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第二部 異世界建築士と大工の娘
第171話:ムラタの棟上げっ!(8/9)
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「ムラタさん――?」
背中から掛けられた声に、思い切り背筋が伸びる。
「あの、お話は、終わりましたか……?」
心細げな声が、背中から胸を貫く。
「あ、ああ――終わったよ」
向き直ると、リトリィがいた。胸元で右手を、腰のあたりで左手を、ぎゅっと握りしめている。
その背後では、もうあらかた片付けが終わっていた。酔いつぶれた連中がテーブルに突っ伏しているが、もうお開きといった様子だ。長く話し込んでしまっていたらしい。
だからこそ、彼女はこちらに来ることができたのだろう。
だがそれは、つまり、彼女はずっと俺たちがここにいることを知っていながら、自分のやるべき仕事を片付け続けていた、ということになる。
今さらながら、自分の至らなさぶりを痛感した。
俺だったら、見て見ぬふりを通せるだろうか。リトリィが、まんざらでもない様子で知人の男性に口説かれているのを。
「マイセルさん。あの、ペリシャ様とお父様が、あちらでお呼びです」
――ペリシャさん!?
あの、リトリィびいきのペリシャさんが、マイセルを呼びつける?
不安げに俺とリトリィを見比べるマイセルに、リトリィは微笑んだ。
「大丈夫ですよ。お口添え、しておきましたから。マイセルさん、あなたの決意を、しっかりお話すればいいんです。ペリシャ様は、それを確認したいだけだと思いますよ」
ぎゅっと、背中で縮こまるマイセルに向き直ると、ぽんぽんと、その頭を撫でる。
「大丈夫だ。リトリィがああ言っているなら、間違いない。今さっき俺に言ってみせたこと、しっかり伝えてきてごらん」
何なら、俺も保護者の一人としてついていこうか? そう笑って見せると、ぎこちないながらも、マイセルも笑顔を作る。
「……大丈夫です!」
そう言って一歩下がると、ぴょこんと礼をしてみせる。
「あ、あの――リトリィさん。その……これから、よろしくお願いします!」
「――私には、してくださったことがありません」
元気よく駆けていったマイセルを見ながら、リトリィがぽつりとつぶやいた。
「……え? なにを?」
よく見ると、リトリィの頬がふくらんでいる。
「わたしには、あんなふうに、頭を撫でてくださったことがありません」
「そ、そうか? そんなことないだろう? 昨夜だって――」
「あんな、その……。ぽんぽんって、するみたいな……あんな撫で方、してもらってません」
――え? そこ?
リトリィが拗ねてみせているその理由が意外過ぎて、目が点になる。
俺の中ではリトリィはそういうキャラじゃないというか、マイセルがその、小さい子の立ち位置にいるというか。
「――あれは、小さい子相手にするんですか? ……小さい子の、髪を、撫でるんですか?」
うぐッ!
その言い方だと、まるで俺が幼女趣味の腐れ外道みたいな――!
