179 / 438
第二部 異世界建築士と大工の娘
第166話:ムラタの棟上げっ!(3/9)
しおりを挟む
「思ったんですけど、今回のように母屋(垂木を支える横木)の下に柱を立てない工法だと、天井裏をまるまる全部、部屋にできますよね?」
鋭い。さすが庇の弱点をすぐに挙げることができたグラニット。
「そうだな。今回は天窓も屋根窓もつける気はないから、ただの物置にしかならないが」
俺の言葉に、バーザルトが目を輝かせた。
「では、採光窓を作りませんか? せっかくの屋根裏を生かせるようにしたいじゃないですか。屋根窓、もしそれがだめなら天窓でいいですから、やらせてください」
「バーザルト、気持ちは分かるが、だめだ。どちらも雨漏りの原因になる。俺のモットーは早くて安くて丈夫で長持ち、だ。近い将来、必ず雨漏りすると分かっていて造るのは、俺の流儀に反する」
すると、グラニットが鼻息荒く顔を突き出してくる。
「じゃあ、僕達が、将来の点検や補修に責任を持ちますから!」
――論外だ、ヒヨッコたちに責任など、負わせられるはずがない。
そう言おうとすると、それまで黙っていたマレットさんが笑いながら答えた。
「その条件なら、いいんじゃねえか? なあ、ムラタさんよ」
……馬鹿な。抗議しようとしたが、マレットさんは上機嫌な様子で続けた。
「若い連中がやりたいって言ってるんだ。幸い、ナリクァン夫人も好きにやっていいとの仰せだ。失敗したらこいつらが修理すればいい」
「はい! 完成後も、俺達が責任をもって点検修理します! だからやらせてください!」
ヴァルナスまで混じってくる。どいつもこいつも、真剣な目だ。
――なるほど。みんな、やりたくて仕方がないらしい。
いや、屋根裏部屋を作れる可能性を残したのは俺自身なんだけどさ。
そういえばアイネも、自分で鎌を作っていいと親父殿――ジルンディール親方に言われたとき、狂喜してたっけ。職人は、みんな同じなんだな。
「――忘れているようだが、本来、お前たちは別々の棟梁のもとで修業中の身だったのを、マレットさんが好意で、機会をくれたんだからな? だから明日以後、お前たちは基本的に、あの現場に来ることはない」
あえて言ってやる。
しゅんとなるヒヨッコたち。
仕方がない、これ以後はどうしてもいろいろと専門技術が必要になってくる。彼らの出番は、無いはずだ。
技術のない彼らを雇い続ける必要は、ない。
「……だが、どうしてもやりたいなら好きにしていい。ただし正規の仕事でない以上、給料はあまり出してやれないし、お前たちの棟梁の説得は、自分でやれ。それと、やるなら十年は雨漏りしない、堅牢な作りにしろ。
――そんな条件でもいいなら、来ていいぞ」
数瞬ののち、爆発した歓声に、店の客たちが一斉にこちらを見た。
皆を解散させ、さて俺たちも、というタイミングを見計らうように、リトリィが店先に現れた。どこかで待っていたのだろうか。
隣のマイセルを見てふわりと微笑むと、ドレスの端をつまんで身をかがめ、礼をしてみせる。
「こんばんは、マイセルさん。お話は、ムラタさんからうかがっています。
――大工を目指していらっしゃるんですよね」
それに対して、マイセルが固い笑顔を浮かべた。
「リトリィさん、ですね。ムラタさんからお話は聞いてます。鍛冶屋、やってるんですよね」
マイセルの言葉に、リトリィは満面の笑みを浮かべて答えた。
「はい。先日、親方に認めていただけました。これでこの街で、ギルドの登録試験を受けることができます。やっと、ムラタさんのお役に立てるようになりました」
リトリィの笑顔はあくまでも柔和だが、それは先んじた者の余裕、というやつか。ただし、一歩も譲る気はない気迫も漂わせている。
先ほどまでの楽しい雰囲気はどこへやら。
胃の腑に冷たいものが走る。
「……そう、ですか。
わ、私は今日一日、大工としてご一緒させていただきました。まだ未熟だけど、建築士のムラタさんのお役に立つように、頑張ったつもりです」
