでもない、なんでもないよ。え、笑顔、笑顔! なっ!」
「何でもないわけがないじゃないですか、そんなに汗をかいて、不自然に笑って。ムラタさん、無理をしないでください。すぐ降りましょう?」
降りたら間違いなく俺、ミンチコースまっしぐらじゃないか!
なんとかリトリィをなだめて、俺も必死に営業スマイルを取り繕って、パレードを続行したのだった。
後日、聞いた話だが、体調の悪そうな俺の汗を何度も拭うリトリィが健気に見えて、また見る人からの角度によってはそれがキスしているようにも見えたりしたそうで、それはそれは、いろいろな噂が飛び交うことになったらしい。
まあ、噂が実態と乖離すればするほど、噂とは違う俺の日常が平穏になると考えれば、それもまあいいか、とも思う。
だが、「許されぬ恋に落ち、陰謀によって奴隷商人に売り飛ばされた異国の姫君と、姫君の恋の相手であり、ナリクァン商会の支援の下で冒険者ギルドと協力し、悪の組織を壊滅させて姫君を見事救出してみせた見習い騎士が、王国一美しいと評判のこの街を安住の地と定めた。凱旋式典は、その二人を祝福するナリクァン商会によるもの」とかいうのは、さすがに盛りすぎだと思う。いろいろと。
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