「あ、いやその……“日本”だと、頭を撫でるのは、親愛の情を伝える方法で――」
「じゃあ、やっぱり、わたしにしてくれないのが、納得できません」
そう言うと、ふわりと、俺の胸に顔をうずめる。
「……これからは、あなたは、わたしだけの人じゃなくなってしまうのですから――」
顔をこすりつけ、そして俺を見上げて。
「だから、せめて、同じように扱ってください。――わたしが年上で、あの子が年下だというのは分かっています。でも――」
そしてまた、顔をうずめる。
うずめる前に、じわりと浮かんだ雫を、俺は見逃していなかった。
「――それでも……はじめに好きになったのは、わたしなんです……!」
『獣人は情が深いから――』
滝井さんの言葉を思い出す。
だが、べつに獣人でなくても同じだろう。
彼女は給仕をしている間、きっと、不安だったのだ。
本当に、自分の至らなさ加減に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ありがとう、俺を、最初に好きになってくれて」
彼女の頭に、ぽんぽんと手のひらを載せる。
驚いたように顔を上げるリトリィ。
「あ、やっぱり慣れないか?」
髪をことのほか大切にし、異性に触れさせない文化に生きてきたリトリィには、やはり刺激が強かったか。
しかし彼女はくすぐったそうに、だが微笑みを浮かべ、そしてまた、俺の懐に顔をうずめた。
「……わたしのほうこそ、です。こんなわたしを――」
それ以上しゃべらせない。ぐっと頭を抱える。胸元で苦しげにもごもごしているが、しゃべらせるものか。
どうせ自分を卑下する言葉が出てくるに決まっている。自分がそうだから、よく分かる。
リトリィは、俺にとって最高にして最良の女性だ。
その女性に、自身を卑下する言葉など吐かせてなるものか。
「……え? 俺が、ですか?」
「あんたが建てる家だ、あんたが言うべきだろう」
「い、いや、俺は設計をしただけで……」
「あんたが建て替えを判断し、設計したんだ。建てると決めたのもあんただ。だから、あんたが言うべきだ。まさかナリクァン夫人に言わせる気か?」
当たり前を否定されたような顔をされても。こういうのは、施主が言うものだろう? でなければ、棟梁か。
「いや、やっぱりそういうのは、棟梁が言うべきじゃないかと……」
「俺はいつでも言える。あんたは設計者であるのと同時に、施主なんだ。あんたが一番、ふさわしい」
マイセルとの話が終わったマレットさんは、俺を呼びつけると、上棟式の締めをしろと言ってきたのである。
設計を担当しただけの流れ者が、そんな役割を担うことはふさわしくないのではないかと言ったのだが。
「あんたは当分、この街にいるんだろう?」
「それは、まあ……」
実は本音を言うと、リトリィにとって住みよいと言えないだろう城内街に宿を取り続けるのは、避けたかった。今の宿自体に全く文句はないのだが。
「なんだ、歯切れの悪い返事だな。宿代が気になるなら、いっそウチに来るか?」
思い切りぶんぶんと横に首を振る。さすがにそこまで頼ってしまうと、俺がジンメルマン一家に婿養子に入ってしまうような形になりかねない。そうしたら、リトリィの居場所がなくなってしまう。
「そうか。あんたがウチに来るならマイセルは喜ぶし、大工仕事の仕込みもやりやすくていいんだが」
マレットさんは、しかし大して気にした様子もなく、続けた。
「ただ、なんにせよ、この上棟式の出資者はナリクァン夫人でいいんだが、名目上の施主はあんたということにしたいらしい。これは夫人の意向だ」
「ナリクァンさんの?」
「リトリィさんの旦那になるあんたに、少しでも箔を付けたいんだろうよ」
――しまった。
だったら、来賓にもう少し顔を売っておくべきだったか?
思わず舌打ちしてしまった俺に、マレットさんは唇の端をゆがめて笑みを浮かべる。
「いや、マイセルの相手をして隅にいたのは正解だ。確かにあんたの言う通り、この街にとって、今のあんたはまだ、ただの流れ者の一人に過ぎねえからな」
そう言って、そろそろ帰り支度を始めた来賓たちの方を見る。
「ここに建っていた、前の家の持ち主はナリクァン夫人ってのは誰でも知ってることだ。だから、あんたがしゃしゃり出てきて顔を売ろうとするのは、かえって顰蹙を買いかねない。自重していて正解だ」
「……ひょっとして、あのタイミングでマイセルが来たのは……?」
「ああ、アイツなりの心遣いだろう。姓持ち棟梁の娘がコナかけてるとなったら、誰も文句は言えんだろうからな」
……俺は今までマイセルのことを、どちらかといえば世間知らずのお嬢さんだと思い込んでいた。しかし、実は街で生きていく為の立ち回りに関しては、結構しっかりと躾けられているのもしれない。