やや厳しい、挑発的な目で、リトリィにかみつくマイセル。リトリィはその様子に、ふふ、と笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。ムラタさんのこと、今後も、よろしくお願いしますね?」
「――――!!」
マイセルが一歩前に出ようとしたとき、マレットさんがマイセルの肩をたたくと、リトリィに頭を下げた。
「帰るぞ、マイセル。
――嬢ちゃん。できの悪い妹ができたと思って、今後、よろしく頼む」
「お、お父さん!」
リトリィは、あいまいな笑みを浮かべたまま、答えなかった。
その態度はマレットさんも分かっていたようで、それ以上言わずにマイセルを引きずるように帰って行った。
二人が角を曲がるところで改めて礼をしたリトリィは、大きなため息を一つつくと、改めて俺に向き直った。
「お疲れさまでした、ムラタさん」
「あ、ああ……。リトリィも、お疲れ様」
どことなく他人行儀なリトリィに気圧される。
――ぱふっ。
胸に、軽い衝撃。
「リトリィ……?」
「……ムラタさんは、きっと、いろんな人にとって大切な人です。でも……」
胸に飛び込んできた彼女は、俺の胸元で、ぐっと、俺の服を握りしめる。
「でも、あなたの愛だけがほしい、それだけあればいい――そんな女がここにいることを、忘れないでほしいです……」
――そうだ。
彼女は、ナリクァンさんのところで、今日一日、働きづめだったはずなのだ。それなのに俺は、真っ先に彼女を、心からねぎらうこともしないで。
……自分の薄情さに、自分の頭を殴りたくなる。
そっと、彼女の髪を撫でる。
「……ごめん」
ゆっくり顔を上げた彼女の、
その薄い唇を、
長く熱い舌を、
むさぼるように。
――夜は、これからなのだから。
「あの、ムラタさん」
リトリィが、水差しを俺に渡しながら聞いてきた。
「マイセルさんのこと、……その、どうされるおつもりですか?」
リトリィの質問の意図が分からず、聞きなおしてしまう。
「その……マイセルさんを、お嫁さんに、されるんですか?」
盛大に水を吹き、むせてしばらく咳が止まらなくなる。
「ご、ごめんなさい! だって、その……マイセルさん、どう見たってその、ムラタさんのこと……!」
俺の背中をさすり続けるリトリィに向き直ると、不安にさせた俺自身への腹立たしさと情けなさを誤魔化すように、彼女の体を力いっぱい抱きしめる。
「……不安にさせたんだな?」
「い、いえ、その……!」
「ごめん……」
しばらくそのまま抱きしめていると、かすかな嗚咽が聞こえてくる。やがてそれは、号泣へと変わった。
「……ごめんなさい、もう、大丈夫、です」
しばらくして落ち着いたところで、答えづらいかもしれないと思いつつ、先ほどの言葉の意図を確認することにする。
「リトリィ、さっきの意味を教えてくれないか? 俺が、マイセルを、嫁さんにするって思っていたのか?」
「違うんですか?」
「リトリィを捨てて?」
彼女は返事をしづらそうに、だが、ややあってから頷いた。
「だって、ムラタさんのお仕事を考えたら、それが一番、いいのかなって……」
「みんなそう考えるんだな……」
うんざりして、ため息をつく。
首をかしげるリトリィに、瀧井さんにも同じことを言われた、と伝えた。
「親が姓持ちの大工と、そして設計。この二人がそろったら、この街では仕事上有利だろうってね」
マレットさんも、大方同じ考えだろう。
「わたしも、そう思います……。だから、マイセルさんがああ言って来たときから、ずっと、あなたを取られてしまうんじゃないかって、すごく、こわくて……」
「だから今夜も、あんなに積極的だったのか?」
俺の言葉に、頬を染め――かすかにうなずく。
「……赤ちゃんさえできれば、何を言われても、もう夫婦ですから……」
リトリィの言葉を聞いて、暗澹とした思いになる。
つまり、決定的な事実を得たいと願うほどに、彼女を不安にさせてしまっているということだ。
こうして二人きりの夜を、共に過ごしているというのに。
しかし、どうしてそこまで、不安がるのか。
「だって……マイセルさんは大工さんですから。ムラタさんのお役に立つに決まっていますし、姓持ちのマレットさんがいますから、お仕事だってすぐ舞い込んでくるはずです」