――知ったかぶりをしていたのは俺のほうか。恥ずかしい。
「それとな……娘を預けるのは、やっぱりちょっと、待ってくれ」
マレットさんが、言いにくそうに、だが切り出した。
「そっちのお嬢さん、こっちの鍛冶ギルドに登録するつもりだって聞いてな。――それはつまり、ジルンディールの親方の業を、きっちり仕込まれてきたってことなんだろう?」
……ああ、そう言えば昨日、そんなことを言っていたか。
「そっちの娘さんがその覚悟であんたに嫁ぐってのに、ジンメルマンの娘がド素人のままってのは、さすがにどうかと思ってな。娘はすっかりその気だったが、すまん。こちらの仕込みが終わるまで、どうか待ってやってくれないか」
マレットさんの言葉に、思わず声が出そうになり、慌てて咳払いをする。
「……いえ、構いませんよ。ジンメルマンの家から娘さんをいただく、その意味は十分に理解していますので」
「女が職人なんて、と思い込んでいた俺の過ちだ、すまん。嫁に出すのはちっとばかり遅れるが、そのかわり必ず、ジンメルマンの名に恥じない程度には仕込んでみせる」
この上なく真剣な表情で頭を下げるマレットさん。
「いえ。私の方こそ、よろしくお願いいたします」
俺は笑顔で、右の手のひらを向けてみせた。
「そ、そうか。分かってもらえると、助かる」
マレットさんは複雑な表情で、しかし笑った。
「じゃあ、あいつにはよく言って聞かせておく。だから、今夜だけは許してやってほしい、明日からのやる気につながるようにな」
……ん? 明日からのやる気につながるように、今夜は許せ?
「ああ。夜の躾ついでに、孫を仕込んでもらえたら万々歳だ」
がしっと、両肩を掴まれる。
物凄まじい笑顔で。
「え? ……え?」
「俺たちゃ大工と設計、今後は一蓮托生だ。……娘を嫁にくれてやるんだ、今夜一晩限りとはいえ、くれぐれも、よろしく頼むぞ?」
……マレットさん、その極太の青筋、引っ込めてくださいませんか? なんなら、そちらの仕込みが終わるまでは無理にこちらに寄こさずとも……
「あのマイセルが、今日ばかりは言うことを聞かなくてな? 今夜だけは許す、それでやっと納得させたんだ。……よろしく頼むぞ?」
「い、いえ、ですから……」
「婿殿、よ・ろ・し・く頼むぞ?」
背中から掛けられた声に、思い切り背筋が伸びる。
「あの、お話は、終わりましたか……?」
心細げな声が、背中から胸を貫く。
「あ、ああ――終わったよ」
向き直ると、リトリィがいた。胸元で右手を、腰のあたりで左手を、ぎゅっと握りしめている。
その背後では、もうあらかた片付けが終わっていた。酔いつぶれた連中がテーブルに突っ伏しているが、もうお開きといった様子だ。長く話し込んでしまっていたらしい。
だからこそ、彼女はこちらに来ることができたのだろう。
だがそれは、つまり、彼女はずっと俺たちがここにいることを知っていながら、自分のやるべき仕事を片付け続けていた、ということになる。
今さらながら、自分の至らなさぶりを痛感した。
俺だったら、見て見ぬふりを通せるだろうか。リトリィが、まんざらでもない様子で知人の男性に口説かれているのを。
「マイセルさん。あの、ペリシャ様とお父様が、あちらでお呼びです」
――ペリシャさん!?
あの、リトリィびいきのペリシャさんが、マイセルを呼びつける?
不安げに俺とリトリィを見比べるマイセルに、リトリィは微笑んだ。
「大丈夫ですよ。お口添え、しておきましたから。マイセルさん、あなたの決意を、しっかりお話すればいいんです。ペリシャ様は、それを確認したいだけだと思いますよ」
ぎゅっと、背中で縮こまるマイセルに向き直ると、ぽんぽんと、その頭を撫でる。
「大丈夫だ。リトリィがああ言っているなら、間違いない。今さっき俺に言ってみせたこと、しっかり伝えてきてごらん」
何なら、俺も保護者の一人としてついていこうか? そう笑って見せると、ぎこちないながらも、マイセルも笑顔を作る。
「……大丈夫です!」
そう言って一歩下がると、ぴょこんと礼をしてみせる。
「あ、あの――リトリィさん。その……これから、よろしくお願いします!」
「――私には、してくださったことがありません」
元気よく駆けていったマイセルを見ながら、リトリィがぽつりとつぶやいた。
「……え? なにを?」
よく見ると、リトリィの頬がふくらんでいる。
「わたしには、あんなふうに、頭を撫でてくださったことがありません」
「そ、そうか? そんなことないだろう? 昨夜だって――」
「あんな、その……。ぽんぽんって、するみたいな……あんな撫で方、してもらってません」
――え? そこ?