「俺は仕事のために妻を選ぶわけじゃない」
そこはしっかり釘をさす。
「瀧井さんにも言ったんだが、俺はリトリィを愛しているから、こうして今、抱いているんだ。リトリィにまでそんな見方をされていたなんて、俺は正直、ショックだぞ?」
たちまち彼女の顔が歪む。
――また泣かせてしまう。
だが、今回ばかりはわざときつく言ったのだ。泣いてもらった方がいい。
「俺はリトリィが好きだ。リトリィのためにこの世界で生きると決めたんだ。その君が、俺を信じてくれないというのは、俺は辛い」
案の定、彼女の淡い青紫の瞳が潤み、ぼろぼろと涙をこぼし始める。
「でも……でも! あなたはヒトで、マイセルさんもヒトで。――でもわたしは、獣人族です。
赤ちゃんだって、マイセルさんなら、確実に望めます。きっといっぱい産めると思います。でもわたしは、どんなに愛してもらえても、産めるかどうかすら、分からないんです……!」
俺の胸に顔をうずめ、首を振りながら、振り絞るように訴えるリトリィを、それ以上言わせまいと、強く、抱きしめる。
「だからなんだ? 君を選んだ俺の選択が間違っていると、そう言いたいのか?」
「だって! わたしは赤ちゃん、産めないかもしれないんですよ!? マイセルさんとなら絶対に手に入る幸せが、わたしが相手では手に入らない――」
最後までは、言わせなかった。
唇をふさぎ、力尽くで組み伏せた。
また、泣かせた。大いに泣かせた。
でも、髪を撫でながら、そこは謝らない。譲らない。
彼女を選んだのは俺で、彼女と共に幸せをつかむと決めたのも俺だ。
彼女を選ばせてしまったなどというような後悔など、絶対にさせるものか。
鋭い。さすが庇の弱点をすぐに挙げることができたグラニット。
「そうだな。今回は天窓も屋根窓もつける気はないから、ただの物置にしかならないが」
俺の言葉に、バーザルトが目を輝かせた。
「では、採光窓を作りませんか? せっかくの屋根裏を生かせるようにしたいじゃないですか。屋根窓、もしそれがだめなら天窓でいいですから、やらせてください」
「バーザルト、気持ちは分かるが、だめだ。どちらも雨漏りの原因になる。俺のモットーは早くて安くて丈夫で長持ち、だ。近い将来、必ず雨漏りすると分かっていて造るのは、俺の流儀に反する」
すると、グラニットが鼻息荒く顔を突き出してくる。
「じゃあ、僕達が、将来の点検や補修に責任を持ちますから!」
――論外だ、ヒヨッコたちに責任など、負わせられるはずがない。
そう言おうとすると、それまで黙っていたマレットさんが笑いながら答えた。
「その条件なら、いいんじゃねえか? なあ、ムラタさんよ」
……馬鹿な。抗議しようとしたが、マレットさんは上機嫌な様子で続けた。
「若い連中がやりたいって言ってるんだ。幸い、ナリクァン夫人も好きにやっていいとの仰せだ。失敗したらこいつらが修理すればいい」
「はい! 完成後も、俺達が責任をもって点検修理します! だからやらせてください!」
ヴァルナスまで混じってくる。どいつもこいつも、真剣な目だ。
――なるほど。みんな、やりたくて仕方がないらしい。
いや、屋根裏部屋を作れる可能性を残したのは俺自身なんだけどさ。
そういえばアイネも、自分で鎌を作っていいと親父殿――ジルンディール親方に言われたとき、狂喜してたっけ。職人は、みんな同じなんだな。
「――忘れているようだが、本来、お前たちは別々の棟梁のもとで修業中の身だったのを、マレットさんが好意で、機会をくれたんだからな? だから明日以後、お前たちは基本的に、あの現場に来ることはない」
あえて言ってやる。
しゅんとなるヒヨッコたち。
仕方がない、これ以後はどうしてもいろいろと専門技術が必要になってくる。彼らの出番は、無いはずだ。
技術のない彼らを雇い続ける必要は、ない。
「……だが、どうしてもやりたいなら好きにしていい。ただし正規の仕事でない以上、給料はあまり出してやれないし、お前たちの棟梁の説得は、自分でやれ。それと、やるなら十年は雨漏りしない、堅牢な作りにしろ。
――そんな条件でもいいなら、来ていいぞ」
数瞬ののち、爆発した歓声に、店の客たちが一斉にこちらを見た。
皆を解散させ、さて俺たちも、というタイミングを見計らうように、リトリィが店先に現れた。どこかで待っていたのだろうか。
隣のマイセルを見てふわりと微笑むと、ドレスの端をつまんで身をかがめ、礼をしてみせる。
「こんばんは、マイセルさん。お話は、ムラタさんからうかがっています。
――大工を目指していらっしゃるんですよね」
それに対して、マイセルが固い笑顔を浮かべた。
「リトリィさん、ですね。ムラタさんからお話は聞いてます。鍛冶屋、やってるんですよね」
マイセルの言葉に、リトリィは満面の笑みを浮かべて答えた。
「はい。先日、親方に認めていただけました。これでこの街で、ギルドの登録試験を受けることができます。やっと、ムラタさんのお役に立てるようになりました」
リトリィの笑顔はあくまでも柔和だが、それは先んじた者の余裕、というやつか。ただし、一歩も譲る気はない気迫も漂わせている。
先ほどまでの楽しい雰囲気はどこへやら。
胃の腑に冷たいものが走る。
「……そう、ですか。
わ、私は今日一日、大工としてご一緒させていただきました。まだ未熟だけど、建築士のムラタさんのお役に立つように、頑張ったつもりです」
やや厳しい、挑発的な目で、リトリィにかみつくマイセル。リトリィはその様子に、ふふ、と笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。ムラタさんのこと、今後も、よろしくお願いしますね?」
「――――!!」
マイセルが一歩前に出ようとしたとき、マレットさんがマイセルの肩をたたくと、リトリィに頭を下げた。
「帰るぞ、マイセル。
――嬢ちゃん。できの悪い妹ができたと思って、今後、よろしく頼む」
「お、お父さん!」
リトリィは、あいまいな笑みを浮かべたまま、答えなかった。
その態度はマレットさんも分かっていたようで、それ以上言わずにマイセルを引きずるように帰って行った。
二人が角を曲がるところで改めて礼をしたリトリィは、大きなため息を一つつくと、改めて俺に向き直った。
「お疲れさまでした、ムラタさん」
「あ、ああ……。リトリィも、お疲れ様」
どことなく他人行儀なリトリィに気圧される。
――ぱふっ。
胸に、軽い衝撃。
「リトリィ……?」
「……ムラタさんは、きっと、いろんな人にとって大切な人です。でも……」
胸に飛び込んできた彼女は、俺の胸元で、ぐっと、俺の服を握りしめる。
「でも、あなたの愛だけがほしい、それだけあればいい――そんな女がここにいることを、忘れないでほしいです……」
――そうだ。
彼女は、ナリクァンさんのところで、今日一日、働きづめだったはずなのだ。それなのに俺は、真っ先に彼女を、心からねぎらうこともしないで。
……自分の薄情さに、自分の頭を殴りたくなる。
そっと、彼女の髪を撫でる。
「……ごめん」
ゆっくり顔を上げた彼女の、
その薄い唇を、
長く熱い舌を、
むさぼるように。
――夜は、これからなのだから。
「あの、ムラタさん」
リトリィが、水差しを俺に渡しながら聞いてきた。
「マイセルさんのこと、……その、どうされるおつもりですか?」
リトリィの質問の意図が分からず、聞きなおしてしまう。
「その……マイセルさんを、お嫁さんに、されるんですか?」
盛大に水を吹き、むせてしばらく咳が止まらなくなる。
「ご、ごめんなさい! だって、その……マイセルさん、どう見たってその、ムラタさんのこと……!」
俺の背中をさすり続けるリトリィに向き直ると、不安にさせた俺自身への腹立たしさと情けなさを誤魔化すように、彼女の体を力いっぱい抱きしめる。
「……不安にさせたんだな?」
「い、いえ、その……!」
「ごめん……」
しばらくそのまま抱きしめていると、かすかな嗚咽が聞こえてくる。やがてそれは、号泣へと変わった。
「……ごめんなさい、もう、大丈夫、です」