リトリィが拗ねてみせているその理由が意外過ぎて、目が点になる。
俺の中ではリトリィはそういうキャラじゃないというか、マイセルがその、小さい子の立ち位置にいるというか。
「――あれは、小さい子相手にするんですか? ……小さい子の、髪を、撫でるんですか?」
うぐッ!
その言い方だと、まるで俺が幼女趣味の腐れ外道みたいな――!
「あ、いやその……“日本”だと、頭を撫でるのは、親愛の情を伝える方法で――」
「じゃあ、やっぱり、わたしにしてくれないのが、納得できません」
そう言うと、ふわりと、俺の胸に顔をうずめる。
「……これからは、あなたは、わたしだけの人じゃなくなってしまうのですから――」
顔をこすりつけ、そして俺を見上げて。
「だから、せめて、同じように扱ってください。――わたしが年上で、あの子が年下だというのは分かっています。でも――」
そしてまた、顔をうずめる。
うずめる前に、じわりと浮かんだ雫を、俺は見逃していなかった。
「――それでも……はじめに好きになったのは、わたしなんです……!」
『獣人は情が深いから――』
滝井さんの言葉を思い出す。
だが、べつに獣人でなくても同じだろう。
彼女は給仕をしている間、きっと、不安だったのだ。
本当に、自分の至らなさ加減に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「ありがとう、俺を、最初に好きになってくれて」
彼女の頭に、ぽんぽんと手のひらを載せる。
驚いたように顔を上げるリトリィ。
「あ、やっぱり慣れないか?」
髪をことのほか大切にし、異性に触れさせない文化に生きてきたリトリィには、やはり刺激が強かったか。
しかし彼女はくすぐったそうに、だが微笑みを浮かべ、そしてまた、俺の懐に顔をうずめた。
「……わたしのほうこそ、です。こんなわたしを――」
それ以上しゃべらせない。ぐっと頭を抱える。胸元で苦しげにもごもごしているが、しゃべらせるものか。
どうせ自分を卑下する言葉が出てくるに決まっている。自分がそうだから、よく分かる。
リトリィは、俺にとって最高にして最良の女性だ。
その女性に、自身を卑下する言葉など吐かせてなるものか。
「……え? 俺が、ですか?」
「あんたが建てる家だ、あんたが言うべきだろう」
「い、いや、俺は設計をしただけで……」
「あんたが建て替えを判断し、設計したんだ。建てると決めたのもあんただ。だから、あんたが言うべきだ。まさかナリクァン夫人に言わせる気か?」
当たり前を否定されたような顔をされても。こういうのは、施主が言うものだろう? でなければ、棟梁か。
「いや、やっぱりそういうのは、棟梁が言うべきじゃないかと……」
「俺はいつでも言える。あんたは設計者であるのと同時に、施主なんだ。あんたが一番、ふさわしい」
マイセルとの話が終わったマレットさんは、俺を呼びつけると、上棟式の締めをしろと言ってきたのである。
設計を担当しただけの流れ者が、そんな役割を担うことはふさわしくないのではないかと言ったのだが。
「あんたは当分、この街にいるんだろう?」
「それは、まあ……」
実は本音を言うと、リトリィにとって住みよいと言えないだろう城内街に宿を取り続けるのは、避けたかった。今の宿自体に全く文句はないのだが。
「なんだ、歯切れの悪い返事だな。宿代が気になるなら、いっそウチに来るか?」
思い切りぶんぶんと横に首を振る。さすがにそこまで頼ってしまうと、俺がジンメルマン一家に婿養子に入ってしまうような形になりかねない。そうしたら、リトリィの居場所がなくなってしまう。
「そうか。あんたがウチに来るならマイセルは喜ぶし、大工仕事の仕込みもやりやすくていいんだが」
マレットさんは、しかし大して気にした様子もなく、続けた。
「ただ、なんにせよ、この上棟式の出資者はナリクァン夫人でいいんだが、名目上の施主はあんたということにしたいらしい。これは夫人の意向だ」
「ナリクァンさんの?」
「リトリィさんの旦那になるあんたに、少しでも箔を付けたいんだろうよ」
――しまった。
だったら、来賓にもう少し顔を売っておくべきだったか?
思わず舌打ちしてしまった俺に、マレットさんは唇の端をゆがめて笑みを浮かべる。
「いや、マイセルの相手をして隅にいたのは正解だ。確かにあんたの言う通り、この街にとって、今のあんたはまだ、ただの流れ者の一人に過ぎねえからな」
そう言って、そろそろ帰り支度を始めた来賓たちの方を見る。
「ここに建っていた、前の家の持ち主はナリクァン夫人ってのは誰でも知ってることだ。だから、あんたがしゃしゃり出てきて顔を売ろうとするのは、かえって顰蹙を買いかねない。自重していて正解だ」
「……ひょっとして、あのタイミングでマイセルが来たのは……?」
「ああ、アイツなりの心遣いだろう。姓持ち棟梁の娘がコナかけてるとなったら、誰も文句は言えんだろうからな」
……俺は今までマイセルのことを、どちらかといえば世間知らずのお嬢さんだと思い込んでいた。しかし、実は街で生きていく為の立ち回りに関しては、結構しっかりと躾けられているのもしれない。
――知ったかぶりをしていたのは俺のほうか。恥ずかしい。
「それとな……娘を預けるのは、やっぱりちょっと、待ってくれ」
マレットさんが、言いにくそうに、だが切り出した。
「そっちのお嬢さん、こっちの鍛冶ギルドに登録するつもりだって聞いてな。――それはつまり、ジルンディールの親方の業を、きっちり仕込まれてきたってことなんだろう?」
……ああ、そう言えば昨日、そんなことを言っていたか。
「そっちの娘さんがその覚悟であんたに嫁ぐってのに、ジンメルマンの娘がド素人のままってのは、さすがにどうかと思ってな。娘はすっかりその気だったが、すまん。こちらの仕込みが終わるまで、どうか待ってやってくれないか」
マレットさんの言葉に、思わず声が出そうになり、慌てて咳払いをする。
「……いえ、構いませんよ。ジンメルマンの家から娘さんをいただく、その意味は十分に理解していますので」
「女が職人なんて、と思い込んでいた俺の過ちだ、すまん。嫁に出すのはちっとばかり遅れるが、そのかわり必ず、ジンメルマンの名に恥じない程度には仕込んでみせる」
この上なく真剣な表情で頭を下げるマレットさん。
「いえ。私の方こそ、よろしくお願いいたします」
俺は笑顔で、右の手のひらを向けてみせた。
「そ、そうか。分かってもらえると、助かる」
マレットさんは複雑な表情で、しかし笑った。
「じゃあ、あいつにはよく言って聞かせておく。だから、今夜だけは許してやってほしい、明日からのやる気につながるようにな」
……ん? 明日からのやる気につながるように、今夜は許せ?
「ああ。夜の躾ついでに、孫を仕込んでもらえたら万々歳だ」
がしっと、両肩を掴まれる。
物凄まじい笑顔で。
「え? ……え?」
「俺たちゃ大工と設計、今後は一蓮托生だ。……娘を嫁にくれてやるんだ、今夜一晩限りとはいえ、くれぐれも、よろしく頼むぞ?」
……マレットさん、その極太の青筋、引っ込めてくださいませんか? なんなら、そちらの仕込みが終わるまでは無理にこちらに寄こさずとも……
「あのマイセルが、今日ばかりは言うことを聞かなくてな? 今夜だけは許す、それでやっと納得させたんだ。……よろしく頼むぞ?」
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「婿殿、よ・ろ・し・く頼むぞ?」
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