しばらくして落ち着いたところで、答えづらいかもしれないと思いつつ、先ほどの言葉の意図を確認することにする。
「リトリィ、さっきの意味を教えてくれないか? 俺が、マイセルを、嫁さんにするって思っていたのか?」
「違うんですか?」
「リトリィを捨てて?」
彼女は返事をしづらそうに、だが、ややあってから頷いた。
「だって、ムラタさんのお仕事を考えたら、それが一番、いいのかなって……」
「みんなそう考えるんだな……」
うんざりして、ため息をつく。
首をかしげるリトリィに、瀧井さんにも同じことを言われた、と伝えた。
「親が姓持ちの大工と、そして設計。この二人がそろったら、この街では仕事上有利だろうってね」
マレットさんも、大方同じ考えだろう。
「わたしも、そう思います……。だから、マイセルさんがああ言って来たときから、ずっと、あなたを取られてしまうんじゃないかって、すごく、こわくて……」
「だから今夜も、あんなに積極的だったのか?」
俺の言葉に、頬を染め――かすかにうなずく。
「……赤ちゃんさえできれば、何を言われても、もう夫婦ですから……」
リトリィの言葉を聞いて、暗澹とした思いになる。
つまり、決定的な事実を得たいと願うほどに、彼女を不安にさせてしまっているということだ。
こうして二人きりの夜を、共に過ごしているというのに。
しかし、どうしてそこまで、不安がるのか。
「だって……マイセルさんは大工さんですから。ムラタさんのお役に立つに決まっていますし、姓持ちのマレットさんがいますから、お仕事だってすぐ舞い込んでくるはずです」
「俺は仕事のために妻を選ぶわけじゃない」
そこはしっかり釘をさす。
「瀧井さんにも言ったんだが、俺はリトリィを愛しているから、こうして今、抱いているんだ。リトリィにまでそんな見方をされていたなんて、俺は正直、ショックだぞ?」
たちまち彼女の顔が歪む。
――また泣かせてしまう。
だが、今回ばかりはわざときつく言ったのだ。泣いてもらった方がいい。
「俺はリトリィが好きだ。リトリィのためにこの世界で生きると決めたんだ。その君が、俺を信じてくれないというのは、俺は辛い」
案の定、彼女の淡い青紫の瞳が潤み、ぼろぼろと涙をこぼし始める。
「でも……でも! あなたはヒトで、マイセルさんもヒトで。――でもわたしは、獣人族です。
赤ちゃんだって、マイセルさんなら、確実に望めます。きっといっぱい産めると思います。でもわたしは、どんなに愛してもらえても、産めるかどうかすら、分からないんです……!」
俺の胸に顔をうずめ、首を振りながら、振り絞るように訴えるリトリィを、それ以上言わせまいと、強く、抱きしめる。
「だからなんだ? 君を選んだ俺の選択が間違っていると、そう言いたいのか?」
「だって! わたしは赤ちゃん、産めないかもしれないんですよ!? マイセルさんとなら絶対に手に入る幸せが、わたしが相手では手に入らない――」
最後までは、言わせなかった。
唇をふさぎ、力尽くで組み伏せた。
また、泣かせた。大いに泣かせた。
でも、髪を撫でながら、そこは謝らない。譲らない。
彼女を選んだのは俺で、彼女と共に幸せをつかむと決めたのも俺だ。
彼女を選ばせてしまったなどというような後悔など、絶対にさせるものか。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果
てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。
とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。
「とりあえずブラッシングさせてくれません?」
毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。
そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。
※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる